第9章-第117話 しゅうしゅう
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「えっ、なんだって?」
「だから、せっかく日本にきたことだし、かんこ・・・じゃなくて、我らのルーツをたどってみたいぞ。」
国王が、だしー言うな。異世界でバラエティーモノのヨウツブでも見ているのか?
しかも観光とか言ってる。俺が厳しい視線を向けると慌てて言い直したけど・・・。
スカイぺで見たエトランジュ様の顔は少しばかり、引きつっていたが休暇はまだあるらしく問題無いようだった。
ただお土産を要求されたのは困った。ツ▽ガリのクッキーとか神戸に行かないと手にはいらないじゃないか。『移動』を使えばいいのだろうけど・・・。
お土産を選ぶという楽しみまで取り上げられるとは・・・。それは、いつものことか。
・・・・・・・
実は、俺たちのルーツである初代国王のことは調べてある。住んでいたのは、静岡県焼津市だ。日本での調査をお願いしていたさつきからは、意外な事実を伝えられていた。
「えっ、修さん?」
鈴江がポカンとした顔でこちらを見る。豪徳寺家の遠縁にあたる。というか、豪徳寺が分家筋筆頭で橋家が本家にあたるらしい。
一橋徳川家ゆかりの某が原点らしく江戸中期に領地の管理をまかされていたとかいう話だったが、幕末のゴタゴタで記録が消えてしまったらしい。焼津市の名家として、地元では有名であり、ヤオヘーの大株主でもある。
ヤオヘーは一時期、国有化の噂もあったのだが橋家の上場廃止拒否の方針から断念している。
俺にしてみれば、いっそのこと潰してしまえと思うのだが、経済への影響が大きいというお題目の元、その実、一度手を出してしまったという国のプライドからどんな形でも再建させる必要があるらしい。
あらゆる流通業の会社から拒否された産業再生機構は、総務省を通じてZiphoneに新たな無線枠というエサをちらつかせて、支援するように要求してきたという。
Ziphoneにはそういった案件が持ち込まれやすいらしい。今までは、エサによる利益よりも少ない額にまで赤字を縮小させて生かさず殺さずという会社が傘下にはごまんとあるらしい。
今回ばかりは規模が大きすぎてその手も使えないということだった。
流通業は素人同然なので、手を出したくないのだが、策がないわけでは無い。アルドバラン公爵家所有の会社には、あの有名なハロウズがある。
あの歴史あるハロウズの日本法人とヤオヘーを合併させることでハロウズブランドの使用権を与え再建させようというものだ。
それには、橋家の同意がどうしても必要なのだ。
良い機会だ。鈴江を伴い橋家を訪れれば、門前払いにはされないだろう。
流石に国王の正装は、目立つので着替えてほしいとお願いするとあっさり了承を得る。マイヤーの耳もそうだが、俺が大げさに考えすぎなのだろう。
スーツを着たセイヤは凛々しい。初めて召喚されたときにも思った神々しさを放っている。とてもあんな中身とは思えないが、ある種のスーツフェチの女性なら卒倒しそうだ。
交通手段は、Ziphoneの社有車だ。黒塗りの高級車だから直接乗り付けても文句は言われないだろう。
同乗者は、セイヤと鈴江と幸子だ。それにアキエも鈴江から離れたがらなかったので騒がないことを条件に連れて行くことにした。
マイヤーやさつきも新幹線で追っかけてくるので本当ならそちらに乗って欲しかったのだが・・・。
アキエは鈴江が記憶喪失とわかっても泣かなかったが、今まで会えなかった鬱憤をはらすかのように、ベッタリとくっついている。鈴江も突然できた子供に臆することなく優しく接してくれているようだ。
「帰ってくれ!」
豪邸と言えば聞こえがいいが、巨大なボロ家と言っても差し支えない家の玄関から出てきた初老の男性の口から、聞こえてきたのは、剣もホロロな門前払いだった。鈴江のことを伝えても関係ないと言わんばかりだ。
ただこの人の目尻には特徴的な2つのホクロがあった。
やった! ラッキー!
「柳生さんですね。修さんからの伝言を伝えにやって参りました。」
「なぜ、私の名前を・・・なんだね。君たちはふざけているのかね。修坊ちゃんの名前を出していいと思っているのか!」
どうも、地雷を踏んでしまったようだ。怒気をはらんだ声を出してくる。鈴江も利用できないのであれば、細い線だがこの路線で突破するしかないのだ。
「子供のころ、瞼を怪我して15歳の時まで目が見えないと思い込んでいた柳生さんですよね。」
「あんた・・・なんで、それを、この家では修坊ちゃんにしか話していなかったのに・・・。まさか、本当に修坊ちゃんの知り合いかね。信じられん!」
何を思ったのか初代国王が書いた禁書には、彼が知った他人の過去の恥ずかしい出来事が綴られているのである。第1巻から第14巻までは日本人が、第15巻から第21巻では異世界で知り合った人のものが綴られていた。
どうも、恥ずかしい話を収集するのが彼の趣味だったようだ。




