第4章-第49話 こんび
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「待て!」
ハアデス国の地下25階に行ったときだった。ここにも泉が広がっており皆がいつものように水筒を出している。
「渚佑子、これはなんだ?俺の指輪では『腐水』と出ているようなんだが。」
渚佑子にスキルの『鑑定』と『知識』で確認してもらう。俺の指輪の『鑑』では成分とかろうじて飲めないと、しか出ないのだ。
「・・・これは・・・アンテッド、死体にかけると、自在に動かすことができるようです。但し、闇属性を持つ人間しか扱えないようです。」
「俺なら、扱えるということか?」
「そうですね。ですから、ヤンデレ神父に触れさせれば只の水に変わるでしょう。」
「それなら、この黒い水筒に汲んでおこう。」
俺は黒い水筒に汲み上げて、ヤンデレ神父に指示をする。そうすると湖の周囲が明るくなったと思ったら、辺りから悲鳴が聞こえてくる。どうやら、ここの湖に依存している生き物が生息しているみたいだ。
この生き物たちからすると只の水が毒なのだろう。しかも純粋な光属性を持つ人間なのだ。悲鳴が呻き声に変わり、そして静寂が訪れた。
改めて渚佑子といいヤンデレ神父といい勇者たちは凄いな。しかも、ヤンデレ神父は怒りの強弱で身体から漏れ出している光属性の魔力が変わるらしい。余程、軍曹さんにからかわれたのが腹に据えかねているようだ。
時折、からかわれた内容を思い出すのか、漏れている光属性の魔力が急激に増えるときがあるのだ。
「あースッとした。」
ヤンデレ神父さえ居れば攻略は簡単そうに思われるだろうがそうはいかない。彼には腕力もないし体力も無い。だから、スケルトン系には圧倒的な光属性攻撃でねじふせるが物理攻撃が必要なスライム系には全く歯が立たないようだ。
せいぜいがスライムから受けた攻撃で発生する状態異常をリセットする位だ。
なので、ここまで来るのに5日間も掛かっていたりする。まあ、彼が居なければ、聖水を大量消費しても倍以上掛かっただろうが。
「さあ、ここで休憩するとしようか?」
「こんなところでかよ。もっと先に進もうぜ!」
周囲を見回すとやはり、慣れない戦い方に他の攻略者たちが疲労困憊状態になっている。体力の無い彼にはあらゆる属性攻撃を行えるアポロディーナが付いており、全ての属性のスライムに対応できるペアになっているためだ。
「周囲を見ろ!1人で突っ走るな!」
「あれぇ!皆、体力無いな!」
こりゃダメだ。どうやら、リーダー的素質は無いようだ。まあ状況判断が的確に出来るなら、『正義』なんてスキルは選ばないだろう。
俺は無言で扉を壁に取り付け、空間連結を使い、自宅に繋げる。
付き合いきれん!
しばらく昼寝でもしよう。
そう思い、扉を開けメッツバーガーの倉庫に一歩踏み入れる。
・・・・・・・
なにか様子がおかしい。
いつもののんびりした雰囲気じゃなくなっている。
「どうした!」
俺は留守番役と思われる1人の攻略者を捕まえる。
「伯爵!良かった。ここに詰めてて、休憩しにきたんですよね。」
「ああ少し昼寝したら、戻るつもりだったんだが。いったい、どうしたんだ!他の皆はどこに行った?」
「それがポセイドロ国が宣戦布告してきたんです。」
「何!要求はまさか・・・。」
「そのまさかです。ダンジョン攻略部隊を引き渡せと・・・。」
「クリスティーは、どうした?王宮か?」
「いえ、親ポセイドロの貴族たちに隊長以下、主要メンバーが拘束されています。私は偶々、王都を離れており、難を逃れました。ここに居れば必ず、伯爵が休憩のため、戻って来るだろうと思いまして。」
なかなか、的確な判断力だ。この娘はリーダー向きのようだ。候補としておこう。
「聞いての通りだ。」
後ろからやってきて一緒に聞いていたメンバーに振り向く。
「加担している親ポセイドロの貴族たちは全体からすると何割くらいだ?」
留守番役の攻略者が名前を上げていく。
「今のところ3割くらいですね。」
宰相のサポート役もこなしているだけあってアポロディーナからすぐに欲しい回答が返ってくる。
「ただ、これから増える可能性もあります。」
「そうだろうな。」
アルテミス国ではダンジョンからの被害が少ない。早急に攻略する必要が無いのだ。目の前の危機さえ乗り越えれば何とかなると踏んできたら、一気に傾くに違いない。
「だから、君はここで手を引いてくれないか?」
俺は一番この中で冷静でいられなさそうな、ヤンデレ神父に声をかける。
「そんな卑怯な奴らには、俺が『正義』の鉄槌を下してやる!」
やっぱり、こう来るか。いろいろ面倒だがひとつひとつ説明するか。
「君はまだ正式なメンバーになっておらず、ハアデス国から派遣されている。だから、君が参戦するとハアデス国がちょっかいを出したことになるのだ。」




