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第7章-第84話 わかれ

お読み頂きましてありがとうございます。

 翌日の行動は素早かった。


 スケジュールの大幅変更だ。各国大使と挨拶を交わす予定だったが、こちらから『移動』で各国の王宮に出向き、直接国王たちと挨拶を交わすことにしたのだ。


 名目上は今後の攻略部隊の扱い方についての保障交渉だったが、実際には、ローズ婆さんから逃げ切るためだ。


 だが、そんな苦労も徒労に終わった。なんと、ガイ教皇を使って、『転移』で追っかけてくるという暴挙に出てきたのだ。


 しかも、ローズ婆さんの顔は知れ渡っているらしく顔パスで王宮に入ってくる。


 やはり逃げ出して正解だった。ダンジョン攻略完了後、半年以上雲隠れしていた成果なのだろう。お肌の艶も見事取り戻し、20代でも通ってしまう若さになっている。


 しかも、教皇がげっそりとして、腰をさすっているところをみると、昨夜余程奉仕させられたのだろう。


「なぜだ?ヤンデレ神父・・・いや、ヤンデレ教皇。」


「ヤンデレ言うな!今日、アポロディーナから昨日のことを聞かされてどれほど傷ついたか・・・。」


「何を言っているんだ?教皇こそ神に捧げた身だろう。アポロディーナと結婚できるなんて考えていたわけではあるまい。それはお前の『正義』に反するだろうに・・・。」


 俺がそういうとヤンデレ教皇はポカーンとした顔付きになる。本当に考えていなかったらしい。


「それよりもローズさんを大切にしろ。この世で唯一、教皇と一線を越えられる女性だぞ。」


 ほとんど災厄に近いが教会の権力をものともせず、自分の若さ維持のため、教皇を押し倒せる女性は早々いないに違いない。しかも他の女性たちからして、ローズ婆さんを敵に回してもヤンデレ教皇と一線を越えたいという女性がいるとは、とても思えないのだ。


 これでこの女性に教皇を私物化できる権限を与えたと同然だが、やたらめったらヤンデレ教皇を退陣に追い込むようなことはするはずが無い。


 なぜならこれ以降、お肌の再生という目的のためヤンデレ教皇がいかに長生きできるかに焦点を絞って行動していくだろうからだ。まあ、ヤリ殺してしまう可能性は高いが・・・。それはヤンデレ教皇も男として本望だろう。


「一生傍いてくれますか?」


 しばらく、ヤンデレ教皇は俺の顔とローズ婆さんの顔を交互に見つめていたが意を決したように言う。どうやら、一生ヤラない選択が出来なかったようだ。


 本当は教皇を辞めるという手段があるのだが、ここは黙っておこう。


 俺は目線で、これでいいですか? とアイコンタクトを送るとローズ婆さんがニヤリと笑う。どうやら、目的のものを得たようだ。メルハンデスという一人不幸になりそうな男が頭に浮かぶが、心の中で手を合わせておくことにする。


 しかし、なんで俺はこんなに卑屈になっているのだろう。何ら弱味を見せてはいないはずなのに、なぜ?


 あんなに若くて美しい姿をしているのに・・・。イヤイヤイヤ・・・あれは仮の姿だ。ベッドを共にすれば翌朝には元の姿に戻っているに違いない。本当はそんなことは無いはずなんだが・・・。


 この世界で一番恐怖を抱く存在になっている。少しでも隙を見せれば、取り込まれてしまうそんな存在なのだ。


 ヤンデレ教皇からアポロディーナを頂いたうえにローズ婆さんを押し付けたことに良心の呵責を覚えた俺は置き土産を置いていくことにした。


「ガイ!最後にこれをやるよ。」


 そう言って渡したのは、自空間の奥底に入れたまま忘れ去っていた、うな丼だ。渚佑子に聞いたところ、この世界では食べる習慣が全くなかったので腐らしていたのだ。


「こ、これは・・・・・・。」


「好きか?」


「大好物だ。」


 俺はさらに10個程取り出して手渡す。彼ら勇者は、『箱』という俺の空間魔法に勝るとも劣らないスキル持ちだ。何事もなかったかのように消えた。


 これでヤンデレ教皇はうな丼を再現するという人生の目標が出来たはずだ。再現するには、相当な苦労と費用が掛かるはずだ。だが、彼の『正義』からすると教会の金に手をつけることもないだろう。


 ならばその金はローズ婆さんからしか充てが無いはず。彼はまず、うなぎを探し出すところから、始めなくてはならない。


 肉という下地のあったハンバーガーを再現するだけでもあれだけの費用が掛かったのだ。全く下地の無いうな丼となれば、莫大になるに違いない。


「ローズさん、時には無茶をしてしまう教皇を支えてやってほしい。貴女ならばそれが可能なはずだ。」


 ローズ婆さんはお肌のためならば、湯水のようにお金を使うに違いない。これで一矢を報いたといえるかもしれない。結果は確認できないのが心残りだ。


「ええ、わかっているわ。」


 俺はまたしても涙を流し、うな丼を食べているヤンデレ教皇と不思議そうにそれを見守るローズ婆さんを残し、残る国々を訪問し挨拶を済ませた。


・・・・・・・


 召喚の間に見送りにたくさんのひとが詰めかけてくれた。


 アポロディーナ、クリスティー、ミネルヴァ・・・気のせいか、俺と関係をもった女性たちが一番手前に来ている気がする・・・イヤイヤイヤ・・・そんなはずはない・・・わざわざそんなことを公表するなんて・・・気のせい・・・気のせいだ。


 どういうわけか、皆、表情は明るい。もっと湿っぽいものになると思っていた俺は気が楽になる。きっと、皆無理をして表情を作ってくれているんだろう。


 よっぽど、隣で行われている鈴江とタンタローネとの別れのシーンのほうが涙を誘っている。


 そのとなりに立つアンド氏がタンタローネの肩を抱くと号泣に変わる。随分と懐かれたようだ。鈴江のほうも少しだけ涙を流している。アキエは平気で置いていったというのに・・・。


 しかし、本来いるはずの魔術師たちがいない。たしか、集団による召喚だったのだから、送還も集団だと思ったんだがなぁ。まああれからアポロディーナの最大MPも相当増えているから、一人で送還できるのかもしれないな。


 アポロディーナが代表して、挨拶するようだ。


 これが精一杯なのだろう。杓子定規な挨拶文を読み上げると、近づいてくる。3年余りの異世界休暇だったが、いろんな経験ができた。きっとこれからの会社経営に役立つものになるだろう。


 それに自空間にはダンジョンで取得した、たくさんの魔法陣や各国王室からの贈り物が入っている。


 結局、この世界で得た報酬は、ほとんどダンジョン攻略部隊の蓄えとして残してきた。僅かにチバラギ国王宮に納品予定だった建物の費用を除いて・・・。後でセイヤに謝っておかなくてはな。


 目の前でアポロディーナが深呼吸をする。念のために鈴江と渚佑子の手をしっかりと握る。


「実は、送還魔法なんて無いんです。」


 そう言ってアポロディーナは微笑んだ。


不思議だったんですよね。

なんで召喚モノの主人公たちって送還魔法が無くても協力的なんだろうかなぁ?って。

召喚者側も普通、召喚直後に送還魔法が無いなんて言うはずが無いですよね。

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