第3章-第19話 ごうゆう
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そのまま、俺は他の従業員と免税店に合流した。
「ねえ、勝った?」
「勝ったよ、だから、皆におすそ分けだ。ほら、一人20万ウォンだ。」
勉に渡したチップと同じくらいだ。
「えー、そんなに勝ったの?いいの?」
従業員は50人くらい来ていたから合計1000万ウォンだ。まだ、換金した1億ウォンのうち9000万ウォン残っているが、これは現地旅行費用に当てるつもりだ。
それに今日の夕食もランクアップしよう。そのように従業員に朝から付いていた現地添乗員にも10万ウォンをチップとして渡してお願いした。
俺も異世界の人へお土産を買っていかなきゃね。でもブランドものも異世界じゃ意味がないかな。
でも韓国って買いたいものが無いんだよな。まさかキムチを買っていくわけにもいかない。ブランドものなら世界共通だし、高いけど品質は間違いなしだからブランドバッグとかでいいか。
・・・・・・・・
今日の夕食は、宮廷料理だそうだ。ランクアップしたからか、ずいぶんと豪華だ。
「ずいぶん豪華ね。聞いていたのと違うんじゃない。支払い大丈夫なの?ああ解かった、カジノで儲かったのね。」
近くに居た貴金属買取ショップのお姉さまから聞かれる。宴席はコイツが仕切っているらしい。いの一番に社員になったから、浮かれているのかもしれない。
「うん、これですべて放出したよ。どうせあぶく銭だしね。次回は期待しないでくれよ。偶々なんだから。」
社員旅行にしては、かなり豪華なものになったと思う。
「いえいえ、ありがとうございます。こんな素敵な社員旅行になるなんて!」
「みんなには、これからいろんなバイトに周って貰わなければいけない。大変だろうけど頑張ってね。」
俺は皆の中央の席に座らされたので激励した。その後は質問大会となった。
「質問!メッツバーガーもやり始めたって本当?」
この娘は、他の場所にある100円ショップのアルバイトだ。
「ああ、本当だ。」
「私もバイトに入れる?」
やる気さえあれば全く問題無い。問題は長続きするか否かだ。
「ああ、別にかまわない。君、通うの大丈夫か?自宅から遠いだろ。」
「そんなのは、へっちゃらよ。あそこは何度も面接を受けたけど、何処も落とされるんだもの。一回やってみたかったのよね。」
ああ、人気職種だから、美人さんばかりだったりするみたいだよな。この子も愛嬌があって可愛いと思うけど。あそこの採用には、ひっかからないかもね。
「まあ、複数の掛け持ちができるほど、バイト代は上げる。だから、頑張って早く一人前になってくれよ。」
「はーい。」
可愛らしく返事をくれる。
「じゃあ、俺も質問?俺も社員になれるかな?」
こっちも古株の相馬くんだ。凄い真剣な目をして聞いてくる。なにかあったのだろうか?
「まあ、君の頑張り次第だ。覚悟ができているなら、契約社員という手もあるぞ。もし子供が出来たとかなら、言ってくれ。優先的に契約社員にするから、家族手当も付けるしな。」
「えっ、本当ですか?実は、俺、彼女を妊娠させちゃって、貯金もないし、もうどうしようかと。」
なるほど、そういう訳だったのか。社員旅行について来たのも、このことを質問したかったのかも知れないな。この男は、そういうことに参加するタイプじゃなかったもの。
「だめだぞ、堕ろそうなんて考えちゃ。彼女もバイトか?」
最近は将来が不安だからと子供を作らない人間が多すぎる。俺は従業員たちに子供作り育てていって欲しいのだ。
「うん、そうだよ。」
「それならば彼女もうちで働いてもらえ!出産後の復帰も後押しするぞ。それに2人ともうちの従業員なら、社宅も半分補助で借りてやるぞ。」
「な、なんで、そこまでしてくれるんですか?」
「だって、従業員は俺の家族だ。家族が困っていたら助けるのが当たり前だろ。」
・・・・・・・
翌日はもう、夕方のフライトで日本に戻る。
まだ少し時間があったので、添乗員さんに射撃場を予約してもらった。観光客向けは10発で数万ウォンというのもあるが、拳銃やライフルを一から教えてくれるコースだ。時間制限はあるが弾は無制限で撃てるという。
「どうした?勉?勝ったか?」
「ううん、負けた!もうやるもんか!」
「そんなに負けたのか?自腹でつぎ込んだのか?」
「いやいや、貰ったチップだけなんだけど、一時1000万ウォンまでいったから、余計に悔しくてね。それに・・・・。」
「ん、なにかあったのか?」
「ううん、なんでもない。あれは一時の夢もう忘れるよ。」
そう言いながらも勉の目には、いつもの穏やかさが無かった。このまま、明日放置するのも心配だな。カジノなんか連れていかなきゃよかった。
「おい、明日もいっしょに遊びに行こうな。」
・・・・・・・
結局、翌日勉も射撃場に付いてきた。まあ、勉なりにストレス発散できればいいさ。
射撃場は郊外へ出たところにあり、観光地にありがちなビルの一室ということも無かった。
センセイは、オリンピックでメダルを取ったこともあるという人だったが、別に横柄でもなく、優しく教えてくれる。実は、指輪を『目』に変えてある。これは、最大1KMまでの前方を視界に二重写しで、下が近くで上が遠くが良く見えるのだ。
まず、拳銃の握り方、構え方、弾の込め方、安全装置の外し方。すべて手取り足取り教えてくれる。なにかベタベタと触られているような気もするが気のせいだろう。
一発目は当然外した、つぎからつぎへと撃っていくと段々と的に近づいており、その感覚はゲームでもやっているような感覚だ。弾を補充し、更に撃ち込んでいく。なんとか、的に当たるようになってきたので、微調整をして的の真ん中に当たるように動いていく。
いったい何発撃ったのか・・・。やっと『目』のコツもわかってきた。的と拳銃と目を一直線にするだけなのだが腕で調整してはいけない。構えは全く変えず、足を使って調整する。
やっと10発連続、的に弾が当たったのを確認して拳銃を台の上に載せた。
「Oh、すばらしいねぇ。ホントにハジメテですか?」
「はい、教官の教え方がいいからですよ。」
横の勉を見てみたが全く的には当たっていないが、なにか鬼気せまるものがある。
しばらく、休憩を挟んだあと、ライフルの構造や弾のこめ方、撃ち方、手入れの仕方まで教えてくれる。
初めは100メートル先の的だ。コツは先程の拳銃をもっと極端にするのだ。身体に完全に固定して、足の調整だけで方向を変える。10発撃って2発、的を掠めた。
10発中8発は的に当たるようになると、200M先の的に変えてもらう。やり方は一緒だ。ただ微調整が細かくなるだけだ。300M、400Mと距離を伸ばして行き、500Mでは、10発で3発当たればいいほうだ。流石に数時間では難しいか。ん、なにか、隣で教官が震えている。どうしたのだろうか。
「すばらしい。軍でスナイパーができるネ。紹介シヨウか?」
まあ、冗談だろうな。きっとお客さんには、皆に言っているんだろう。
カジノ、射撃場・・・というわけで、韓国旅行なんです。




