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第8章-第87話 きおく

お読み頂きましてありがとうございます。

「止めなさい。」


 俺はそう言って、鈴江とさつきたちの間に立ちはだかる。


「こんな女を庇うんですか!」


 さつきは何かを悟ったように口をつぐんだが、幸子は俺に対してキツい視線を浴びせかける。こんなに怒っているのを見たのは初めてだ。


「そうですよ。なんで止めるんですか。このタイミングを待っていたのに!!」


 渚佑子は日本に返ってきた、この時に集中砲火を浴びせようと狙っていたらしい。まったく、この娘のドSさ加減には呆れるを通り越して感心するよ。


「実は蘇生の際に鈴江の記憶が消えて、18歳までの記憶しか無いらしいのだ。」


「そんな・・・・・・。トムとの交際も?」


「ああ。」


 そういえば幸子にノロケたこともあったっけ。延々と1時間も聞かせて呆れられたこともあったよな。


「トムとの結婚式も?」


「ああ。」


 あのときは、お金が無かったから、幸子にいろいろと手伝ってもらったっけ。受付や式の進行から、二次会の手配まで・・・。


 特に結婚式の進行は、ミスが多い式場の職員を纏め上げてくれた。あのときから、いつかは幸子を管理職に据え付けたいと思っていたんだ。


「トムとの新婚旅行も?」


「ああ。」


 あのときは驚いた。本当に後ろに空き缶をつけたオープンカーを幸子が用意するんだもんな。すっごく恥ずかしかった。


 幸子も友人たちにやられたんだそうで、すっごく恥ずかしかったけど、一番の思い出だと語ってくれた。


「トムとの新婚生活も?」


「ああ。」


 そういえば、料理が下手だった鈴江に教えに来てくれたのも幸子だった。時折、とんでも料理に挑戦してくるのには閉口したけど、庶民っぽいお袋の味だったよな。


「アキエちゃんの出産も?」


「ああ。」


 あのときは、到着が遅れて、幸子さんが付きっきりで面倒みてたよなあ。なかなか陣痛が始まらなくて、病院内を何度も一緒に歩かされたって笑っていたっけ。


 アキエを一番に抱き上げてあげる役を幸子さんに取られたのは悔しかった。


「アキエちゃんの保育園生活も?」


「ああ。」


 鈴江が寝込んだときに代わりに迎えに行ってくれたのも幸子さんだった。いつまでもママっ子でいつも、ギャン泣きされてたよなあ。


 まあ確かにあの厚化粧を間近で見れば、怖いかもしれないな。


「それなのに黙っていろと言うんですか?私には言う権利がありますよね。」


 凄い迫力だ。俺と鈴江の過去は、彼女にとっても大切な思い出だったのかもしれないな。


 それにしてもあれだけつらつらと並べられると・・・そうか、あの日々は鈴江から失われてしまったんだな。改めて聞かされるのは、つらいものがあるなあ。


 だが俺には、さつきもいるし幸子もいる。そして異世界には・・・。


「いつも傍にいてくれたよな。幸子、ありがとう。俺の記憶から鈴江が消えてしまえばよかったのに・・・。そうすれば、俺の過去の幸せな記憶はいつも君と一緒だったはずだ。」


 俺がそう言うと頭が冷えたのか、俯いてしまった。俺は握りしめている彼女の指をほどき、手のひらを重ねる。


「ほら顔を上げて・・・。」


 なぜか、幸子さんは顔を真っ赤にしている。まだ怒っているのだろうか。首筋まで真っ赤になっている。


 俺は落ち着かせるようにそっと抱きしめる。


「もう・・・。トムのばかっ。」


 そう言って彼女は、俺に口づけをしてくる。どうも怒っていたのではなく恥ずかしかったようだ。いったい何が恥ずかしいんだか。


「もういい加減にしてよね。よくもまあまあ。しかし私もなんでこんなタラシの子供なんか産んだんだよねえ。」


 あれっ、今皆、いっせいに頷かなかった?


 きっと気のせいだ。気のせい。


「トムはね。ずっと一途だったわ。貴女が裏切るまではね。まあ確かにタラシだったけど・・・。」


 幸子は俺の腕をすり抜けると鈴江の前に立ちはだかった。別に俺はタラシじゃ無いと思うんだがなぁ。


「そこには、理想の夫婦がいたわ。なのに全て貴女が壊してしまった。トムは鈍感だから、最後まで気づかなかったけどね。」


 それについては、何も言えないなあ。何も見えていなかったのかもしれない。

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