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第8章-第90話 げんき

お読み頂きましてありがとうございます。

「く・に・ひ・こ。お前って奴はー!」


 会社からほど近い、牛丼のスキスキに向かうとそこに相馬くんがいた。


「し、社長!これは、そのう・・・。あっ、そうだ。偶々、アルバイトが休んじゃってですね。」


 各リーダーには昼間の業務を優先にしろと口を酸っぱくして言ってるのだが、この男だけは、こうして深夜の業務を入れてしまうのだ。


 うちの会社のリーダーの業務は多様で近々、副リーダーを追加しなければ回らない状況なのだが、頭を使う業務が多いせいか、こうやって機械的にこなせる業務を入れたがるのだ。この男は。


 もちろん、給与は以前の倍とはいかないまでもそれに近いものを与えているのだ。それに加えてアルバイトにもできる業務でリーダーの深夜残業代を稼がられたらたまったもんじゃないのだが、それがわかっていないらしい。


「ほうほう、いいのか調べるぞ。すまんが幸子行ってくれるか?この店舗のシフト表がどうなっていたかだ・・・。」


「いえいえ、お姉さまにそんな恐れおおいことはさせられません!すみませんでした。私が勝手に入れました。」


 まあ、あんな見え見えな誤魔化しにのるほど、甘く無いんだ。


「始末書な。くれぐれも残業代を請求しないなんてことはしてくれるなよ。あくまで法律優先だ。」


 チッ。なんでという表情をしやがった。これがバレたときの会社のイメージダウンがどれだけの損失になるか、わかっていないらしい。


 俺はコンコンと説明する。何度も何度も必死になって説明する。余程、酷い顔をしていたのだろう。ようやくわかってくれたらしく、過去にどれだけ残業代を請求しなかったかを話し出す。


 リーダーになってから日が浅かったせいか。なんとか100時間以内におさまりそうだ。これならば、今月分の給与に上乗せすればなんとかなるだろう。


 しかし、労働基準監督署にも書類を提出しなければならないだろうし、頭が痛い。


「まったく!なあ、幸子・・・・。」


 横にいた幸子に話しかけると目が泳いでいた。おいおい、コンプアライアンス教育も外部の人間を招いてやっているのに主要メンバーがこれか?


「まずは、言い訳を聞こうか。」


 深夜でお客様が誰もいなかったので店舗の隅に2人を連れて行き、座らせて聞く。


「・・・・・・・・・・・・。」


「なあ、何か不安だったとか?それとも給料が少ないか?」


 まずは、自分自身を落ち着かせる。そして優しく聞いてみた。


「あのう。」


 何かを考えながら、おずおずと相馬くんが口を開いた。


「うん。言ってくれ。」


「なんか、急に場違いな気がして・・・。こんなに給料貰ってもいいのかなあ。と思ったら、本当に会社に貢献できているのかなって。」


「欲しくなかったのか?」


「欲しかった!でも、こんなに貰える人間なのかなって。それで・・・。」


「大丈夫だ。君は、この会社に貢献しているとも。今、居なくなってもらっては、立ち行かなくなる。」


 俺がそう答えると俯いていた相馬くんがゆっくりと顔をあげる。目線だけは、俺に向けたり、下を向いたりしている。


「本当だよ。それとも、俺の言葉が信用できないかなぁ。」


 さらに続けるとようやく視線がこちらに向くようになった。そうか、会社が急に大きくなったから、不安になったんだな。


 一生懸命に山の麓で穴を掘っていたら、いつのまにか山の天辺にいたというところだろうか。確かに、不安にもなるだろう。きっと、相馬くんは同級生のなかでも上位の給料だろうからな。


 見晴らしが良くなるだけならいいが、そこに掴むものがなければ不安になるか。


 まだ、洋一さんが居たころは、目標とすべきものがあったのに、それが突然なくなってしまったのだ。


「いいえ、ありがとうございます。」


 相馬くんはぎこちないながらも笑顔をみせてくれる。


「それで、幸子はどうなんだ?」


「・・・さあ。」


 おい。さあ?って、どういう意味だ。


「はいっ?」


 思わず声が上擦ってしまう。


「自分で自分の気持ちが良くわからないのよ。なんであんなことになったのか。」


 幸子も相馬くんと同じで不安になったのだろうか。いや、そんなことは無い筈だ。幸子は社員でもあり、俺の傍にいてくれる人間でもあるのだ。


 今までどれだけ助けて貰ったか、わからない。さっきは冗談でいったが離すつもりは全く無い。ま、まさか・・・・・・。


「それで何時間くらいあるんだ?」


「30時間くらいよ。」


「ねえ、ときどき思うんだけど、わざとやってない?」


 あ。視線を反らされた。


「そんなに俺を困らせるのが楽しい?」


「もちろんよ。だあって可愛くって。」


 ガーン。断言された。それに可愛いってなんだ?


「わかった。わかった。幸子は減棒。・・・さあ、次いこうか。」


「酷くない?なんで私だけ、相馬くんのように優しくしてよ。」


「楽しいんだろ?俺の給料は高いだ。無駄な時間は、家でやってくれ!」


「わかったわ。家ならいいのね。家なら。」


 しまった。なにかお墨付きを与えてしまった気がする。


 その後、時間が無くなった俺は、『移動』で幸子と全ての深夜営業店舗を回った。もともと、視察だったのだ。たとえ1店舗1分だろうと、声をかけて笑顔が見れただけでもよかったのだろう。


 ある意味、疲れ果てて家のベッドに潜り込んだというのに、そこに待ち構えていたのだ。この女は。


 ポーションで元気になったと言い訳していたが、また俺が困った顔をするのが見たいだけなのかも・・・。それでも、やりあう元気が無く応じてしまうから、遊ばれるのかもしれないなあ。

本年はいろいろとお世話になりました。

来年も引き続き、ご愛読のほど、よろしくお願いします。

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