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第8章-第92話 ちぇっくめいと

お読み頂きましてありがとうございます。

 ホワイトハウスの一室に確保してもらっている場所に『移動』する。


「これは、トム殿。ようこそ、いらっしゃいました。大統領がお待ちです。」


 俺たちがボディチェックを受けていると補佐官が出迎えてくれる。


「うわーー、本当にホワイトハウスだ。」


 幸子も鈴江もおのぼりさんのごとく、辺りを見回している。鈴江は当然だが幸子も精々が某エリアのアメリカ軍基地くらいでこういうところには連れてきたことは無かった。


 まあ普通は一生に一度あるかどうかだ。周囲の人間もそういった反応には慣れているらしい。


 執務室の前まで来て入るのを渋る幸子をなんとか宥めて、扉を叩く。


 SPの方だろうか、扉を少し開けて俺の顔を確認すると扉を全開にしてくれる。


 笑ってはダメだろうが幸子の方はギクシャクと左右の手と足が同時に出ている。それに引きかえ、上流階級出身だったせいなのか鈴江は臆することなく進んでいく。


「ニコル・・・。本当にニコルソンなのね。」


 どういうことだろう。鈴江は大統領と面識があるようだ。彼女は18歳までの記憶しか持っていないはず。ということは、それ以前に会ったことがあるのだろうか。


「こんなところで我がマドンナにお会いできるとは・・・、しかも記憶をなくしておいでとお聞きしていたが、私のことを覚えておいでとは。神よ、感謝します。」


 マ、マドンナなのか。俺は背筋が凍りつくのを感じた。


「あれから2年、いや17年が過ぎているのよね。ま、まさか・・・、大統領に上り詰めているとは思わなかったわ。トンプソン家の3男だったよね。確か持病があって、下院選挙への出馬が危ういと言われていたのに・・・。」


「あのとき、振ったのを後悔されましたか? そんなことはありませんよね。貴女はお父様の跡を継ぐのだとキッパリ仰った。」


 どうやら、過去の取り巻きの一人だったようだ。


「ええ、後悔はしていませんわ。こんな結果になってしまいましたけど、自分で決めて進んだ道ですもの。」


 鈴江が別世界の人間に見える。俺は本当にここにいていいのだろうか。そんな思いもよぎる。


「貴女に振られて、私と貴女では、格も違えば意識も違うんだと思い至り、がむしゃらにやってきたのですよ。ただ、大統領になった途端にその無理が祟って、持病が悪化してしまいましたけど・・・、トム殿に助けて頂きました。」


「もう大丈夫なの? ねえ、アレよね。治癒魔法では、病気は治らないって聞いていたけど・・・。」


 鈴江が心配そうな顔をして聞いてくる。


 ズキッ。


 何年ぶりだろうコイツのこんな顔を見るのは、アキエが3日麻疹で寝込んだとき以来かもしれない。


「ああ、執刀医はアメリカ最高峰の外科医だ。俺がしたことは切除した箇所を再生しただけだ。」


「えっ、そんなことをして本人になにもペナルティーが無いはずないでしょう。」


 鈴江が俺の胸ぐらをつかみあげてくる。向こうの世界でそのペナルティーを体験した本人だからの言葉なのだろう。


「待ちなさいよ鈴江、落ち着いて。この世界ではそんなことは無かったわよ。精々が魔力を使いすぎて、魔術師が気を失うくらいだって。とにかく、トムを離しなさい!」


「その通りだ。私にはなにもペナルティーは無かった。心配していた転移も今のところは大丈夫だ。」


「そう・・・。私ったら、なんていうことを・・・・。」


 鈴江の力が抜けると俺の身体が地べたに落ちる。マヌケな姿をさらしてしまった。


 これでチェックメイトだろうか。これだけ、思い合っている二人なら、もし鈴江がアキエを引き取りたいと言えば、どのような障害も跳ね除けてしまうに違いない。


 俺にできることといえば、精々が全てを捨てて異世界に引きこもることくらいか。さすがにそれだけはできないな。


「心配しなくても、大丈夫だ。君から鈴江を取るつもりは無い。」


 大統領が何を思ったのか、俺を抱えあげてくれる。病弱だったとはいえアメリカ人、ガッシリとした身体に高身長。わざとやっている訳では無いだろうが、地味に傷つくなあ。


「それは誤解です。」


 彼女は記憶があろうとなかろうと俺のモノでは無い・・・。


「彼は、こう言っているが、私は諦めたのだ。君を救出することを。資料を見て驚いたね。まさか、私のマドンナがテロリストの人質になっているなんて。だが、私が個人的感情で動いたことが判れば、大統領の職を失ってしまうだろう。それが怖かったのだ。」


 それはそうだ。個人的感情で大統領個人だけで動いても批判の的になってしまうというのに、軍を動かしたとなると批判だけでは済まなくなるだろう。


「テロリストの人質・・・。」


 鈴江は、初めて聞かされる自分の人生の一部をジッと聞いている。


「そうだ。彼は危険を承知で単身乗り込んだんだ。」


 それも誤解だ。俺も復讐という俺の個人的感情のために行ったことなんだ。


 そう声を出して言いたいのだが、なぜか声が出ない。


「彼が失敗して死なせてしまったと聞いたときは、恨みもしたよ。自分はなにもしなかったくせに。それだけの権限と地位を持っていたというのに、ただ怖がって逃げ回っていただけだというのにね。」


「でも、貴方はすぐに反省したのようね。そうだわ。昔っからそうだったもの。」


「そんなこと無いんだけどね。ただ、私は君とは違う感情だと思うが彼が好きなんだよ。」


「えっ。」


 大統領の思いがけない告白に、声を上げてしまう。


「彼が人を思う心に自分に無いものを見出したんだ。こんなに自分に厳しく他人に優しい人はいないよ。彼を阻むものがいれば、どんなことであろうと排除してあげたいんだ。こんな人を恨み続けることなんて、はじめから無理なのさ。」

お待たせいたしました。

ラスボスが復活して帰ってきました(笑)

さらに巨大な敵(?)となって・・・お約束ですよね。

記憶を失っていてもトムにとっては迷惑この上無い存在です。

トムが自滅しないうちにサクサクと話を進めますので少しだけご付き合いくださいませ。

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