第8章-第113話 みもの
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そこは、周囲を壁で覆われており、その一角にポツンとモデルルームが建てられている。建物どころか土台作りもまだだ。
空間魔法でそのモデルルームごと、土台のある地下50メートルほど敷地内の全てを切り取る。まだ配管工事は済んでいないから気楽だ。
何度かフランチャイズ店舗の入れ換えを行っているのだが、手違いで水道が止まってなくて、水を嫌というほど浴びた。ガスは店舗の場合、プロパンが多く取り外すだけで完了するし、電気は業者に頼むので問題無いのだが・・・。
ひとりで切り取った土地の底に『フライ』で飛び降りる。
反転魔法陣を設置する。モデルルームを中心とした半径1キロメートルの円の中が最大範囲だ。今はモデルルームの一室を使ってもらうが将来建つマンションの一室に住んでもらいたいと思っているのだ。
近隣のコンビニエンスストアなら気楽に行けるだろうが、このマンションの敷地内が有効範囲と言っておこう。油断して有効範囲外出てしまっては何もならない。
マンションは地上250メートル。耐久性向上の魔法陣を使えば、地上1キロメートルでも可能だが、まず認可が降りないだろうから、既存の高層マンションの構造を踏襲した形にした。そうすれば楽に認可が降りるからだ。
今必要と思う魔法陣を重ね貼りする。そして、その上に先ほど切り取ったモデルルームを載せる。モデルルームの壁に穴を開けて銀行の貸金庫から取り出した宝玉をねじ込む。
「この宝玉に魔力を投入してくれないか。」
使用者の最大MPの7倍を貯蔵できる宝玉だ。
「きゃあ、痛~い。」
「悪い! 言い忘れたが最大MPの半分くらいで良かった。」
「早く言ってくださいますよ。何ですかこれは、魔力がいくらでも入っていく・・・怖い。」
俺がレアのMPポーションを手渡すと睨みつけてくる。君の方が怖いよ。
この宝玉に貯められた魔力は少しずつだが漏れて下に落ちていく。それが仕掛けた魔法陣を維持することになる。維持だけならば、おそらく、渚佑子の最大MPなら1年は持つ筈だ。
つまり、この宝玉の下は異世界と同様に魔力に満ちた状態になっているということだ。しばらく待つと魔法陣の準備が整った。これで準備はOKだ。
後は、俺が敷地外に出て、そこから渚佑子に向かって召喚魔法を唱えれば、俺がこの敷地内に飛んでくることになる。
あっそうだ。ついでに魔力切れになっている指輪に魔力を投入しておこう。
宝玉から漏れ出す魔力なら入るかもしれない。俺は、宝玉の下に手を差し入れながら、次に使うべき魔法陣を思案する。
「社長! そ、それ!」
突然、渚佑子が大声を出す。
目を開けると指輪が青白く光っているではないか。なんだ? 指輪が壊れた?
そのときだった。反転魔法陣から警告が発せられる。召喚魔法が使われたので早速、反転動作を実行するということだった。警告はあくまで警告であってキャンセルはできない。
この警告を何かに接続することはできるだろうか。いちいち俺に警告されたのではたまったものじゃない。魔道具職人の大家さんに今度相談してみよう。
あれ? 何か忘れているような・・・。
「あっ、パパだ!」
モデルルームの奥から現れたのはアキエだった。
アキエは俺に向かって飛び込んでくる。随分大きくなったな。
「ここはどこだのう? トム! 生きていた! マイヤー! 生きていたぞ。」
セイヤが現れる。なんのことだろう。向こうの世界から帰ってきたときにはさつきがスカイぺで一報を入れたはず。しかもマイヤーまでいるのか?
「ですから、言ったでしょ。そんなに簡単に亡くなるはずがないのよ。」
さらに奥からマイヤーが現れた。どうしたのだろう。あのクールな瞳はどこいった。泣きはらしたように落ちくぼんでいる。
セイヤが知らせたのだろうか。もう誤報を訂正に異世界まで走り回らなきゃいけないのか? もう面倒なことをしてくれるセイヤめ。
「何を言い出すのだのう。マイヤー、お前が一番大騒ぎだったじゃないか!」
「何ですって!」
マイヤーの目がつり上がる。こんなところで喧嘩をおっぱじめないでくれよ。まあいいか。しばらく見物していよう。
俺は、アキエと渚佑子を連れて、端っこのソファーに腰掛ける。中心付近には、結界の魔法陣が効力を発しており、俺か渚佑子がこちら側に引っ張り込まない限り、出られない仕組みだ。
まあ、50メートル下の魔法陣に気付き解除すればいいだけだが、普通は気付かないだろうし、50メートル掘るのも大変だ。
目の前でセイヤが逃げ惑い、マイヤーが攻撃する姿を見物する。異世界でも頻繁にマイヤーを怒らせて、追いかけっこしている姿を見ているせいか。いまいち緊迫感がない。
セイヤもマイヤーの攻撃を紙一重で避けていく。完全に頭に血が上っているマイヤーの攻撃が単調なせいもあるが、年齢のわりにはよく動く身体だ。




