第8章-第97話 やくそく
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普通の樹木を植えて地中奥深くまで根をはわせるのが幸子の担当なら、樹木のクローンを作られたとしても、問題にならないだろう。
基本的にはフィールド製薬の子会社に遺伝子操作を専門に研究するところがあるので、そこに出向という形にするつもりだ。アメリカよりもさらに研究が進めにくい日本を嫌ってアメリカに設立されている会社があるのだ。
そこに幸子の人件費とは思えない金額が収入として入ってくることになるという。
「もちろんだとも、予算のうち3割は回せる。競争相手もいないが競争入札という手段を取らせてもらうことになるだろう。入札した会社のうち、一番深くまで根をはわせた会社が落札することになる。」
国家予算で組まれた研究費のうち3割なのだ膨大な金額になるのも頷ける。直接的に入ってくる収入は幸子の人件費だけだが、アメリカの国家プロジェクトを落札したという実績がフィールド製薬の株価を押し上げてくれるに違いない。
そうなれば、山田ホールディングスの資産が膨らむことになる。という寸法だ。
当然、幸子はVIP待遇だ。ホワイトハウスの部屋を与えられるという。もちろん、SPの警護対象だし、私生活でもさつきがアメリカで設立した会社の人間が張りつくことになる。
目の前で行われている各種条件は問題ないようだが本人は目を白黒させて聞いている。本当にわかっているのだろうか?
「およその条件は、そんなものだが幸子は何か言いたいことがあるか?」
「えっ! 通訳はいないの?」
おいおい、お前今まで大統領と通訳無しで会話していただろうが・・・。そうセイヤの召喚魔法に含まれる言語疎通能力で通じていたのがわかっていなかったらしい。俺が耳元でそう教えると真っ赤になっている。
・・・・・・・
大統領がエアフォースワンのタラップから降りていくのを見届けるとその隣に全く同一機種の機体が横付けされる。どうやら、別航路を使い、副大統領を乗せたエアフォースツーのようだ。
副大統領は、大統領予備選に敗れた保守党の対抗馬で大統領より10歳以上年上だったはずだ。顔だけはにこやかだが、悪感情を抱かれているのは指輪の『鑑』でみてわかっているので少し苦手な人物だ。
彼の視線を追えばすぐわかることだが有色人種が嫌いな類の人物なのだろう。きっと頭のなかでは、ジャップとかイエローモンキーとか言いたいのだろうがそれをねじ伏せ、笑顔を返してくるのだから、凄いとしか言えない。
機内の荷物を纏めると、幸子と鈴江を連れ、エディンバラ宮殿のヨークハウスに与えられてはいる一室に『移動』した。
・・・・・・・
「それでどうなったんだ?」
俺は意を決して鈴江に聞いてみた。
「何がどうするって? このまま貴方の挨拶まわりに付き合って私の子供に会うんでしょ?」
「大統領に頼まなかったのか? パ・後見人になってくれって? そうすれば、もう俺の力を借りなくてもやっていけるだろう?」
俺はパトロンと言いかけて慌てて言い直す。
「失礼ね。私は約束は守る主義なの。それとも貴方が約束を守らない気なの?」
教会で神の前での誓いは破られたけどな。そういえば、それ以前は約束は守るほうだった。
冬場風邪をひいていても待ち合わせの時間前に居て、熱に浮かされたピンク色の顔をしている彼女を慌てて部屋に連れて帰って看病したことを思い出す。約束を守るというよりは、何か信念を持って行動している感じがした。
「いや、そんなことは無いが・・・。いいのか?」
「いいのよ。子供とちゃんと顔を合わせておきたいしね。」
「そうか・・・。」
まあ、約束を守ったあとに大統領かファーストレディに連絡を入れるのだろう。それで第二の人生を歩むのかもしれない。そこには、俺もアキエも居ない世界なのだろう。
俺はズルい男だ。鈴江の記憶が無いことをいいことにあえて話題に上げずアキエを彼女から取り上げようというのだからな。
ついに最後までソレを口に出せずじまいだった。卑怯なのはわかっているさ。でもそれが心のよりどころなんだから・・・しかたがないじゃないか。
トントン。 通路に繋がる扉がノックされる。
扉を開けてみるとケント王子とアルドバラン元公爵が立っていた。
なんだろう。約束したのは元公爵だけだったはずだ。嫌な予感しかしない。
「やあ、無事でなによりだ。」
ケント王子と握手を交わす。
「元公爵とはソコで会ってね。君がこちらに来るとわかったので付いてきたのさ。賢次さんのところへ送ってもらおうと思ってね。」
どうやら、思い過ごしだったようだ。
「今日の公式行事は参加しなくても宜しいのですか?」
わざわざ、アメリカ大統領が来るぐらいの行事なのだ。てっきり、ケント王子も参加するもんだと思っていたのだがな。
「もちろん、参加するさ。君が僕の姿でね。」
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