第8章-第104話 さくせん
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「フランシス軍曹、隊長はIRAに非常に恨まれているようだが?」
あの火炎放射器を持った男が言った言葉が非常に印象的だったのだ。
「1980年代のIRAの裏をかいた作戦のほとんどが隊長の立案でしたので・・・。隊長は狙いやすい標的を用意して、そこに戦力を投入して確実に戦闘員を減らしておりました。悉く戦闘員を失ったIRAは和平交渉に踏み切らざるを得なかったと言われております。」
あの温厚そうな紳士がなあ。
「そうすると隊長だったら、今回の事件でIRA過激派を殲滅するのだろうな?」
「そうであります。」
ドーン。
そこまで話を聞いたところで、外から爆発音が聞こえてきた。
「あそこに幹部が・・・。」
幹部を捕らえた建物が爆破されたようだ。IRA過激派グループが早速、奪還作戦を敢行してきたらしい。それだけ、捕らえられたら幹部が重要な存在ということなのだろう。
俺は、アルドバラン公爵の姿で紐パンに魔力を投入して、『移動』した。
爆薬は大したことはないらしく、建物の壁に穴が開いただけのようだ。
今度こそ順番を間違えない。逃げていく敵は放置して、負傷した近衛兵たちを見回った。2名ほどの重傷者にポーションをこっそりと振りかける。もちろん軽傷者には使わない。つい使ってしまうが本来極秘扱いのものだ。
「追わないのですか?」
後を追ってきたフランシス軍曹に指示を出す。
「ああ、常に捕捉しているから大丈夫だ。」
接触のあった人物は空間魔法で100キロメートル四方なら捕捉可能だ。これだけのテロをやろうというのだ準備を誰にも気付かれずに十分な時間を掛けてやったはずだ。ということは絶対にこの近くに拠点を構えている筈なのだ。
「それでは、それとなくまかれた振りをして部隊を引き上げさせましょう。」
例のイスラム過激派組織での作戦で俺の能力を把握しているフランシス軍曹は、そう提案してくる。
「定期的に情報を流すからMI6に見張らせろ! 後は拠点に辿り着いたところで雪辱戦だ! 今回は徹底的に叩いとけ。俺は任務に戻る。」
「参加されないので?」
「ああ、そうそう君たちのお株を奪うわけには、いかないからな。」
本来、指揮官は現場に出ないらしいからな。
「それで本音は?」
「うっ・・・まあ、俺が出張るとやりすぎるだろ。今回は自制が効かない気がする。」
珍しくフランシス軍曹は真っ青になる。彼の頭の中ではいったいどんな風景がえがかれているんだか。目の前で近衛兵たちを2人も失っているのだ。今からでも飛び出して行って奴らを恐怖のどん底に落としてやりたい。
怒りに燃えた頭では状況判断を間違えてしまう。こういうときは外部から指示するべきだろう。
「そ、そうですね。それがよろしいかと・・・。」
「フランシス軍曹! IRA過激派グループ殲滅作戦の指揮を命じる。よろしく頼むぞ。」
「ハッ。」
・・・・・・・
その後、観客はほとんど居なかったが無事競馬の表彰式が行われ、帰宅の途となった。もちろん、帰り道も馬車だ。
バカバカしいとは思うがテロには屈しないというデモンストレーションだという。帰り道はさすがに幌を開けはしないようだがケント王子の姿である必要がある。
馬車の中は女王陛下にフランシス軍曹への連絡役として乗り込んで来たジェミーに幸子と鈴江だ。きっと気が立っている俺への配慮のつもりだったのだろう。
だがなぜか俺は陛下に膝枕をしてもらっている。移動する人間を捕捉しながらの馬車の旅は結構きついのだ。かなり酔う。皆さんの会話にもはいれないので、幸子に膝枕をお願いしたのだが・・・。
幸子たちが視線を交わしたと思ったら、いきなりジャンケンが大会が始まる。
うっぷぅ。
こっちは気持ち悪いんだがねー。
うっ。ふー。
早く決めてくれませんか?
うぐっ。
3回勝負じゃなくてもいいじゃん。
ぐぐっ。
いい加減にしてほしいなぁ。ただの酔いなら水魔法で直すんだが・・・。捕捉している最中じゃ他の魔法は使えない。
あ。敵さんが止まったぞ。
よしっ、今のうちだ。ふー、楽になってきた。心臓から脳に向かう血流がおかしくなっているらしい。
あ。ようやく、決まったらしい。女王陛下か。いまさら、もういいですなんて言えるわけ無いよな。
というわけで、素直に陛下の膝を借りているのだが・・・。
時折、敵が止まる。人通りの多いところで休憩しているようだ。ワザと少人数の兵を派遣して、相手に考える時間を与えないようにする。
そのうち、嫌でも拠点に案内してくれるだろう。
目を閉じながら捕捉に集中すれば、気持ち悪さは和らぐようだ。




