第9章-第115話 けっこんゆびわ
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長い間、沈黙が続く。マイヤーはセイヤをにらめつけたままだ。
「本当なんですか? 私たちの行為を覗いていたのですか?」
「いや、あの、その・・・。」
「本当なんですね。陛下はトムに嘘がつけないですものね。」
彼らは長い付き合いなのだろう。相手の弱点もお見通しだ。しかも、ここ一番で使ってくるとは、お見事としか言いようがない。
「ああ、本当だのう。」
セイヤは諦めたようにつぶやく。
「どうせ、陛下のことだから、トムばかり見ていたのでしょうけど、酷いことしますね。」
「すまん。この償いは何でもしよう。」
おいおい、一国の王が空手形を切るなよ。
「その指輪は対になっていましたね。それを渡してください。」
流石に元宝物庫の管理者、そんなことまで覚えているんだ。だがなぜ?
「こ、これは・・・。」
そう言って無意識なのだろうがセイヤの左手の薬指にはめられた指輪を右手で隠そうとする。それでは、それだと白状しているようなものだ。
結婚指輪かよ!
いやいや、そんな習慣はチバラギ国に無いはずだ。きっと心臓に直結すると言われている左手の薬指が魔力を使うのに一番いい場所なのだろう。きっとそうだ。そうなんだ。
俺は変な想像を首を振って頭の中から捨てる。
「どうせ、それでトムの居場所を確認できたり、周囲の映像が見えたりするのでしょう? 早く渡して! それは正妻である私が持つべきものです!」
いやいやいや、いくらマイヤーだといえ、覗かれるのは嫌だ。
俺は、黙ったままでセイヤの傍に行くと手を差し出す。
俺には素直に指輪を引き抜き渡してくれる。
俺はそれを自空間に入れる。
「あっ。」
あ、じゃない。じゃないぞマイヤー。そんな悔しそうな顔をしても、絶対やらん。やらんぞ。
「マイヤーには、代わりにこれをやろう。」
お、お前・・・。
セイヤの首にかけられたネックレスに通されていたのは、捨てたはずの結婚指輪。
そう初めて召喚されたときに左手の薬指に付いていた鈴江との結婚指輪だ。
お前・・・なんていうものを・・・。
「これはトムの結婚指輪だ。トムの思いが詰まっているようだのう。この思いを昇華できるのはマイヤー、君だけだ。」
おいおい、そんなものはただのガラクタだ。ただの金属の塊に過ぎない!
それでも、嬉しそうに受け取るマイヤーを見たら何も言えなくなった。
それにしても、セイヤの体臭が染み付いたものを貰って嬉しそうにしているなんて、意外とセイヤに気があるのかもしれん。今度こそ、誰にも渡さないぞ!
そんな2人を見ていたら、フツフツと怒りがこみ上げてくる。
「さあ、お帰りはこちらです。」
いつの間にか結界の外に出ていた2人を俺が結界の中に押し込もうとするが、簡単には入ってくれない。やっぱり、力ではセイヤに負けるみたいだ。
そのまま、ソファーに座らされる。両脇を固められ膝の上にはアキエがこちらに向いて乗っている。
「パパ! 心配したんだからね。」
誰の言葉よりもアキエの言葉が胸に突き刺さる。しかも涙目だ。ひきょうだろ。それは・・・。
「ごめんな。」
そう言って頭を撫でると不満げな様子だ。膨れっ面も可愛いなあアキエは。
「ひとりぼっちになっちゃったと思たんだから。」
アキエの瞳から涙がポロポロと落ちていく。少し前までは、エンエーンとかいう泣き方だったのに、成長しているんだなあ。
「それは違う。アキエには、エトランジュ様もマイヤーもいるだろ。それにセイヤおじちゃんも侍女のお姉さんたちも。いつだって、アキエに頼って欲しいと思っているさ。なあそうだろう。」
周囲のマイヤーとセイヤを見回しながら言うと笑顔で頷いてくれる。
「でもパパ、いなくならないでね。」
アキエは俺の言葉に何かを感じたのか。そんなふうに返してくる。鈴江が大統領を通して何か言ってくれば、アキエを預けざるを得ないだろう。
「嫌だよ。」
どうも不安が顔に出ているらしい。商談相手なら、鉄壁のポーカーフェイスなのにアキエの前では、なさけない父親の姿になってしまう。
「う、うん。大丈夫だ。決していなくならないさ。でも、80歳で勘弁してくれないかな。」
「嫌よ。私よりも前に死なないで!」
横からマイヤーが口を挟んでくる。それはいくら何でも無理というものだぞ。エルフと人間は10倍以上寿命が違う。俺が死にぞこないのじじいになったころにようやくマイヤーは少女期を終えるのだ。HPとMPを増やして延ばせる寿命なんか微々たるものだ。
「そうだのう。トムが引退したあかつきには王位を譲ると考えるとそこから50年は在位してもらわないとな。」
お前、まだ諦めていなかったのか。
「無理だ。もうお前の臣下なんだからな。」
「臣下でいいんだな。後悔しないな。」
何を急に言い出すんだか。
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