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第4章-第41話 あきちゃん

お読み頂きましてありがとうございます。

「な、なんで、お前が・・・。」


 俺がダンジョンの情報を得ようと王宮のタンタローネの住まいに訪ねると元妻が居たのだ。


「なんでって、私たち仲良くなったのよ。ねぇーっ。」


「そうだのう。足手まといとはいえ、元奥さんをこんなところへ押し込んでおいて、会いにもこないなんて、薄情なやつだのう。」


 う。なんか元妻とタンタローネが仲良くなっている。


「いいえ、ここにはワタクシの意志で来たのよ。」


 ほら、こういう女なんだ。記憶を失っても本質は変わらない。男に依存しなくては生きられないらしい。


「なにか勘違いをしているようだけど、ここで侍女として働いているのよ。」


 えっ。


「そうなんですか。メルハンデス殿。」


 王宮で案内役を勝手出てくれたメルハンデスに聞く。


「ああ。彼女はどこの国のものかはわからないが礼儀作法も身に付いているし、身元もしっかりしているので雇うことにしたのだよ。」


 まあ、豪徳寺家令嬢として基本的なことなんだろうな。そういえば、見合いの席でも、流れるようでかつ華麗な食事作法を見せてくれたのだった。


 それでいて当時は高慢な女じゃなかった・・・そこに惚れたんだが・・・。いや、いつからあんな女になったのか。


「トム殿にも面識があって、秘密を守ってくれそうな。ちょうどいい人選ということでタンタローネ付きに陛下が選ばれたのだよ。」


 うっ、それでは、文句をつけようが無いじゃないか。


「あなたとワタクシの間には、タルタローネ様くらいの娘がいるのでしょう。それなら、練習にちょうどいいじゃない。ということで、ワタクシも了解しましたの。」


 例のことは聞いてないのか。この場でDNA鑑定書を出すなんて、無粋だよな。


「それは、タルタローネさんに失礼ではないのか。」


「我は構わん。なんならアキちゃんと呼んでもかまわんぞ。」


 えっ。今日はいったいどれだけ驚かされるのだろう。


「なぜその名前を・・・。」


「我の正式名は、ココ・チャネル・クリスティーン・アキラーダ・タルタローネなのだよ。小さいときはアキって呼ばれていたのだよ。」


 なるほど。


 だが、アキエと同じくらいの年齢の子供を間に挟んでいると、錯覚しそうになるな。あの幸せだったころを思い出して・・・。


「では、参ろうかの。」


・・・・・・・


 タルタローネは、どういうつもりなのか。俺と元妻の手を引いて近くの扉から外にでていく。


「後宮の前の庭は誰でも出入り自由なのだよ。帝都のころと寸分違わない庭を見たとき、思わず涙が零れそうになったぞ。そこのベンチが我のお気に入りの場所でな。こうやって、お母様とお父様の間に座って、お茶を嗜んだものなんだよ。」


 少し木陰になっているベンチに俺と元妻を座らせ、その間にチョコンと座っている。


 そこへメルハンデスが手配したのか、お茶が用意されていく。もちろん、元妻も用意する側だ。接待される側だったら、文句を言ってやろうと思ったのに何も言えなくなった。


 そういえば、紅茶を入れるのが得意だったよなぁ。


 令嬢の趣味なんてそんなものかもしれない。俺は、出されたお茶に手を付けながらそんなことを思い浮かべていた。


 ヤバイ、これでは、元妻の術中に嵌っていくではないか。わからん。元妻は何を考えているんだ・・・。


 いや、彼女にできることをやっているだけなのだろう。


 どうしても、彼女と別れた元妻を同一視してしまうが、中身は18歳の少女なのだ。


 無表情を装いながらも頭の中では、悶々と考え続けている。頭がパンクしそうだ。


「どうしたのだ。そんなに汗をかいて、ここは、そんなに暑いか?」


 タルタローネが上目使いで見上げてくる。これが本物のアキエなら抱きしめて心を落ち着かせるところだが、流石にもうロリコン扱いはされたくない。


 それを我慢していたら、日射病のように目が回ってきた。


・・・・・・・


 目を覚ますと俺はベンチで寝かされていた。額には濡れタオルが置かれており、冷たくて気持ちいい。どうやら、俺は、あのまま倒れてしまったようだ。さらに視線を動かすとそこには、元妻の顔があった。膝枕をしてくれているらしい。


「貴方は働き過ぎよ。貴方に倒れられて心配する人がたくさん居るのだから・・・ね。」


 心配そうな顔に笑顔を貼り付けた元妻に言われてしまう。誰のせいでこんなことになっていると思っているんだか・・・いや、俺が悪いんだな。


 俺は目を瞑る。そんな表情の元妻を正視できなかったからだ。


「ん。ありがとう。」


 しばらく経って、俺は頭を上げる。それでも、元妻と視線を交わせない。


 いつの間にか、アポロディーナもクリスティも傍に来ている。本当に心配させてしまったようだ。


「よかったぁ。」


 それまで黙って、見守っていてくれた渚佑子が俺の胸に飛び込んでくる。


 うっすらと涙を浮かべる表情を見て思う。


 何をグダグダとやってるんだ俺は。


 元妻の何が怖いというのだ。


 もう、考えないことにしようと思うのだった。

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