第6章-第71話 もくてき
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「それで、何が目的なんだ?」
俺がそう言うと目の前の男は、俺の身体を上から下、下から上へと眺める。そう目の前の男は、ヤンデレ神父の借金相手でアポロディーナの父親だ。
通常の手段で金をかき集めたが、僅かに足らないこともあり、直談判にやってきたのだ。相手の目的とするものを用意できれば、それを取引して全ての借金を返せるだろう。
「そうですね。身体かな?」
彼はそう言うと再び俺の身体に舐めるような視線を向ける。
ぞぞっ・・・。
俺は、今まで感じたことの無い悪寒に襲われた気がして、身体をかき抱く。だが彼は、俺がした一連の行動を見て、慌てて付け加えた。
「抱いてもらえませんかね。」
今度はセリフと裏腹に真摯な視線を送ってくる。わけが解からなくなっていた。
「それはどういう・・・。」
俺はそう言うのが精一杯で、口の中がカラカラに乾いてしまっている。
「貴方は本当にそういう誤解を産むセリフが好きよね。伯爵様が困ってらっしゃるわ。えっと、違うの。少しの間だけでも構わないから、アポロディーナの相手をして貰えないかな。ということなんですけど・・・。」
男の横に座るアポロディーナによく似た女性が苦笑いしながら、そう告げた。
俺は、背中にびっしょりと汗をかいていることを自覚する。商談でこんなに汗をかいたのは、商事時代の新人のころ以来だ。
そういえば、あの時代のお客さんにも、冗談でそれっぽいことを言われたり、ホステス連れで新宿2丁目界隈に連れ込まれ、その手の人たちが俺に絡む姿をみて、大笑いするイジワルな人が居たなぁ。
俺の反応をみて、裏で嘲笑っていたのだろう。どうやら、目の前の男もそう言った人間のようだ。それなら、遠慮する必要は無い
逆にそういった人間のほうが甘いのだ。体のいいオモチャは手放したくないらしく、今は返しているが借金の申し込みに行っても、あっさりと貸してくれたし、商売上必要になった街の有力者への伝手でも簡単に手を貸してくれたものだ。
「ママ!」
隣でアポロディーナが真っ赤になってうつむく。
「あなたは、なんで、そう奥手なの?まったく・・・。」
その言葉を聞いても、アポロディーナはうつむいてしまってまったく顔を上げない。余程恥ずかしかったようだ。
「聞いていると思いますが、俺は居なくなる人間です。お嬢さんを不幸にするつもりですか。」
「わかってないのね。女心を。」
その言葉に少しムカついたが、元妻のことや今の奥さん連中にも始終言われていることで自覚もあるので黙り込むしかなかった。
「女はね。思い出だけでも、十分幸せなのよ。それに子供が出来れば最強ね。もう他に何もいらなくなるの。」
「・・・・・・・。」
「そう、ダメなのね。アポロディーナはお嫌い?」
目の前の女は、卑怯なセリフを吐いてくる。余程、この女のほうが商売相手としては厄介な相手かもしれない。きっと、この商会がアルテミス国のトップクラスを維持できるのも、メルハンデスの力だけでは無いかもしれないな。
うちのメンバーの一人であり、少し内気だが美女と呼んでもかまわない彼女だ。好きだし、嫌いなタイプでもない。だがそれを伝えると厄介な未来が待ち受けているのが想像できるのだ黙り込むしかない。
「それじゃあ、あなたは、15人分の思い出に浸れてさぞかし幸せなんでしょうね。」
ローズ婆さんが現れた。別段、娘の家に現れたのだから、びっくりすることはないと思うんだが皆の表情をみていると驚いていることが読み取れた。
「いいえ、17人分よ。」
そう言って、目の前の女性は、ローズ婆さんを睨みつける。
「それにしては不幸そうね。少なくとも彼らが私の元にやってきたときには、不幸のどん底という顔をしていたじゃないの。」
どうやら、ローズ婆さんは娘の彼氏たちに手を出したようだ。
「なんなら、18人目を味わってみる?どんな気持ちだったか、思い出すかもよ。」
ローズ婆さんは男のほうへ近づいていく。
「止めて!」
「そう良かったわ。なんとなく、食指が動かないのよね。このひとだけは・・・。」
一見可憐な女性である彼女はその場にへたり込む。
「私の大事なターゲットなんだから、そんな搦め手で取り込もうとしちゃダメよ。」
そう言って肉食獣を思わせるような視線をこちらに向けてきた。
「というわけで借金は帳消しね。」
「それは困る。」
俺はとっさに声を出す。ここでローズ婆さんの助けを借りてしまえば、後でどんな要求が来るかわからないからだ。
「それでは、ダンジョンの攻略品をあなた方の商会に独占契約を結ぶことであの金額を契約金としたいのだがいかがかな?」




