第6章-第66話 かねかし
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「銀行ですか?」
俺は各ギルドの担当者を集め、経済政策について説明会を開いた。
「そうだ。君たちギルドに利息を付けて金を貸す権利を与える代わりに国債を買ってもらう。」
各ギルドに1つの銀行を設立する権利を与え、その規模に応じて国債を強制的に買わせるのだ。当分の間は年率1%10年モノを発行する予定だ。
「それは既に認められていた権利で・・・。」
「違法だろうそれは。」
ポセイドロ国に置いて金貸し業は、領地を持つ貴族に与えられていた権利だったが、実際には潤沢な資金を持つギルドがその権利を借り受け、逆に貴族に貸し付けることが多く、しかも一般人相手ではグレーゾーン金利どころか闇金レベルの利息を堂々と取っていたのだ。
「ですが取引先である貴族の意向を無視するわけにはいかず・・・。」
「まあ、そうだろうな。だがこれからは違う。違法な取引は全て取り締まる。つまり、君たち134あるギルドの独占になるわけだ。悪い話じゃないだろう?」
その分、最大利率は自由に国で決めさせてもらうことになるのだが・・・。
まあ、本当に闇金が発生する懸念もあるが、そこは刑罰を重くするので問題は無いだろう。全ての資産没収される危険性を犯してまで、やるバカはそう居ないに違いない。
「これまでの借金はどうなるのですか?」
「国に対するものは全額、放棄してもらうとことになる。これは何故だか解かっているよな。」
放棄という言葉を聞いた途端、溜息がそこらで出たがブーイングには発展しない。
「はあ。アルテミスの属国になれば放棄どころか資産徴収されることを考えれば安いものです。その辺りは、あの委任状を書いた時点に覚悟しておりました。」
「そうだ。領地持ちの貴族に対する借金は、それぞれの貴族が発行する債券に置き換えるから安心しろ。しかも領地経営が破綻しても残った資産から優先的に8割以上払い戻される。」
災害時を除いて、貴族が発行した債券総額が領地の総収益の50%を越えた状態が10年間続いた状態、破綻したと見なされ、国が領地の総収入の50%で領地を買い上げることで未払い賃金等を除いた分から分配されることとなる。
但し、今回の侵略の主要な貴族の領地は既に没収が完了しており、それらの貴族に貸していた借金は行き場を失うことになる。
・・・・・・・
「これが紙幣ですか?」
「そうだ。ミネルヴァ。」
「これって、ただの紙じゃないですか。」
俺たちの目の前には、Q○コードとバーコードとクリスティーの肖像画が描かれた紙幣が並んでいる。Q○コードが入っているほうが高額紙幣だ。これらはコピー用紙にパソコンとプリンターで印刷したものだ。
ちなみにQ○コードには山田ホールディングスのホームページのURLがバーコードには連番が印刷されている。
「そうだ。だがこの世界には、このような紙を作る技術は無い。これを作れる技術がこの国にできるようになったころには、偽造防止の技術も進んでいるはず。」
そのほかにも魔法で小細工するつもりだ。たとえば、この紙幣を勝手に首都の外に持ち出せば、国王の執務室に戻ってくるとか。基本的に結界魔法でなんとかなるだろう。
「これを金貨と等価交換するわけですか。」
「そうだ。これからは、首都内ではこの紙幣しか使えなくする。国からの支払いもこれになる。」
「それで首都から持ち出す際には、この金含有量10分の1の金貨と交換するわけですね。」
元々、各国に通達を出してある金貨の交換率に合うから問題ないはずだ。紙幣の発行枚数も当面は首都で出回っている金貨と同じにするから、インフレも極力発生しない。
問題点は首都の外に存在する金貨がタンス貯金されてしまう可能性だがこれもほとんど無い。そもそも首都の外に金貨は流通していない、普通は住宅を購入するくらいでしか使われていないからだ。いずれ旧金貨と紙幣との交換も停止するつもりだから問題ないだろう。
国外にある分はそれらを持つ商人が交換比率が変わった直後に慌てて、この国で買い付けを行ったはずなのでほとんど存在しないだろう。
あとは経済規模に合わせて発行枚数を調整していくだけだ。
銀行ができることで初めは国債利率の半分程度の預金利息が、融資により銀行が大幅な利益があがるようになれば、自然と預金利息を上げて資金を集めることになる。預金と融資がうまく組み合うようになれば、経済規模も上がっていくことになる。
コントロールは難しいが原資となる金は10倍まで耐えられるので多少の失敗にも耐えられるはずだ。
あと必要なのは当分の鎖国政策だ。物の価値も10分の1になるのだ。外貨で物を買われては国内の物が総て流出してしまうし、必要な物も購入できない。そこで鎖国中はアルテミス国経由でしか物を買えないようにすることで貿易収支のバランスを保とうというわけだ。
・・・・・・・
「それで今日も抱き枕役ですか?」
ベッドの上でミネルヴァが口を尖らせているが取り合わない。下手なことを言えばやぶ蛇になりかねない。
「では、お背中を流しましょう。」
そう言って風呂場までついてくるのだ。
「ねえ。何か言ってくださいよ。」
「では、災害時の金利と紙幣発行についてだが・・・。」
「ん、もう。」




