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第5章-第54話 しそう

お読み頂きましてありがとうございます。

「待ってくれ。せめて明後日、いや明日でいい。皆の前で説明してくれないだろうか。この通りだ。お願いする。」


 とうとう土下座までする辺境伯。初めからその態度なら、冷たいことなど言わないのに・・・。


「そうだな。君の説明だけでは、納得しない輩も多いだろうから、1日だけ待ってやろう。それで貴族なり議員なり、好きなだけ集めてくるんだな。俺は、隣の迎賓館に滞在するから。」


「ありがとう。ありがとうございます。」


 巨漢が泣き笑い顔で縋りつこうとするので『移動』で逃げる。全く嫌がられているのが解かっていないらしい。


「あっそれから。明日の朝、迎賓館の周囲を民衆が取り囲んでいたら、その場でアルテミス国に戻るから、そのつもりで・・・。」


 偶に居るんだよな。民衆という数の暴力で押せばなんとかなると思っている指導者が・・・。そこはキッチリと釘を刺しておかなくてはな。


 辺境伯の目が泳いでいた。


・・・・・・・


 俺は、ついでにこの国の現状を把握しておこうと渚佑子と2人で首都を散策することにした。こういう時は顔が知られていないのは助かる。アルには申し訳ないが遥か後方から付いてきてもらう。


 しばらく歩くと、戦時中なためか。それとも民主主義の過渡期なのか。ところどころで壇上に立ち、自らの政治思想を集まった民衆に訴えでいる姿を目にすることになった。


 まるでヨーロッパ史の教科書のようである。そこで気付く、この世界の民主主義思想はいったいどこから来ているのだろうか。


 ヨーロッパ史を紐解くと数々の思想家が現れては消えていき、思想が対立したり、派閥が出来たり、果てはそれを実践する政治家が現れと紆余曲折を経て現代の民主主義に繋がったのだが、この世界の民主主義は、いきなり議会制民主主義に到達しているのである。


 普通は王をクーデターで排除すれば、王族の中でも自分に近しい人間を王に据えて政治を行って行くのが常道なはずである。


 形は一部貴族が権力を持ち歪だが、それが一速飛びに議会制民主主義の形態を取っているのである。


「渚佑子。おかしいと思わないか?この国の政治形態・・・。あまりにも完成されすぎている。」


「こういうものじゃないのですか?民主主義って。」


 彼女なら、そう返すだろう。中学や大検で必要な知識レベルで最終的に理想とするのは日本の民主主義だ。


「ああ、あきらかに日本の若者が知っているレベルの民主主義の模倣だ。こんなことってあるのだろうか?」


 この世界の政治思想に詳しいわけでは無いのでしっかりした歴史があり、その発展形態としてこの世界の民主主義に繋がっているのかもしれないが、幾多の政治家が実践して作り上げたような形跡が全く無いことに疑問が湧いたのだ。


「そう言われれば、そうですね。これで天皇が居れば、明治政府そのままですね。」


・・・・・・・


「ちょっと、そこの影に隠れよう。」


 しばらく散策を続けていたのだが、顔を知っている人間を壇上に見かけたので物陰から様子を伺うことにしたのだ。


 その人物は、先程疑惑を抱いたこの国の議長だ。こちらの情報では傀儡と目されている人物だが、国の中枢部でふんぞり返っているわけでは無いようだ。


 ひと際多くの人々を集めているところを見ると議長本人に間違い無いようだ。年齢はみたところ50代といったところ、辺境伯のようにぶくぶくに太っているわけではないが、かなり恰幅の良い体型をしている。


「彼は理解してくれるはずだ。彼はこの国を救ってくれる、私はそう信じている。」


 彼は壇上で時には野次を受けながらも真剣な眼差しで民衆に理解を訴えていた。どうも先程から聞いていると俺が彼の思想を理解すると勝手に考えているようだ。


 現代日本から召喚されてきたことから、頭からそう勝手に決め付けているようだ。民主主義はいいものだと・・・。とすると彼も過去に召喚された若者なのか、それとも、ヤンデレ神父のように転生者なのだろうか。


「渚佑子、彼は『勇者』なのだろうか?」


 私が指輪の『鑑』で見たかぎりだと特にそういった情報は得られない。但し、『勇者』は自分の情報を一部開示しないことも選択できるらしい。


「違うと思います。特に不自然な点もありません。ただ、偽装を得意とするスキルを持っている場合はその限りではありませんので何とも・・・。すみません。」


 彼女のスキルも完全では無いようだ。


 議長の壇上での言動から推察すると、この世界の民主主義と日本の民主主義は土台が全く違うことが解かっていないらしい。日本でも仮にモンスターが蔓延るようになれば、民主主義も資本主義もあっさりと崩壊してしまうだろう。


 モンスターを討伐するために国民に重税を掛ければ、その政権は力を失うだろうし、株主への配当と従業員への給与で大半の利益を失う資本主義では、1度でもモンスターに襲われれば、会社の存続も危うくなってしまう。


 せめて産業革命が起こっていれば、金を持つ者が貴族中心から平民へと移るのでなんとかなるかもしれないが・・・。それを期待することも出来ないのである。


 しかも、モンスター討伐の要となるべき王を排除してしまっているのだ。にっちもさっちもいかなくなっていることは容易に想像がつく。


 だからと言って彼に譲歩する言われはないが条件によっては、ある程度譲歩しても構わないのかもしれない。それは、明日の彼の回答次第となるはずだ。



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