第6章-第67話 よみかきさんすう
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「学校ですか?もちろん、ございますとも、小学校、中学校、高等学校、大学、大学院まで設立しています。」
元議長が自慢そうに言う。転生者は、そこに注力したということだろう。何事にも教育が大切なのは解かる。
「ではなぜ、こんなにも定員割れをおこしているのだ?」
元々、教育というものは国がお金を出してするものだから、採算が合わないのは解かっている。
だが長い年月をかけて、やってきた割には、あまりにも卒業生の数が少ないのだ。特に大学院は設立後10年経過しているのに卒業生ゼロという結果に終っているのだ。
「それは授業料が・・・。」
「そんなに高いのか?」
「いえ、貴族の方ならぜんぜん問題無い額ですし、少し無理をすれば、中流以上の一般家庭の方でも十分払えるものです。」
「なら何故だ。」
「授業料が安すぎてうさんくさく見えているみたいなんです。いえ、それなりに一流の方を講師にお招きしているのですが・・・。」
どうも、貴族の間では、専門分野に秀でた講師よりも全般的な教育から躾けまでできる家庭教師を付けるのが一般的で、その家庭教師が子供が得意とする分野の専門講師を紹介しているらしい。
しかも、深く聞いていくとポセイドロ国では識字率が低く、学校もそれぞれ1校あるだけというのだ。
どうも転生者は、教育のあるべき姿を話していたらしい。だが表舞台から去ったことで実行は別人が行った。だから、高度な教育を受けられる環境はあるが、受けた人間がほとんど居ないなんていうことになったようだ。
「ダメだ。やり直しだな。中学校以上の施設は全て小学校にしろ!」
「そ、そんな・・・。」
「そして、全ての子供たちに、読み書き算数を教え込むのだ。そうだな、初めは2年間だけで良い。それ以上の教育を受けさせたいという親が一定数以上現れたらさらに2年間、そしてもう2年間、合計6年間の教育を全ての国民が受けれるように整備するのだ。」
「そんな予算はもう何処にも・・・。」
「なにを聞いていたんだね。中学校以上をぶっつぶせと言ったんだ。これらの講師を雇う費用で読み書き算数だけならばどれだけの人間を雇えると思う?」
「では、国民から高度な教育を受ける権利を剥奪しろと言うのですか?」
「そうだ。まずは、土台作りが大事なんだ。そして、土台ができても更に高度な教育を受けるためには、その家庭の収入に見合った教育というものがある。親が一生働いて3人の子供を育てあげる。その辺りで決めるのが良い。」
もちろん、子供が賢ければ、収入が少なくても国立大学に入れることができる。これは今の日本でもかわらない。
だが昔の日本は、それぞれの収入に見合った教育を受けさせることができるように私立大学が設立されたのだが、今の日本では育て上げる子供の数を減らしてまで私立大学に通わせるという本末転倒な現象が発生しているのだ。
そのせいで異様な大学進学率という結果から、大企業どころか中小企業まで大学を卒業していないと就職活動もさせてもらえない。それが、さらに大学進学率を押し上げるという悪循環に陥っているのだ。
だから、俺は大学新卒を取らない。取らなければ、使えない新人に不必要に高い給料を払わなくても済むし、親は無理をして子供を私立大学に入れる必要もない。
その分、多くの子供を育て上げれば、親は老後の心配をしなくても良くなる。あたりまえだ、1人で2人の親の老後を見るなんて、不可能なのだ。介護保険などの負担金を捻出すれば、1人も子供を育てられなくなる。
そうなれば、働く国民の数が減っていくことは必然となり、年金を支えられなくなり、年金の支給年齢が上がる。それがさらに老後の心配のタネになり、老後の資金を溜め込むようになり、子供を育てなくなるという悪循環に陥っているのだ。
つまり、子供の幸せという大儀名分の下、私立の小中一貫校、有名大進学率の高い私立高等学校、そして、有名私立大学と。今や2000万円とも3000万円とも言われる教育資金を捻出することで、親は親で自分の首を絞める選択を行っているのだ。
はじめから、親の収入で育てられる子供の教育の環境を絞り込んでしまえば、今の日本のような、不幸な状況にならないというわけだ。
・・・・・・・
「奨学金を整備しなくても、良かったのですか?」
元議長への説明を終え、自宅に戻ったあと、渚佑子からそう突っ込まれた。
「必要無い。」
「それでは、本当の天才が埋もれてしまいませんか?」
「そうだな。人格的にも優れた人間ならば、貴族が養子にするだろうし、そうでなければ、各ギルドが教育を施すだろう。そこまで、国で面倒する必要は無い。」
「では、孤児はどうするのですか?」
「だから、最低限の教育を受ける権利を与えるのさ。各ギルドもその資金は惜しまず出してくれるとさ。ギルドもそこで働きたいという人間に読み書き算数を個別に教え込む費用をある一定の給料を与えつつ、出しているからな。」




