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第8章-第109話 おとこ

お読み頂きましてありがとうございます。

「倅も昔は、あんなふうじゃなかったんだがのう。40歳まで放って置いたが目が出なかったので作詞家の夢を諦めさせたのが悪かったのかもしれんのう。」


「それは、本人次第じゃないでしょうか。別に諦める必要は無かったんです。仕事の合間にも少しずつ諦めずやればいいだけの話なんです。40歳を過ぎてから大成する人間もチャンスを掴む人間も沢山います。」


「そうじゃろうか?」


「それに人生経験の積み重ねが良い歌を作れるということにも繋がるでしょう。そういう意味では40歳まで放って置いたのが不味かったのかもしれませんね。」


「そうかもしれんのう。」


「お孫さんは上手くチャンスを掴みましたが、これからの努力次第で変わってくるでしょう。息子さんの言うように堅い職業の方に貰ってもらうのが幸せなのか、自分で道を切り開いていくのが幸せなのか死ぬまでわかりませんからね。」


「そうじゃな。その通りだ。」


「ですから、息子さんから仕事を取り上げてはダメです。よく話し合って双方が納得できるまで話し合ってください。親子なんだからできますよ。いくらでも、取り返しがつきます。生きているんですから・・・。」


 ふと、このとき、洋一さんの弟のことを思い出した。本当にあれで良かったんだろうか・・・。


 スマホを返すと2・3会話が交わされたようで、加納さんは頭を下げて帰っていった。


・・・・・・・


「めずらしく落ち込んでいるんだって?」


 その日の午後、何処も行く気になれず、社長室に篭っていると一番顔を合わせたくない人物がやってきた。洋一さんだ。


「そんなことは無い!」


 誰かに心配かけてどうするんだ。もっと強くなれよ。洋一さんだけには気付かれたく無い。そう自分に言い聞かせて、極力明るく言ったつもりだった。


「今回も上手く切り抜けたそうじゃないか。」


「たまたま、ついていただけさ。」


 頑張れ俺。今こそ上手く切り抜けたいんだ。動揺するな俺。


「それにしては、浮かない顔をしているよな。そんなんだから、俺のところまで話が回ってくるんだぞ。」


 今日、そんな顔をしていたのか。自業自得っていうやつだな。皆、心配してくれているんだ。後ろを振り向くのも、いい加減にしないとな。


「少し疲れただけさ。」


「そうかぁ。わかったぞ。」


 ギクッ。態度にでていたのか?


「女には言えない話だな。いくらでもつきあうぞ。さあ、飲みにいこうぜ。」


 バレていないようだ。ふー。でもピンチには変わりは無い。


「俺、まだ仕事が・・・。」


「おいおい、らしく無いぞ。もう定時を越えているのに仕事か、いつもメリハリをつけて仕事しろと口を酸っぱくしている男が・・・。」


「もう定時か。」


 思わず漏らしてしまった。気付かれたか?


「・・・わかった。仕事を持ち込んでも怒られないところを紹介しよう。」


・・・・・・・


「ここは・・・。どこかで見たことがある。」


「それはそうだろう。ついこの間じゃないか。お互い泥酔だったものな、ろくに覚えていないか。」


「そうか。ここは賢次さん行きつけのお店。それがなんで洋一の?」


 しかも無理がきくお店ということは、入り浸り?


「なんでもいいだろ。さあ、入ろうぜ。」


「いらっしゃいませ、何だ洋一かよ。」


「・・・よし誰もいないな。貸切にしてくれ!」


 目の前のバーテンダーは俺と同じくらいの身長だ。なんか、どこかで見たことがあるような気がする。いや、前に一度来た時に顔を合わせているはずだが、そのときはもっと違う印象だった。


「入ってきていきなりそれかよ。へーへー、ありがとうございます。やっぱり似てやがるな。」


 俺はその言葉を聞いてようやく理解する。なんとなくだが、俺に似ているのだ。世の中には同じ顔が3つあるというが、その一つに出会えた感じだ。


「そういえば、あのときはお世話をおかけして申し訳ありませんでした。お店を汚してしまいませんでしたでしょうか?」


 悪酔いしたときに、うっすらとどこかで吐いてしまった気がするのだ。


「ああ大丈夫だ。吐きそうになっていたけど、ほとんど量は出なかったから・・・。」


 どうやら、無意識にそれをトイレに『移動』させたらしい。


「全く賢次のやつ、あんなモノを俺の店の中で使いやがって。お前さんこそ大丈夫だったのか?」


「ええ、あの後直ぐに効果は消えましたので夜が明けきらないうちに戻れました。」


「犬に噛まれたと思って忘れたほうがいいぞ。」


 なんのことだろう。


「・・・なんのことでしょう?」


「・・・大丈夫だったら、いいんだ。」


「洋一、浮気はほどほどにしておけよ。」


「な、なんのことだ?」


 これだけツーカーの仲なんだ。ただの友達じゃあるまい。


「こちらのお嬢さんといい仲なんだろ。言いつけるぞ、全く。少しは自重しろよ。」


「ご、誤解だ。こんな男女なんか好きじゃ無い!」


「傷つくなあ。洋一って俺の顔、嫌いだったんだ。こんなにそっくりなのに。」


 俺は、彼女の傍に近付いて隣に並ぶ。


「そうか? あの夜は激しく俺を求めてくれたじゃないか。」


 洋一さんは彼女の好みのど真ん中なんだそうだ。それでお持ち帰りされたらしい。驚くだろうな朝起きたら、俺そっくりの裸の女性が隣に寝ていたら。


 案の定、俺の名前を呼びながら、揺さぶり起こされたらしい。


「なんでわかったんだ。俺が女だってこと。今まで初対面の奴にはバレたことなかったのに・・・。」


「骨格かな。」


 本当は指輪の『鑑』でわかったんだが、適当なことを言っておく。



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