第4章-第44話 しんぷ
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「エトランジュ様・・・。」
どうもホームシックになっているようだ。同じ白銀の長い髪に透き通るような白い肌の彼を見たとき、思わずそう呟いてしまった。
彼はこの世界の神父が着る服を着ていたことから、途中通ってきた教会の神父らしい。兵舎で何か祝い事があると、こうやってやってきては兵舎の酒蔵のお酒を楽しんでいるらしい。
「俺は女じゃねえよ。」
俺の呟きが聞こえていたらしい。
「まさか、おめえも俺に姉か妹が居るか聞きてえわけでもないんだろうな?」
どうやら、そういった質問を過去に何度となくされてうんざりしていることが丸わかりだ。
それほど、彼は美しかったのだ。俺も偶に飲み屋などでこの華奢な身体や指などが綺麗だと全然褒め言葉になってないことを言われた経験があるので解かっているつもりだ。
それにしても、凄く言葉遣いが悪い神父さんだ。これでも、貴族の子息らしくロード・ウ・ザイガイという。
「ねーちゃん、ねーちゃん、イイコトしようよー。」
村を守り通した俺たちは頑丈な兵舎に避難していた村人たちから歓待をうけている。もう1人の英雄である軍曹さんは、もうかなりできあがっているようだ。
彼が都で女性で失敗したことは既に村じゅうに知れ渡っているようで、村を救ったにも関わらず、どの女性にも相手をされていない。それでも、構わずナンパしているのだから、凄いとしか言いようが無い。
「渚佑子ちゃーん。ねえ、そんなに逃げなくてもいいじゃん。」
渚佑子は、軍曹さんが苦手のようで先程から俺の傍にピッタリくっつき離れない。
「伯爵さまぁ。これだけ、成果を上げれば都に戻れるよねぇ。」
また来た。
「確約は出来ないが、報告の際には、しっかり伝えておくよ。」
答えられる人間がこの場に俺しか居ないせいか。さっきから、何度もからんでくる。いや、それとなくみていると、一般兵にも絡んでいる。
鬱陶しい限りだ。聞いた話では複数の女性と不倫を重ねていたらしく都では修羅場が待っているはずなのに、そこまで思い入れられるなんて。余程、彼にとって都は、いいところなんだろうな。
「神父さん、神父さん。本当に女の兄弟はいないの?隠してるんじゃないの?」
どうやら元凶は軍曹さんのようだ。
「おめえよ。いい加減にしつこいって言ってんだろ。死にさらせ、この糞野郎!」
俺は思わず、軍曹さんの傍を離れる。
危ない。いきなり、彼が光攻撃魔法をぶっ放したのだ。ヤバい。あれを食らったら死ぬ。例の紐パンの唯一の弱点である光攻撃魔法の使い手にこんな所で出会うとは・・・。
軍曹さんは、酔っているとは思えないくらいの反射神経でそれをスルリとかわし俺を盾にしようとしてくる。
ヤバい、ヤバい。とにかく、指輪を『守』にして・・・と。これで即死は免れるだろう。
目の前の彼は、目が据わっている。
「っつ。」
2発目が俺の肩を掠める。ヤバい。飲みすぎたのか、後ろの軍曹さんの力が強いのか、上手く避けられない。
バキッ。
「トムに何さらすんじゃ我!」
俺が『移動』を使って抜け出したのと渚佑子が彼を殴り倒したのがほぼ同時だった。
ドカッ。
「コノヤロウ!」
今度は、アポロディーナだ。アポロディーナもこんな言葉遣いができるんだ。
ドカッ。バキッ。バキッ。ドカッ。バキッ。
次々とうちの攻略チームの人間が現れては、囲い込んでいく。
俺って愛されてるな・・・。なんて、言ってる場合じゃない、あの人数で袋叩きにしたら死んでしまう。ましてや、力強い元冒険者ばかりなのだ。
「止めなさい!」
俺は肩の痛みを堪えながら、攻略者たちをひとりひとり引き剥がす。
「ほら、渚佑子。もういいから、治療してくれないか。っ痛う・・・。」
俺は少々大袈裟に呻いてみせる。
「は、はい!「俺がやったことだ。俺が治す。」」
どこにそんな元気が残っていたのか。袋叩きが止まった途端、瞬時に俺の傍に来て治療を始める。どうも魔法の並列起動が出来るようで、右手で俺の怪我を治しながら、左手で自分の怪我を治していく。
しかも、治療後が全く解らないほど綺麗に治った。普通は、周囲の皮膚の色と違うものだが全く境目が解らない。
ま、まさか・・・。
「日本でスマホと言えば?」
「ドッコデモに決ってるじゃねえか。」
引っかかった。意外とマヌケだ。しかも、ドッコデモ信者ときたもんだ。
「そこはZiphoneと言ってくれ。君は転生者か?」
他に召喚者が居るとは聞いていないし、この世界の召喚魔法は多人数で行う必要があるから、密かに行ったとも思えないのだ。
「し、しまった。なんでそれを・・・。」
簡単に語るに落ちてくなあ。滅茶苦茶騙されやすそうだ。
「君は何故、ダンジョン攻略に参加しない!それだけの能力があれば簡単だろう。」
「そんな、うぜーことやっとれるか。」
「まあいい。嫌でも参加してもらおう。君を貰い受けるには、教会に頼めばいいのか?」
「何を勝手に・・・。」




