第5章-第57話 いにんじょう
「そんな・・・確かに博愛主義だとは聞いているが・・・それは。それは・・・それなら、1番目と2番目の母はどうなのだ。奴隷から拾い上げられたと聞いている・・・。それも・・・そうなのか?」
「あの頃はお金を稼いではおぼこの奴隷を買っていたわね。奴隷でハーレム作ってどうするのよねえ。まあ、持ったのも初めの5年くらいだったわね。1番目と2番目は20歳を越えて解放という名のポイ捨てよ。」
「俺からも聞いてもいいかな?」
そこで俺からも、ローズ婆さんに質問をしてみる。
「なんでしょうか?」
「彼が王になれば、良かっただけなのでは?」
そうすれば、物凄く単純だ。後々、資本主義を導入することくらい簡単だ。成功させるには、面倒だがひとりひとり、説得しなくてはならない。だが、彼のスキルがあれば、かなり楽なはずだ。
「ええ、それも聞いてみたけど。そんなメンドクサイことは、したく無いんですって。私のモノになるよりも嫌だったらしいわ。」
まあ、そうだろうな。王になるためのスキルと言っても良いくらいのモノを持っていれば、年がら年中そんな役目を押し付けられるわな。それで嫌になって政治の世界から引退したのだろうな。
それなのに無理矢理、クーデターの旗振り役をさせられて、王まで押し付けられそうになったから、弱みにつけこんでローズ婆さんに押し付けたのだろうな。
結局はミイラ取りがミイラになったようだが・・・。それはそれで幸せだったのだろう。羨ましいような羨ましくないような。
似たようなことを経験している俺には良くわかる気がする。まあ、奥さんをポイ捨てする気持ちはわからないが・・・。
「でも、失敗してホッとしたみたいよ。それに30人余りの奥さんから離れられたのも良かったみたい。満足そうな顔をして、亡くなったわよ。くやしいくらいにね。」
「さて、解かったかな?君たちは失敗したんだ。素直にローズさんを担いでおけば、今頃もっと強固な民主主義国家になっていただろうが・・・。まあ、無理だろな。どうせ、強固に反対したのは30人余りの奥さんたちだったのだろう?」
「そ、それは・・・。」
議長さんは顔を背ける。その態度が全てを言い表しているようだ。
無理だろうな。30人余りの奥さんたちの最大のライバルが突然現れて、全てを掻っ攫おうとするのだ。反対するに決っている。
「君たちは、どうしたいのだ。俺が居ない間にアルテミス国を占領してしまえば、何とかなると思っていたのか?」
とりあえず、大幅に脱線したが気を取り直して聞いてみた。
「アレは、急戦派がしたことで、その・・・。」
「まさか、関係ないとは言わぬよな。」
「戦力を蓄えていた貴族たちは、壊滅しました。もう賠償金を払うこともできないくらい、借金だらけでして、正直言って、この国の権限を全てお渡しするくらいしかできません。」
「そうくるか?」
「この国をお救いくださいませ!貴方様なら、その方法をご存知のはずでは?」
「無理だというのは容易いが、この国が荒れ、他国に影響がでるのも見過ごすことは出来ないな。」
「それでは!」
「そう結論を急ぐな。厄介だな・・・ああ、わかった。それでは、全権委任状を議員全員に書いて貰おうか。そして、全てのギルドのトップの委任状もだ。」
「そ、それは・・・。」
「出来ぬか。それができれば戦争なんて仕掛けないよな。ギルドの方は集められるだけで良い。但し!議員の方は全員だ。戦死もしくは不明ならば、代替わりさせよ。君たちの得意な選挙をやっても良いぞ。一週間後に取りに来るから、それまでにな。」
議員全員のを集めないとあとで少数意見がどうのと文句を付けてくる奴が必ず出てくるからだ。
実は、こちらにくる前に各国のギルドに了承を貰い、一時的に為替を1対100でしか交換しないようにしている。
資産を外に持ち出せないとわかれば、委任状を書く気にもなるだろう。
「それでしたら、必ず集めて見せます。」
「よろしい。それから、降伏の証しとして、首都から出る門は全て破壊させてもらう。」
破壊なんてバカバカしいことは、しない。門の外にコンクリート壁をたてるだけだ。基本外開きだから出ることは、できない。念のため、深さ100メートル幅50メートルほどの溝を門を中心とした半径100メートルのところに作っておく。
これで金貨をつぶして持ち出すこともできないはずだ。
「それでは、民が飢えてしまう。」
「何を言う!既に調査済みだぞ。備蓄があれだけあれば十分に持つはずだ。」
俺は昨日、諜報活動の結果の備蓄がある場所を全てあげていく。みるみるうちにに青ざめていく議員たち。中には議長もその存在を知らなかったものもあり、議長が問いただしたところ、篭城の際に馬鹿高い値段で売りさばこうとしていたらしい。
「それに十分市場も動いている。1週間どころか1ヵ月だって籠城できるだろう。」




