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第8章-第88話 あげてさげる

お読み頂きましてありがとうございます。

「ねえ、渚佑子貴女なんでしょ、私の記憶を返して、返してよー。」


 鈴江は向こうの世界で冷静だったのが不思議なくらい取り乱している。


「止めないか鈴江!前も言っただろう。彼女は悪くない。俺が生き返らせてくれと頼んだんだ。お前の意見を聞いてやれなくてすまなかった。俺の身勝手な思いで無理やり、やらせたんだ。責めるなら俺を責めてくれ!この通りだ。」


 俺は、鈴江に向かって頭を下げる。


「ねえ嫌よ。やめて!トムは悪くないじゃない。」


 それまで黙っていた、さつきが俺に抱きついてくる。余程、俺が鈴江に頭を下げる姿は嫌だったのだろう。


「貴女さえあんなことをしなければ・・・。」


「良いことも悪いことも私の記憶よ。せめて聞かせてくれたっていいじゃない!」


 それでも、言いよどむ、さつきに業を煮やしたのか。鈴江が聞き返してくる。


「駄目だ!君の子供であるアキエに聞かれたくないんだ。これからはアキエの傍に居て欲しいんだ。」


「そんな、いったい私は何を・・・。」


 鈴江はその場に座り込んでしまった。


「それに君は外国で死んだことになっているんだ。どうやって説明するつもりなんだい?警察に行けば、良くって不法入国で捕まる。それに君は君をどうやって証明するつもりなんだい?」


 少々意地悪だが、ここで飛び出されてしまっては具合が悪いのだ。畳み掛けるように言うと流石に世間知らずのお嬢様の記憶しかなかったからか、不安そうな顔をする。


 彼女を助け出したときの所持品は皆無でもちろんパスポートも身につけていなかったのだ。


「そうよ。貴方と別れたなら、弁護士がいるはずだわ。その人に証明してもらえばいいはずよ。」


 それでも懸命に考えたのだろう。なんとか案らしきものをひねり出した。


「君はその弁護士がどこの誰だか知っているのかい?」


 さらに追い討ちをかけると俯いて黙り込んでしまった。


 18歳の女性に対して、言い過ぎただろうかと少し後悔していると鈴江は突然、顔を上げて言い放った。


「そうよ!貴方が教えればいいんだわ。私は私の子供と1ヶ月過ごす。交換条件として、貴方は弁護士を紹介して、掛かる費用と当座の生活費を渡すこと。それだけでいいわ。」


 全く鈴江らしい考え方だ、この期に及んで俺を利用しようというのである。


「わかった。それでいいだろう。」


「「トム!」」


 さつきたちは不満なのだろう。ここで放り出してしまえと思っているのだろうが・・・。


「そうね。異世界に向かうのに渚佑子を付けてくれる?誰も知らない中で一人でいるのはツラいわ。」


 こちらが了解した途端、さらに条件を釣り上げてくる。


「渚佑子。お願いできるか?」


「・・・・・・は、はい。」


 心底、嫌なのだろう。物凄く嫌そうな顔をこちらに向けるが、俺が頭を下げると何とか頷いてくれた。


「えっ! 渚佑子って呼び捨てにする仲なの? どういうことよ。トム!」


 幸子が溜め込んでいた不満を爆発させる。


「あ、いや・・・その・・・な。別にやましいことはしてないぞ。向こうの世界で、長い間、そう呼んでいたから、癖になったのだ。」


「あっという間の3年でした。いつも一緒にいてくれて、頼もしかったです。離れなくてはならないのがツラいです。」


「何を雰囲気作ってるのよ。駄目よ! 日本でのトムは私たちのモノなんだから、惚れてもいいけど、手を出しちゃ駄目! 駄目ったら駄目!」


 血相を変えて、幸子が俺と渚佑子の割り込んでくる。


 いつもの余裕ぶったところがなくなっているのは、渚佑子が若いからなのだろうか?


 まあ、俺も日本でこれ以上増やすつもりは無い。


「そうだな。俺も日本では、一人にしたほうが・・・。」


「駄目よ! 駄目、駄目なんだからね。ねえ、さつきも何か言ってよ! ねえ。・・・なに・・・なに頬を染めてるの? ねえ、ねえったら!」


 向こうの世界で別れを経験した俺にもう怖いものは無いぞ。


「切りよく。さつきの結婚式までにしようか? それとも、今がいいか?」


 まあ冗談なのだが、俺がそんなことを本気で言えるとは思っていないはず・・・。


「駄目よ! 絶対別れないんだからね。離れてやらないんだから!」

いつものオチですが、まだまだ続きます。

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