第4章-第51話 きらい
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「ダンジョンの方は?」
街道が通れないということは、あとはダンジョンの中を突っ切ってくるしかない。だが、あそこも数々の魔法陣で仕掛けがされている。
仲間と引き離されて駐留軍のど真ん中に転送されるのはマシな方で、街道の溜め池の真上や四方を壁に取り囲まれた完全な袋小路に転送されたり、大変な目にあうだろう。
「通り抜けてくるのは100人に1人か2人くらいなのじゃ。」
ポセイドロ軍にも結構優秀な兵士がいるようだ。それは、是非ともスカウトしなければいけないな。
「その通り抜けてきた兵はどうなりました?」
「抵抗をする人間は殺したようなのじゃが、素直に捕虜になった人間は丁重に扱っておるじゃろう。」
「溜め池の中の遺体は?」
「おう、手はず通りしばらく蓋をしてから火を放って炭化させておるのじゃ。」
メタンガスが溜まるので簡単に燃え上がるはずである。それに生きている人間が居たとしてもガスで酸欠状態になってしまうだろう。
対魔獣に用意した仕掛けをそのまま、人間に応用しているようだ。これが日本なら人道的見地から、なにかしらの意見が付けられるところだろうがこの世界では関係無いようだ。
「向こうの人間もこの練習用ダンジョンの有用性については、考慮しているみたいで取り壊してまで侵攻しようとする様子は見えないのじゃ。俵糧攻めにするつもりかもしれんな。」
「それにしても良くもまあ、それだけの軍備を・・・まさか・・・。」
「そのまさかじゃろう。初めからその機会を窺っていたようじゃ。」
この軍備を被害が出た村々に向けていれば、犠牲者は少なくて済んだだろうに自国民に犠牲を払ってまで戦争を仕掛けようなんざ、正気の沙汰じゃないな。
「・・・これは憶測なんじゃが、例の村はワザと魔獣に襲わせたのじゃないかと思われるのじゃ。」
えっ!マジ?
「君たちに付けた随行員の中に居た魔獣専門の調査員の話だと、村に居た魔獣の数が圧倒的に少ないと言うのじゃよ。」
これはメルハンデスの仕業だな。きっと。諜報員か何かだろうな。
「偶然かもしれんのじゃが若干だが犠牲者の中に真新しい刀傷を受けた跡を見つけたのじゃ。その犠牲者は身体中、魔獣に貪り喰われて一番損傷が激しかったようなんじゃ。」
これはクリスティーに聞かせられない話だな。もし聞いていれば真っ先に飛び出して行くに違いない・・・・・・。
「まさかそれは、動けなくした村人の血で呼び寄せた。ということですか。」
横で聞いていた渚佑子が詰め寄る。同じように横で聞いていたアポロディーナは、こみ上げる吐き気と戦っているようだ。
「あくまで憶測じゃからのう。下手なことをすれば、国家の威信に関わる問題じゃ。メッタな事は言えんのじゃよ。」
「それで、国内の親ポセイドロ派を煽動した訳ですか?メルハンデス!」
俺はギルドの奥に潜んでいる人物に問うた。
メルハンデスは悪びれた様子も無く出てくる。
「お爺様!」
「一石二鳥だからな。」
「それで俺に見極めに行けと?」
「ああ、あと2週間は出てこない予定だったのでな。もうそうするしか無い状況まで追い込まれる予定だったんだが・・・。」
「追い込まれたポセイドロ国がハアデス国に軍を差し向けるというわけか。俺を怒らせてそのままポセイドロ国を滅ぼすのも良し、ポセイドロ国に連れ込まれた後でこの事実をポセイドロ国の諜報員から聞かされる手はずだったのだろう。」
メルハンデスはニヤニヤと笑っている。
「こういう手段が嫌いだと教えたはずだよな。メルハンデス!俺は帰っても構わないんだぞ!」
「私はこういう手口しか使えない人間ですので・・・。それにクリスティーたちを放り出せないでしょう?貴方は。」
こちらの人間性も折り込み済みらしい。
「お爺様!」
もう少しだけ揺さぶりをかけてみるか。
「大丈夫か?孫娘に嫌われても知らないぞ。」
「そうです!お爺様なんか、大嫌い!!」
流石のメルハンデスも顔を歪ませる。
一応効果はあったようだが、ここまでか。不本意だが掌で踊ってやろう。
「わかった。直接行って見極めてくる。首都に直接乗り込めば陥落出来るだけの精鋭部隊を貸してくれ。アポロディーナは、ここに残り俺が帰ってくるまで、先程のセリフをメルハンデスに毎日言い続けることを命じる。」
「わかりました。お爺様に会う度に言い続けます。お母様にも協力してもらいます。」
その途端に真っ青になるメルハンデス。流石に愛娘と孫娘のダブル攻撃は効くらしい。
「生かさず殺さずだアポロディーナ。5回に1回くらいランダムに優しくすると効果的だぞ、きっと。」
あんまり言われ続けると麻痺してしまうからな。
「はい!最も効果的なキライを極めて見せます!」
メルハンデスは真っ青から赤黒い顔に変化している。
「言われなくてもするだろうが、旧王族派への繋ぎも宜しくな。」
うーん、追い詰めすぎたか。聞こえていないかもしれないな。




