第4章-第24話 ちゅう
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「KISSを所望するのう。」
あんな話を聞かされたあとであったため。一瞬、俺がキスしろというのかと口走りそうになったが、チョコレートのことであった。
昔は輸入雑貨の店が少なかったせいもあって、なかなか手に入りにくかった。今はショッピングモールに1つ、地下街にも1つくらいは存在するので手に入れてくるのは容易いだろう。
それに釣られたのかエトランジュ様は、超有名ショコラティエのチョコレートを所望された。だんだん、贅沢になってくるな。
・・・・・・・
ミスリルとオリハルコンのインゴットを渡した会社から解析に成功したと連絡があった。
その後ニュースでその会社の新素材が話題となり、株価が急上昇を続けている。この会社の株は子会社化するのに十分な数を取得しているので、会社の分は置いておき、個人名義分からすこしずつ売って資金を調達している。
俺が出向くと経営陣を代表して社長からお礼の言葉があり、借用書と引き換えに優先株を手渡された。
随分と前来たときと待遇が違う。以前はほとんどヤクザ扱いされたからな。これで、この会社の株式を会社名義と俺の個人名義で合計79%を取得したことになった。
「このミスリルなる金属の特性は、世界でトップクラスの硬さを持ちながらも、柔軟性を持つというものでした。この金属の登場により硬質な金属を必要とするものは、すべてこの金属に置き換わる可能性を持ちえています。」
「特許は取れたか?」
「はい。問題なく、世界中で取得しています。しかも、この金属への問い合わせが急増しております。このニュースが流れたあと、株価もストップ高の連続で既に以前の最高株価の2倍に達しております。新工場建設については、銀行も重い腰を上げてもらいました。」
「待て、新工場建設資金はいくらだ?」
「およそ、100億円と試算しております。」
「ならば、半分は俺宛に第三者割り増し増資を行えばいい。」
その資金は、フィールド製薬株で出た利益を充てるつもりだ。すでに、含み益は50億円を軽く上回っているからな。
「わかりました。早速手配致します。これで銀行からの融資の条件も無理せずにいけます。」
「手付けは10億円でいいか。これだけあれば機材の発注とかは直ぐにでもできるだろう。銀行からはせいぜい有利な条件を引き出せ、最悪全額を俺の方で賄うこともできるからな。」
俺は後で財務担当と銀行に行きに確認してもらい。借用書を切ってもらうつもりだ。
「こちらのオリハルコンも解析は終わっているのですが、いまいち、特性が解らなくてですね。」
「ああ、そちらは鍛造に向いている金属で、強い力で鍛えれば鍛えるほど硬くなると聞いている。おそらく、ミスリルの数倍は硬い金属ができあがるはずだ。」
「ミスリルの数倍ですか、それはすごい。間違いなく世界一硬い金属になりますね。」
「どこまで鍛えられるかは、お前さん達の腕の見せ所だ。頑張れよ。期待している。」
「それでミスリルとオリハルコンのインゴットを10個ずつ用意しておきました。これだけあれば、よろしいですかな。」
「ああ今のところ、それでいい。元の1つ分を除いた9個ずつの代金は幾らかな?」
「それが製造原価が1つ1000円で、技術料を足しても3000円なんですよ。ですから、さきほど用意して頂いた資金の利息にも足りません。どうぞ、お持ちください。」
「そうか。では、頂いていく。」
・・・・・・・
メッツバーガーも順調な滑り出しだ。1日OJTを行えば、そこそこできるようになるのだから、うちのアルバイトは皆優秀だ。まあ、メッツバーガーの教育システムが優秀なのかもしれないが・・・。
足らなくなった人員を100円ショップ側で補充する。宣伝文句は「あなたもメッツバーガーで働けるかも。」だ。5名の求人に50名の応募があった。
これまでは、なかなか集まらなかったアルバイトだが、さすがに大手バーガーチェーンのブランドは違う。きっと、他の店では容姿で採用を決めているところが多いのだろう。CAでもあるまいし・・・。
うちは複数の職種をこなす必要があるから、やる気中心だ。応募してきたアルバイト達にもそう言ってある。皆、やる気の塊のようだ。
100円ショップ初の社員が誕生する。相馬君だ。契約社員だが、厚生年金、健康保険といったものは当然として、福利厚生も近くの商工会議所の主催するものに加入した。この近くの温泉旅館やレジャー施設が大幅に割引される。もちろん、健康診断もその商工会議所主催するものだ。
相馬君の彼女を採用した。前の職場は経営が傾き、解雇されたもののそのままアルバイトとして働いていたらしいので、そのまま契約社員になってもらった。
総務の経験があるそうなので、総務を担当してもらっている。そう言っても、今まで使ってきた会社関係のソフトウェアを組み込んだパソコンを手渡して説明しただけなのだが。
「社長、このスミス金属株というのは、なんですか?」
「ああ、それは、うちの子会社だよ。」
「えっ今、ニュースになっている会社ですよね。そんなところが、うちの子会社なんですか?」
「そうだよ。あの会社は知り合いでね。株価も底辺すれすれの時があったんだよ。10億円ほど貸し付けているし、今度、第三者割り増し増資も引き受ける予定なんだ。」
「そこまでですか・・・。そんなの私に処理できませんよ。」
「ああ契約自体は俺宛だから、会社の仕事ではないね。仕分けだけしてもらえば十分だよ。そうだな、君の知り合いで総務や財務ができる人はいるかな?」
「はい、沢山います。ですが、ほとんどは正社員希望ですよ。アルバイトは希望しないと思います。」
「まあ、できるかぎりで構わないから声を掛けてくれるかな?アルバイト雇用、契約社員雇用は俺の方針だ。頑張れば正社員も夢ではないというのが俺の会社の特徴としたいところだ。」
「でも、うちの旦那みたいなんでも契約社員にはなれるんですよね。」
「ああ、子供が生まれるのにアルバイトでは健康保険とかが可哀想だからな。それに子供は保育園に入れるのだろう。」
「はい、私も大事な労働力ですから・・・。」
「ならば余計に契約社員にしておかないと、入園資格で問題が発生しかねないんだよ。なんか間違っているよね。アルバイトで収入が低い人が優先されないなんて・・・。」
「そうなんですか。そこまで、気が付きませんでした。」
彼女は保育園に入れなかった場合を考えたのだろう。急に不安そうな顔をしだした。
「大丈夫。全部、俺が引き受けるから。最悪、ここに託児施設を作ればいいと思っている。そうだな。将来に備えて、FC契約をするか・・・社員には優先的に使ってもらえるような値段設定で・・・。そろそろ、社屋も作ったほうがいいかな。そうだ、そうしよう。」
「そんな私達のためにそこまでしてもらっても・・・。なにも、お返しできないです。」
「もちろん、返してもらうさ。君たちがプロトタイプなんだ。実験なんだ。リスクもあるし、アイデアも出してもらう。でも、こんな働き甲斐がある実験なんて滅多にないぞ。どうする辞めるか?」
「もちろん、やります。やらせてください!」
「まあ、あまり無理をするなよ。君の一番大事な仕事は、元気な子供を産むことなんだから・・・。」
「はい!もちろんです。」
ふう、やっと笑顔がみれた。
次は社屋、そして保育所のFC・・・。




