第3章-第20話 どうこう
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翌日は、朝から忙しかった。なんで、社員旅行の翌日なのに皆眠そうなんだろう。リフレッシュしてくれたんじゃなかったのか?そんなことじゃ、次連れて行けないぞ。
ポカミスも連発だ。お客さんが気付いてくれたからよかったものの、レジの打ち間違えで余分につり銭を渡してしまったり、出勤時間を間違えていたり、仮病なのか本当なのか熱が出たといって出勤してこないのとか。もう酷いありさまだった。
でも、あいつだけは休んではダメだった。勉だけは・・・。他の従業員の手前、半年間無欠勤と約束させての復帰だ。もう、俺の一存ではどうしようもないだろう。しかも無断欠勤だ。
風邪なら演技でもいいからしんどそうな振りでもして、病院に行くなりしてくれれば、まだなんとかなるだろうに・・・。無断欠勤では・・・もうだめだ。
連絡が無いまま昼が過ぎたころ、勉から1通のメールが飛んできた。しかも、なにやらヨウツベの動画を見てほしいらしい。無断欠勤されてこんなメール1つか、むちゃくちゃ腹が立ったが念のため動画を見てみることにした。
その動画には、とんでもないものが写っていた。タイトルは「フィールド製薬の創業家の次男横領を語る」だ。おそらく、あのカジノで撮ったものだろう。あの男が赤裸々に横領の手口を自慢げに語る姿が・・・。バカかあいつは・・・。これでもう、この男は終りだな。会長には可哀想だが未だにこんな男を子会社の取締役にしていたのだから、仕方が無い。
俺は、保証金を積み上げてある証券会社にフィールド製薬の信用売りをかけた。テンテン以外にもいろいろと信用売りで儲かっていた。さらにカジノでも30億円ほど儲かっていたので、資産総額は100億円近くになっている。証券会社の信用度も上がっていたので、上限ぎりぎりの350億円分で、一世一代の大勝負に出た。
まだ、この映像が公開されて間が無いのだろう。余裕で信用売りが成立した。さっそく、近くのネット漫画喫茶に行き、株関連の掲示板にヨウツベのサイトとタイトルを、いくつも書き込んでいく。
ついでにあいつに貰った名刺の会社の顔写真入りのページも付けておいた。あおりだろうが知るものか。ここは都条例にはひっかからないから、身分証明書も必要ない。
書き込んで暫くすると、もう株価が下がりだした。株価が下がるのが早い、掲示板に反応が返ってくるよりも先に株価が反応している。まあ、勝機のほうが優先だわな。
売りを済ませた人間からなのか徐々に掲示板にも反応が返ってくる。やつらももっと下がってほしいのだろう。こっちが書いた以上に拡散するわ、過激な文字が躍っているわ、物凄い状況になっていた。
まあインサイダー取引には、引っ掛からないだろう。なにせ動画が撮られた時刻のころには、他の従業員と合流していたしブランド店でバッグなどを買ったレシートも残っている。それにヨウツベに公開された時刻よりも、後に株の売買を行っているのだ。
皆が知っている情報を使って売買しているだけだ。違法取引ではない。
翌日朝のニュースでは、もうあいつが任意同行されたというニュースが流れていた。これでもっと株価が下がっていくだろう。
なぜ当日の時間を気にしたかというと、警察に捕まったあいつは絶対、俺の名前を出すだろう。それに、これだけ派手に株を信用売りしていれば警察の部署が違うだろうが、いつかは俺にたどり着くはずだ。それで、勉のことも表に出るに違いない。
・・・・・・・
金曜日にいろいろと書き込みをした後、まんが喫茶を出たら直ぐに勉の家に向かった。
「コンコン。勉いるんだろ。開けてくれ。」
扉が開くと勉の奴が飛びついてきた。
「俺、やりました。やってやりました。見てくれましたよね。」
「ああ、そんなに酷いことを言われたのか?あいつらに?」
勉が言うには、カジノに残ったのは、少しでも元妻と話がしたかったそうだ。動画も見納めのつもりで、元妻のほうをこっそり撮っていたそうだ。
しかし話し合いは、一方的な罵りになったらしい。やがては洋治がどういう家の人間なのか、どれだけお金を持っているのかなど自慢そうに話したそうだ。
勉は初め、この動画を消すつもりだったそうだがよく聞いてみると犯罪の告白だと、気付きいたそうだ。それで今日の朝から昼にかけてヨウツブに上げる準備をして無断欠勤をしたらしい。
「そうか、よくやったな。でも、あいつのことだ。絶対、復讐してくるぞ。大丈夫かお前?」
勉はキョトンとしていたが、やがて青ざめブルブルと震えだした。
「どうしたらいいんです?もう異世界に行ってしまいたい!」
俺は一瞬ビクっとしたが、平静を装い聞き返す。
「異世界へ行きたいのか?」
「これを見てくださいよ。この本なんか、災害で死んだ主人公が女神に異世界に転生する物語だ。こっちは次元の裂け目に落ちた主人公が竜に降誕した魔王を倒してしまう物語です。好きなんですよ。こういうのが・・・。」
本のタイトルには『異世界XXX魔術師』『魔竜殺しのXXXXX』と書いてあった。
「しかたがないな。俺が裏ルートで高飛びさせてやるよ。衣類と証拠物件のPC、スマホなど必要なものを持って、白粉町の店舗のバックヤードに朝8時30分に来い!解かったか?」
それでは、本物の異世界に招待してやるか。このまま日本に勉が居て怪我でもされたら、目覚めが悪いからな。
・・・・・・・・
翌日、店で待っていると勉がスーツケースを持ってやってきた。既に指輪は光っている。指輪を『送』に切り替えて、勉の腕を両手で握る。逃げられたら困るからな。
「な・・・・」
さあ、勉はどんなリアクションを・・・




