第4章-第48話 ていちゃく
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「ズルい。・・・ズルい。ズルい。ズルい。ズルい。なんてズルい男なんだ。」
そう言って、ツンデレ神父は溜息をついた。
「だが教皇の件は謝らないぞ。神父さんには教皇になって貰って、このダンジョン攻略チームを見守って貰わなきゃならないんだからな。」
「解かった。解かったよ。お礼も言わさせてくれない気だな。なら、教皇を引き受ける代わりに、帰るまで毎日1回でいいから、こうやって抱きしめてくれよ。男に触れない教皇なんて無いだろ。」
そう言って抱きついてくる。確かにまだ強張りが抜けないようだ。
だが、間近にそれも息が掛かるほどの位置にエトランジュ様と同じ顔があるのだ。こちらが動揺してしまう。これでは、あのブタ野郎と同じではないか。それだけは知られる訳にはいかないのだ。
「ダメだ。目を瞑ってはダメ。ほら、エトランジュ様とか言ったよな。その女性に似ているんだろ。好きなだけ見れるチャンスだぞ。」
げっ、覚えていたのか。
そう言って無理矢理、目を開かせられた。こりゃ一種の苦行だな。だがツンデレ神父も冷や汗をかいている。そこまでして嫌がらせをしなくても・・・。
「ダメよ。トム伯爵は皆の共同財産なの!独り占めはダメ!」
いつの間にかそう決っていたようだ。渚佑子がそう言って無理矢理、彼を引き剥がそうとするが彼の方が力強い。
「なによ。貴方の『正義』はどうしたのよ。人の嫌がることはできないんでしょ。」
「ええ、なにせヤンデレなんでね。人の嫌がることでも好意の裏返しなら、なんでも出来るはず・・・そうなんでもできるさ。」
開き直りやがった。
だが、それは真理かもしれない。誰かに好意を向けるためならば、彼の中の『正義』に反することでもできるようなのだ。たとえ、それが好意の押し付けであっても・・・。
なんだ。それなら、教皇なんて無理矢理押し付けなくても良かったんじゃないか。教皇になれば、彼の中の『正義』のままに生きられると思ったんだが・・・。
これでは、名前通りのウザイ男ではないか。
「つまらん。」
思わず、呟いてしまう。折角、軍曹さんとツンデレ神父という娯楽が出来たと思ったのに、もうお終いなのか?からかって楽しもうと思っていたのに・・・。
「私に攻撃するのも愛情の裏返しなのね。なら、貴方のお母さまを紹介しなさいよ。ねえ。」
そこに軍曹さんが割り込んでくる。からかう気満々なのは、そのオネェ口調からも解る。
「がー、そんなわけねえだろ。お前は純粋に嫌い。き・ら・い、なんだ、解かったか。この糞野郎。」
「その罵倒さえ、愛情の裏返しなのね。それって、嬉しいかも・・・。・・・ちょ、ちょっと、待って!」
さらに続く軍曹さんの言葉にとうとうキレて、攻撃魔法をぶっ放すツンデレ神父だった。
これならば当分は楽しめそうだ。俺は『移動』で逃げながら、そんなことを思っていた。
・・・・・・・
いよいよ、ハアデス国のダンジョンだ。
「あんのヤローが。」
キーン・・・バン。
「糞野郎。」
ズーン。バン。
魔獣の近くに現れた3つのダンジョンは日が浅いせいなのか、いずれも地下10階までしかなく。散々ダンジョンに到着するまでに軍曹さんにからかわれた腹いせにツンデレ神父が瞬殺していく。
はっきり言って、他のメンバーの出番が全く無いうちに3つ全てのダンジョンの攻略が終ってしまったのだ。
・・・・・・・
「あれは?」
ようやく、本来の一つ目のダンジョンまでやって来た。その地に駐留している部隊の人間に聞いてみる。近くに軍人とは思えない顔が混じっていたのだ。
「ああ、あれはポセイドロ国の使節団ですね。ああやって、ダンジョン攻略の進捗を監視しているみたいなんです。」
俺はそれを聞いて溜息をつく。ここ数日間に渡るハアデス国での騒動でかなりの日数を使ってしまっていたのだ。
話掛ければ嫌味の1つや2つは覚悟しなくてはならないだろうな。それでなくても、アルテミス国の自宅には、何度も催促の手紙が届けられているようなのだ。
「挨拶に行ったほうがいいか?」
「別にいいと思いますよ。正式な使節団じゃ無いみたいですし、こちらが質問してもぼそぼそと答えるだけで特に何かを言ってくるわけでも無いんですよ。」
それならいいか。挨拶がしたければ、向こうのほうからするのが礼儀だ。こちらが気に掛ける必要もないだろう。
・・・・・・・
ダンジョンに入ると当然、ツンデレ神父の独壇場だ。それに彼だけが、経験値不足なため、一気にレベル上げが必要だった。
何故かアポロディーナの言うことだけは素直に良く聞いたので魔法陣にも碌に引っ掛らない。まあ『鑑定』スキルで読み取っているのだろうが・・・。
「しかし、コレを何処で手に入れてきたんだ?剣と魔法の世界ならあるはずだと思い、散々探したのに・・・。」
ツンデレ神父が言っているのは、レアのMPポーションのことだ。どうも彼は転生するときに神からそう言ったことを聞いてなかったようだ。
まあ、『正義』の中身も確かめずに選択するような人間だ。神の言うことなんか、碌々聞いてなかったのだろうが・・・。
「ああそれは、元の世界から持ち込んできたものだ。いつまでもあるとは、思うなよ。ツ・・神父さんがある程度レベルが上がれば終わりだ。」
思わずツンデレ神父と言いかけてしまう。このところの軍曹さんの流布のせいで、すっかり攻略チーム内でも辺境の村でもツンデレ神父と呼ばれるようになっている。
「もういいよ。言い直さなくても、へぇへぇ、どうせ、ツンデレさ。ヤンデレさ。どんな風にでも呼んでくれ。」
「じゃあ、ヤンデレ神父さま、で。」
「なぜ、そっち!」
最近、ヤンデレ神父は突っ込みも関西人のように鋭くなってきている。




