第8章-第96話 てくのろじー
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ようやく、ヒースロー空港に到着する。
後部ハッチから観葉植物を引っ張り込んだので空飛ぶホワイトハウスはジャングルのようになっているが我慢して貰う。
このまま、ホワイトハウスまで持って帰って植えかえるという、研究機関に渡さないことを条件に了承する。これらの植物に付与された火耐性や風耐性は一代限りで子孫に受け継がれないことはわかっているが、アメリカのクローン技術でコピーされないとも限らない。
そのまま一国に持たせるには、少々オーバーテクノならぬオーバー魔法だろう。そこは慎重に交渉した。無償提供になってしまうが仕方がないと思ったのだが・・・。
「彼女を貸してくれないか?」
大統領の狙いはわかっている。幸子を気候変動枠条約に利用しようというのだろう。京都会議は日本が主導したが実行できず、パリ会議はアメリカが主導したが目標数値の達成にはまだ長い道のりだ。
「幸子、勉強してこないか?」
幸子の能力でも地球的規模の温暖化対策を行うのは難しいがデモンストレーションとしては最適だし、これに希望を見いだせば、各国の技術開発は活発になるに違いない。
それに今会社は外から人を入れることでなんとか回っているが、できれば生粋の従業員が活躍してほしいのだ。それには、まだまだ経験が浅い。オープン決して表舞台に立たせられないが、アメリカ大統領の直属の部下として経験が将来きっと役にたつはずだ。
「嫌よ! そう言って私を遠ざけるつもりでしょ。そうはいかないんだから。」
幸子は何か誤解しているようだ。
「そんなことは無い! アメリカに来たら必ず立ち寄る。」
「もしかして、あれから手を出してこないのは、さつきの傍にいるからなの?」
幸子と関係を持ったのは、あれ1度きりだ。添い寝はしてもらっているが、流石に心理的ストップが働いているようなのは確かだ。
「そうかもしれないし、違うかもしれない。」
「煮え切らないのね。」
「ああ、我ながらそう思う。」
「仕方がないわね。アメリカに来たらねだるわよ。それでもいいの?」
「アレか?」
「そうよアレ。だって貴方の子供が欲しいもの。」
幸子が思いもよらない答えを返してくる。幸子まで俺に種馬としての役割をもとめているのか?
「子供か? 子供を作るつもりなのか?」
「失礼ねぇ。私もまだまだ現役よ。それにね。貴方には子供が必要なの。言っている意味がわかる?」
俺は首を振る。皆目見当がつかない。
「貴方の愛情は大きすぎるの。一人で受け止めるには大きすぎるのよ。従業員はいいわ、あれだけの人数で分割されるから。異世界の奥様たちもいいのよ。でもさつきが日本で一心に受け止めて返してあげたいと思っても難しいのよ。」
「そんな・・・返して欲しいなんて・・・。」
「そうね。でも女は返したいのよ。本当は受けとった以上のものを返したいのだけど・・・。主な原因はアキエちゃんね。アキエちゃんに注ぐべく育った愛情が溢れているのよ。溢れて壊れそうに見えるのよ。わかる?」
「だから子供なのか?」
「ええ、1分1秒でも惜しいのよね。日本でどれだけ誘惑しても無理なら、アメリカならば、ましてや仕事の報酬なら断れないでしょ。だから、引き受けることにするわ。」
「話は纏まったかね?」
俺たちのやりとりを静観してくれていた大統領が俺たちの顔をみてつぶやく。
「ええ、さつきの結婚式の翌日にはたつわ。しばらくは新婚を楽しんでらっしゃい。でも、最低限月に1度は訪ねて来るのよ。わかった?」
俺が幸子を手放す。そんなことができるのか? いやいやそうじゃないだろ。なんか頭がぐるぐるしている。
「あ、あ・・・。」
大統領の計画では、テキサス州の国定公園にある荒野を一面森に生まれ変わらせるのだという。普通の樹木では、まず根を張らないらしい。
そこで幸子の能力を使い地中奥深くまで根を張らせることで水を吸い上げる。そうすれば、自然と周囲は草原となり、さらに普通の樹木を植えることで森にするという壮大な考えを聞かされた。
「実は、この計画は何十年も前から研究されてきたのだよ。本当は、遺伝子操作による強靭な植物を作り上げる予定だったのだが、知っての通り植物に対する遺伝子操作は、タブーになりつつあるのが現状なんだ。」
誰も研究したがらないせいで頓挫してしまっていたのだという。まあ、あれだけアニメーションや映画で遺伝子操作の末、意識を持ち人間に害を為す物語が氾濫していれば、恐怖心を持つのはわからないではない。
だが、人間の病気に対する遺伝子操作は歓迎され、植物は食べるのも嫌などと思うのだろう。遺伝子操作されていようがいまいが只のアミノ酸になってしまえば同じだろうに。
よっぽど、人間に対する遺伝子操作のほうが怖いと思うのだが・・・。人間には個人差がある。医薬品でも欧米で商品化されたものが日本でそのまま使えなかったり、数多くの臨床試験を通っても副作用で死ぬ人がいるのだ。
多くの実をつける植物やどんな環境でも生き延びる植物を開発できれば、アフリカ諸国の飢えている人たちを救えるというのに・・・。
アマゾンのご予約ありがとうございます。
昨日昼過ぎに確認した際にはラノベで786位でした。
うーん、いまいちよくわからない順位ですね。
とにかくゼロじゃなかったことにホッとしております。




