第5章-第61話 せんげん
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国王として、女性たちに男性パートで踊ることもあるということでつきあっている。ここには、元妻もローズ婆さんも居るのにである。まあ、タルタローネは身体が幼いということで除外されているのだが・・・。
俺が女性パートも踊れることが解かるとクリスティーが指名してきたのだ。どうしても、俺が良いらしい。
そうまで言われれば、仕方が無いと諦めて、曲に身体を任せて踊っているのだ。決してクリスティーにじゃない。クリスティーじゃ無いんだ。
「お前、俺に恥かしい思いをさせるために、隠していたわけじゃないだろうな。上達スピードが尋常じゃねえぞ。」
体格の違いもあるが、クリスティーのリードが尋常じゃない。ワザと体勢を崩してみても、すかさずフォローが入る。
以前よりは、高くなっているはずの身体能力で振り回そうと思っても、いつのまにか、手首をつかまれて封じられてしまう。
「えっ、いや、その・・・。」
どうやら、図星らしい。
「俺なんか、したか?」
セクハラ・・・してるなあ。抱き枕代わりにしてたもんな。
パワハラ・・・も、してるなあ。いきなり国王になれ・・・だもんな。
俺って、最低の上司かも・・・。男の沽券とか、持ち出している場合じゃ無い。呆れられているのかも・・・。国王を簡単に決めたりしたのも、俺と離れられるからだったりして。
クリスティーの満開の笑顔をみていると杞憂だろうけど。
・・・・・・・
アルテミス国で準備を終えた俺は、ローズ婆さんとクリスティーらと共に、ポセイドロ国を再び訪れた。
「どうだ。委任状は、集められたか?」
「はい。議員全てとギルド全て、共に揃いました。」
「そうか。それは凄いな。」
「ただ・・・商業ギルドだけは、揉めに揉めた結果、ギルド長を解任して、纏めたようでして、後々遺恨を残してしまう結果となりました。」
こちらの調査でもその人物は、今回の戦争の仕掛け人というべき人物で戦略物資で巨万の富を築いているという情報があったのだ。
集まった議員たちに俺が考えた政治形態を受け入れるなら、賠償金を100年分割になるという条件を、アルテミス国から引き出したということを伝えた。
政治形態は、日本政府の焼き直しだ。君主として国王を置き、実際の政治運営は、現在の議員たちに任せるというものだ。
日本の天皇と違う点は、拒否権が存在するということだ。民主的な政治活動で予算・法律が作成されても、国王の判断によって、覆すことができる。どちらかというと大統領制に近いかもしれない。
ただし、国王には、法律や予算を提案する権限が無いため、以前のような絶対君主制には、戻らないのが特徴だ。
「その国王が、そこの女なのですか?」
議員たちの視線がローズ婆さんに集まる。それだけは、受け入れられないというのだろう。
「いや、ちがう。君たちの敬愛する転生者とこの国の国王の血筋であるローズさんの間にできた子供だ。」
これを伝えると周囲が騒然となる。議員たちで賛否両論がかわされているようだ。
「その子供は、どこに?」
「今日は連れてきてはいない。しばらくは、俺が代行する。」
「それは、なぜ?」
「唯一の切り札と言える人物を混乱の中、こんなところへ連れてきてどうする。それは全てが決ったあとだ。」
クリスティーには、タルタローネとアンド氏に付き添って貰い、旧王宮からこの国の地下に潜って貰っている。
委任状を取り付けてきた議長を始め、側近たちは、この話をうけることに決めたようだ。
・・・・・・・
「ほ、報告します!み、民衆が、この建物を取り囲んでいますっ。」
突然、衛兵と思われる男が飛び込んできて、大声を張り上げた。
「私じゃない。本当だ、信じてくれ!」
俺が議長に視線を向けると慌てたように、そう言ってくる。
「解っているさ。使うとしても、今のタイミングじゃない。そうだろ。」
俺がそう返すとバツの悪そうな顔を向けてくる。きっと、俺がローズ婆さんを国王に仕立て絶対君主制への王政復古を唱えて強行した場合に使おうと思っていたのだろう。
「兵を入り口まで下がらせろ!早く。議長、周囲を見渡せる場所はあるか?」
「演説する場所が屋上に確保してあります。こちらです。」
俺たちがその場所に着いたのとほぼ同時に衛兵の撤退が完了したようだ。俺は、結界魔法を唱える。これは、単純にある空間に入ってこれなくするためのものだ。
俺たちが壇上に立つと辺りは静まり返った。
「たった今全会一致で決定した。君主に異世界の訪問者である彼を迎え、ここに君主制民主主義国家の樹立を宣言する。」
そう議長が宣言するとどよめきが走った。




