第7章-第74話 うらがわ
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翌日、案の定あの女が面会を申し入れてきた。アポロディーナの母親だ。
「何をなさったの!これがどういうことか。わかってやっているのですか。」
言葉使いは丁寧だが、頭に血が昇っていることは確かだ。
「何のことだ?」
「とぼけないで!あなたがたのせいで、ダンジョン攻略のすべての戦利品の市場価格大幅に下落しました!このままでは、明日からの戦利品の買い取りができません!」
「ほうこの契約書には、必ず買い取ると記載されているが?」
俺は用意しておいた契約書を取り出し、記載箇所を指し示す。ダンジョン攻略部隊の戦利品は必ず全て買い取ると記載されている。一部でも他の商会に流れれば利益を損なうと考えたからだろう。
「とにかく出来ないものは出来ないんです!」
随分と感情的になっているようだ。感情に感情をぶつけてもしかたがない。できるだけ冷静に話を進める。
「ということは、ここに記載の収入補償をするということで良いのかな。」
契約書には何らかの理由で商会側が買い取れない場合は、一定金額を商会側が支払うことになっていた。もちろん、戦利品は他に持ち込める。
「そんな!どうして、こんな・・・どうしてぇ!」
「どうしてだと・・・、ザイガイのハアデスでの借金先はお前の弟だそうだな。」
今回の件があり、ハアデス国でのヤンデレ神父の借金の件を調べていくとこの女の弟が養子に入った先の商会が1枚噛んでおり、さらに教主からの報告書ではその裏で教会の一部の人間が暗躍していたらしいことも記載されていた。
あまりにもヤンデレ神父がどんどん借金しすぎている点を疑問に思った俺が調べてみると、そんな裏側が見えてきたのだ。
「っ。」
「そしてこれまでほとんど交流の無かったその弟と頻繁に会っているそうだな。」
「なぜそれを・・・。」
「アポロディーナが漏らすのがダンジョン攻略部隊の情報だけだと思っているのか?」
本当は回答があるとは思わなかったのだが。俺が最近商会で変わったことや変わった人物の出入りが無かったか聞くとあっさり答えが返ってきたのだ。
「それで、どうなさるおつもりですか?」
「別にどうもしないさ。」
本当はこの商会を潰す事などわけはないのだが・・・。
「どうして?」
「アポロディーナの貢献度のほうが上だったというだけの話だ。そちらも今回の件で被った損失など、このまま取引を続ければ3年以内に回収できるだろう?それとも、契約金の10倍返しで契約を破棄するか?」
どちらに転がってもかまわないのだ。俺には劣化させずに自空間に保存する手段がある。相場の下落も半年もすればもとに戻るはずだ。その期間、戦利品を放出しないだけの話だし、すでに戦利品の処理を専門に行うギルドの立ち上げもお願いしている。
まあ俺が直接動かずにアポロディーナに動いてもらっているのだが・・・。
「そうするとあのギルドの話は本当だったの・・・。」
その件だけは秘密裏に動くように指示したのだ設立までに横槍が入ると厄介だからな。それでも情報は漏れていたらしい。噂程度だったのだろうが・・・。
「そうだ。契約を続けるのならば、動いているアポロディーナの顔を立てて使ってやれよな。」
「この間までの契約に至るまでのやりとりは、こちらを油断させるための策略だったのね。すっかり騙されたわ。」
まあ・・・そこは・・・・・・・まあ、そう思ってくれるのなら・・・。
「いったい何が目的なんだったんだ?」
「始めに言ったでしょうあなたの身体よ。」
「やはり、お前の旦那は・・・。」
「違うでしょ・・・・・・・。」
なんだ、その微妙な間は。
「そんなはずないわよ。そんなこと言って、はぐらかさないで!」
そういって、艶っぽい視線を投げかけてくる。
なるほど、そういうことか。
「親子丼をするつもりはないぞ!」
「やはりすでにお母さまと・・・?」
「ふざけんな!なんであんなば・・・。」
この女とアポロディーナのつもりでいったのだが、なにかローズ婆さんと関係しているかのように勘違いをしているらしい。
「えっ。違うの・・・。」
目が点になるほどのことか?
「やはり、親子だな。あの女そっくりだ!」
アポロディーナと似ていなかったので、てっきりローズ婆さんは後妻だと思っていたのだが・・・実の孫娘らしい。
「いっしょにしないで!私はただ・・・。」
「なんだ、意趣返しをしたかっただけか・・・。」
まああの婆さんを母親に持つだけでも大変なのに幾度も男を取られているのだ。ローズ婆さんに靡かない男が居ると聞けば、落としたくなるのもわからんでもない。
この女もあの一族らしく若くて綺麗だ。周囲の男性も放っておかないだろう。
「どうしてそれを・・・。」
呆然としている目の前の女を傍に引き寄せて、そっと唇を落とす。
「それで我慢をしておけ!誰にも言うなよ。」
唇を離すとやがて混乱から抜け出したのだろう。呆然とした顔付きが羞恥に頬を染め、やがて表情が無くなった。いまの行為がアポロディーナにバレたときのことを思ったのだろう。
「どうして!」
「欲しかったのだろう? もちろん、口止めだ。一切合切、闇に葬れ! お前の弟もな。アポロディーナにバレたくはないだろう? それとも、言ってほしいか?」
「嫌よ! ダメよやめて!」
「それに、ローズ・・・さんの盾になってくれると助かる。」
実のところ、それが本命だ。
「まったく、なんて男なの! アポロディーナの言う通りなのね。話半分に聞いていたら・・・酷い目にあったわ。」
アポロディーナはいったいどういう説明をしているんだか・・・。聞いてみたいような聞きたくないような・・・。
「わかりました。あちらの商会に損失を補填させればあんな店一発で潰れるわ。どうせ教会の圧力であの国では商売ができなくなっているようだし、向こうの国から持ち出した資産を全て絞り取ってみせるわ。そのかわり・・・。」
今度は向こうから唇を寄せてくる。
・・・ようやく、満足してくれたようだ。




