第4章-第47話 きょうこう
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俺たちは問答無用でシスターを連れてこの教団本部があるアルテミス国に『移動』した。
「こんな所に連れて来て、どうしょうと言うの。・・・・・・わたしは喋らないわよ。喋るものか!」
俺の意図に気がついたのだろう。シスターはブルブル震えながら、その醜い顔をさらに歪ませる。
もちろん、こちらにはアポイントを取ってあるので、すぐに面識のある教皇様の前へ通される。
「これはトム伯爵、ダンジョン攻略は進んでいますか。教団として出来ることはどんなことでも致しますので遠慮なく仰ってくださいな。」
シスターは俺がダンジョン攻略の顧問をしていることさえ知らなかったようだ。顔が真っ青になって、今にも漏らしそうだ。
「ありがとうございます。早速、甘えさせて頂けたらと思い参上致しました。」
「ほう、シスターが何かしでかしたのですか?」
俺は教皇様に全てを説明した。
「なんと言うことを、それはまことなのか?どうなんだ大司教長よ。」
「いえ、私は知りませんわ。いったい、何の証拠があって仰っておられるのか皆目見当も尽きませぬ。それならば、その私の身体に痕が残っている筈です。調べて頂けませんか。」
即席で考えたにしてはなかなか良い言い訳だ。いくら女性だからって、この人のはちょっと見たくないな。
「それは、まかりならん!すぐにでも処罰していただかないと、この映像が正面の映像装置に延々と流れることになりますぞ。」
俺は一連のやりとりをスマホで撮影したものを教皇様に見せた。この教団本部は俺の自宅のすぐ傍にあり、自宅の壁に設置した巨大映像装置をいつも見ているはずだ。映像装置には現時点のダンジョン攻略の進捗が映し出しているからだ。
今度は教皇様が真っ青になる番だった。
「こんなものを見られたら、うちの信用は地に落ちてしまう。よし、解った。即刻処罰しよう。」
「他の人々の調査は1ヶ月待ちましょう、調査が済み次第概要を教えてください。その後、ハアデス国の問題の建物を全て破壊したい。神父さんもあんな建物など見たくないだろう?」
ツンデレ神父は、一瞬首を縦に振ろうとしたが、俺の目の前に向き直りこう言った。
「お待ちください!あの建物はハアデス国の皆の心の寄りどころです。私のことは構わないので、そんな事はなさらないでください。」
まあ、ツンデレ神父ならそう言うのだろう。何せ『正義』の制約があるからな。俺はいつかはこの世界から居なくなる人間だから、多少恨まれても問題ないが、ここに残る人間に対して恨みが残ってしまっては意味がないのだ。
「ありがとうございます。ロード・ウ・ザイガイ殿。そうだ、ハアデス国の後任はあなたにお願い出来ないでしょうか。」
余程、ツンデレ神父をつなぎ止めたいようだ。万が一、この事実が明るみに出てしまっては教皇様の首のすげ替え程度では済みそうにないからだ。
「いえ私は、伯爵様の下で一生をダンジョン攻略に捧げると誓った身ですので、お心遣いは有り難いのですが・・・。」
「なんと、こんな心までお美しい方に何てことを・・・。とにかく、あなたはこの教団に、そして世界になくてはならない方だ。そうだ、ダンジョン攻略と言えば、この世界を救うお方、私の後継者にぴったりです。ああ、心配はいらない。ダンジョン攻略を気の済むまでおやりになればいい。そのあとならば、問題ないでしょう?」
うむ、この状況を逆手にとって、教団の宣伝に使うとは、全くあっぱれな古狸だ。
「や「許す。それならば、許そう。俺が帰るときに神官さんの就任式が見れるというわけだ。」、え、ちょ・「っ・・・・・・勿論でございます。」」
俺は断ろうとしているのを遮って了承を出す。ツンデレ神父も思ってもみない展開だったろうが、古狸にとってもこんなに早く、教団を辞めなくてはいけなくなるとは思ってもみなかったに違いない。
だが、この教団を救う為にはうんと言うしか手がないことも解ったはずだ。そして、どんな汚い手を使ってでも全ての関係者を黙らせることを実行するに違いない。
これで教皇に就任したあとにツンデレ神父を敵視する人間は居なくなるはずだし、汚い手段の使えない彼が教皇から引きずりおろされることも無いはずなのだ。
・・・・・・・
「すまん。恥ずかしい思いをさせてしまった。」
恐らく教団の裏の人間と思われる・・・を連れ、ハアデス国の教会に『移動』後、その場を彼に任せて、辺境に『移動』した。
周囲に軍曹さんと渚佑子しか居ないのを見計らって頭を下げる。あれしか手段がなかったとは思うが、彼が思い出したくも無い過去を思い出さされたのは事実だし、さらに踏みにじられたのだ。ここは素直に謝っておくに限る。




