第4章-第46話 ごうりゅう
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その後、彼ら2人が乱闘騒ぎを起こし、宴席はお開きとなった。
それでも、何処と無く明るい表情の神父さんとその様子に満足そうな軍曹さんは純粋に喧嘩をしてスッキリした様子だった。
・・・・・・・
翌朝、神父さんと軍曹さんを連れてこの国の王都に『移動』した。
「これ便利だなぁ。これで毎日送り迎えしてくんない?」
「俺に軍曹さんのナンパの手伝いをしろと?」
軍曹さんの思っていることなど見え見えだ。
「顔のきく色街に案内してやっからよ。」
興味あるがそこまでバカではないつもりだ。しかし、この場だからよかった、うちの女性陣の前でしていたら、袋叩きが1名追加されていただろう。いや先程から、渚佑子のキツい視線が向けられていていつキレるかとハラハラしどうしだ。
「お前な。伯爵様をそんなところにお連れするんじゃない。」
俺が断りの返事を入れようとすると、横から神父さんが口を挟んだ。
「神父さん?どうしたんだ。ずいぶん態度が変わっちゃって、もしかして、デレた?」
神父さんの顔が真っ赤になっていく。俺が『移動』して逃げ出すと同時に光攻撃魔法を放った。軍曹さんは予想済みなのだろう。スルリとかわす。
「こら。こんな街中でぶっ放すんじゃない。」
彼の後ろに回り込んでいた俺は羽交い締めにして耳元で囁いた。
「止め・・・離して・・・。」
俺は慌てて離す。彼は硬直し冷や汗を流しているようだ。いったい教会でどんな扱いを受けたのか。ここはしっかりと釘を刺しておかなければいけないな。
「俺はツンデレでもヤンデレでも無い!」
「ツンデレって何だ。ヤンデレってどういう意味だい?そもそも好きになったのかと聞いただけだろ。」
どうやら、俺たちに施されている翻訳能力が勝手に脳内の語彙を使ってデレたと聞こえたらしい。変に優秀な能力だ。
「・・・・・・・・・・。」
下手なことを言ったとわかったんだろう、彼はそのまま沈黙を守っている。
「じゃあ伯爵様・・・渚佑子ちゃんでもいいや。教えてくれよう。」
俺は黙っているつもりだったが、渚佑子に振られたら・・・例のスイッチが入ってしまうだろう。
「ツンデレはね。好意を上手く伝えられなくてツンツンしているのだけれど、ある時を境にデレデレした状態になるのね。」
バカ丁寧な説明が気持ち悪い。ツンデレには複数の意味があったはずだが、今のシチュエーションにぴったりな説明をしてくれる。
何か嫌だな。俺たちが残した言葉が「ヤンデレ」と「ツンデレ」になってしまう。
「ヤンデレはね。精神的病の人間が好意とは思えないような行動をしてしまうことを言うの。丁度、今のあなたたちの関係のことかしら。」
「ちげえよ。確かに軍曹さんには心を軽くしてもらったけどよ。それはそう言うんじゃないんだ。・・・何を言わせるこのアマぁ。」
また、墓穴掘ってるよこの人。
「きゃあ怖い!あら、神父さんが軍曹さんに攻撃魔法を撃てるのは好意の裏返しだからでしょ。
そう言って俺の後ろに隠れるなよ渚佑子。でも、確かに『正義』の制約に引っ掛からないからこそ攻撃魔法を撃てるのだ。
「うふ。いーこと聞いちゃったな。こんどからツンデレ神父って呼んであげるよ。これは皆に広めなきゃ。」
そう隊長さんが言うとツンデレ神父は真っ赤になって俯いてしまった。本格的にデレてしまったようだ。
・・・・・・・
軍曹さんたちをしばらく借りようとハアデス国の軍のトップに面会を求めた。
「よお、また偉くなってんじゃないか。大将さまか?」
「カザフィ、お前田舎勤務を満喫してるんじゃなかったのか?」
彼らは士官学校の同期だそうだ。こんな大将に顔が利くのに飛ばされたということは、権力者の奥方にでも手を出したのだな。
「それでよ。今回、トム伯爵の下で働くことになったんだわ。いいだろう。これで出世間違いなし。」
「わかった。わかった。特別にトム伯爵の指揮下に居る期間限定で中隊長に任命してやるから、近くの1個中隊を向かわせるよ。それでよろしいかな、伯爵殿。」
「ああ、それでよい。」
大将はあっさりと1個中隊の指揮権を彼に渡すことを了承してくれた。中隊の指揮くらいわけでもないくらい軍曹さんは優秀なようだ。元々、協定で軍からはダンジョン周囲の警備をお願いしていたのだ。
「じゃあな。今度来たときは、酒でも付き合え。」
「女じゃないのか?」
「ああ、お前のおごりでな。それでよろしいですか、伯爵さま。」
まだ、『移動』を使っての都の色街は諦めていないらしい。
・・・・・・・
次は教会だ。
「おまちください。おまちください・・・。」
アポイント無視で教会内部に入り込んでいく。
「なんだね。君は、私は忙しいのよ。」
「彼をスカウトしようと思いましてね。」
俺がそう言うと目の前のシスターが振り向く。
うわっ。聞いてはいたが凄い。エラが張った四角い顔に割れあご。身体もごつくプロレスラーのようだ。その女性が下品な笑みを漏らす。気持ち悪い!
「彼をお稚児さんにでもしようと言うの。言っておきますけど彼にそんな才能はないわね。まあ、顔は良かったから、楽しまさせてもらったわね。それに彼の再生治療で綺麗な身体に戻れるのよ。ねえ、皆。」
周囲にいた関係者が全て顔を逸らしている。
綺麗な顔をした男性ばかりだ。どうも、すべてお手つきにされているようだった。よくあの顔相手にできるよなあ。
これだけのことをされても、彼は何ひとつ聖職者には攻撃できないらしい。全く厄介な制約だ。
「特にこの辺りが弱点らしく、ブルブル震えて喜んどった。のう、ウ・ザイガイ。」
目の前のシスターが彼の身体を触ろうと近寄ってきた、そのときだった。
ドンッ。
余りの酷い言い草にキレかかっていたのは、俺だけじゃなかったようだ。渚佑子がこの下品なシスターに向かって、ギリギリ外して『ファイアボール』を撃ち込んだのだ。
「アチ、アチ・・・き、貴女、何をしたか解かっているの?この国の国民が皆、讃える大司祭長さまなのよ。」




