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第5章-第53話 ばかばかしい

お読み頂きましてありがとうございます。

「夜には戻りますので、浮気しちゃダメよ。」


 約1名、もうモノにしたつもりの婆さんが居るが、それは気にせず打ち合わせ通り、諜報・破壊工作部隊に散開するように指示を出す。


 何の音もさせずに部隊が消えていく。


「さあ、俺たちも行こうか?アルスティッポス。」


 残ったメンバーは、渚佑子と近衛師団団長代理のアルスティッポスと数名の団員だ。


「言いにくいだろ。アルって呼んでくれ。」


 アルは、割と頻繁にポセイドロ国に来るようでこの国に詳しい。前回も随行員の1人として付いてきていた。


 顔を覚えられていない俺が名乗るよりも彼を傍に付けて、この国の中枢部の面々に面会を求めるほうがスムーズに行くだろうとメルハンデスが配慮して付けてくれたらしい。


 どうも、俺と婆さんとの監視役も務めている様子だった。あんな婆さんと疑われるのはバカバカしい限りだが、それで安心できるのならと不承不承、同行を許した。


 それくらい、メルハンデスは血走った目で訴えてきたので、溜飲を下げた俺は了承したというわけだ。


・・・・・・・


「貴様たち何者だ!」


 俺たちが隣の建物に入ろうとすると衛兵が駆けつけてきて道を塞ぐ。


「俺はアルテミス国伯爵のトム・チバラギだ。呼ばれたので来たのだか・・・。」


「そんなバカな・・・。ん、アル団長・・・ということは、本物か。し、少々、お待ち頂けますでしょうか?」


「ダメだ!通せ、通さなければ、すぐに帰る。俺の能力は知っているのだろう?」


 俺は、数名の随行員と共に『移動』で来たことを装う。この魔法は既にポセイドロ国のみならず、全ての国に知れ渡っている。


 衛兵は数秒考えたのち、通すことに決めたようだ。今、帰してしまえば、どんな咎めを受けるかわからないと判断したのだろう。


・・・・・・・


「ん、誰だ。ここには誰も通すなと言っておいただろうが・・・。」


 冷や汗をかいている衛兵を横目に、目の前の人物の名前を記憶から呼び覚ます。たしか、副議長の・・・。


「お呼びだそうで、参上いたしました。クロノポン辺境伯。」


 クロノポンは、ここからさらに南下したところにある大陸外との商船で賑わう港町を含んだ辺境の領主で、この国で有数の力を持つ貴族の1人だ。


「そ、そんな、バカな。」


 俺と目線を合わせると驚愕のためか目を見開く。


「バカな事をしているのはそちらのほうでしょう?限られた時間しか無い事はご説明しましたよね。こんなバカがやるバカバカしい事態を招いたのはなぜでしょう?」


 大事なことなのでバカを3回繰り返す。4回か。


「そ、それは・・・。」


 辺境伯は目を泳がせている。


「軍をお引きください。そうでなければ、この国に関わる時間がますます無くなります。明らかに優先順位が下がりますので当分の間、自国で処理してくださいね。」


 何も答えられない辺境伯に対して、バカ丁寧な口調で冷たい宣告をしていく。


「そ、そんな。」


 辺境伯の顔は、焦りなのか真っ青になっていく。


「では、失礼します。」


 俺が踵を返そうとすると悲痛な声が追ってくる。


「待ってくれ。何が欲しい、何でも言ってくれ。地位か、名誉か、お金か。何でも用意しよう。」


 俺を買収しようというつもりなのかほとんど無条件降伏のような条件だ。


「そういうのも、嫌いだと言いましたよね。」


 俺は振り向いて、縋りつこうと追ってくる辺境伯を『移動』で回避する。俺には男に抱きつかれて喜ぶ趣味は無い。ましてや、相手はぶくぶくと太った巨漢だ。気持ち悪いことこのうえ無い。


 俺は俺の目的があって、この世界に滞在している。その目的も達成できた今、後の時間は休暇中の無償奉仕のつもりなのだ。


 この世界の人々がダンジョンという天災で苦しむことの無い世界を作るための手助けができればと思っているだけだ。


 各国を回るとそういった誘惑をする輩が多い。大半は自国の優先順位を上げてもらおうと必死なので笑って拒絶するだけで終ったのだが、ポセイドロ国は特に酷い。


 黄金の饅頭からあきらかにその手の類の女性の斡旋、それを拒否するとご息女の人身御供的な側室の斡旋、爵位など当たり前。しかも何を考えているのか領地付きの爵位までありとあらゆる手段を使ってきたのだ。


 その時にポセイドロ国の伯爵以上を集めて、改めて拒絶の方針を伝え、これ以上買収を行うなら、優先順位を最下位に落とすとまで宣告していたのだ。


 全く、これだから剣と魔法の世界で民主主義を標榜すること自体が理解できないのだ。地位も名誉もお金も権力も持つ一部の貴族が買収に走ることなど簡単に解かるだろうに・・・。


 お金に屈しない人間は少ない。例え屈しなくても権力が持つ暴力や名誉が持つ魅力にまで屈しない人間はほとんど居ないに違いない。


 国王というトップが居て法治国家として形をなしているのに、それを崩してまで多数決という原理原則でことを動かせば、こうなることなどわかりそうなのに・・・。


 俺でもこの世界から出られないのであれば、そのどれかに屈していたに違いない。だか、この世界からするとお客さんの立場で期限付きでこの世界に滞在している俺からするとそのどれも全く魅力が無い。


 それよりも友人と接してくれる人たちの引きとめの方が怖いくらいだ。

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