第3章-第39話 そうだん
お読み頂きましてありがとうございます。
実は、扉は練習用のダンジョンに隣接し周囲を高い壁で覆った訓練所に繋げたのだ。
ここは、男性ばかりの駐留する軍が女性ばかりの攻略チームを目の毒とばかりに訓練用の広場を別に設置してほしいと要請してきたため、設置したものだ。
こちらとしても、軍から度々、訓練を覗きこまれたり、声援なのか罵声なのかよくわからない声を掛けてきたり、ナンパを仕掛けてきたりと訓練に支障が出ていたし、駐留軍の軍人たちには閉口していたので、その要請に乗っただげだ。
・・・・・・・
いざとなれば、駐留する軍も近くで待機してもらっているので、全力で叩くつもりだったのだが、その心配は杞憂に終ったようだ。
こちら側に連れ込んだ途端、モンスター化していた手や足は、元の幼女の姿に戻ったのである。
残りの攻略者たちも、徐々に撤退してきている。重傷者は居ないものの、40階のボスだった狼たちが10頭も居ればほとんど敵わない。
それだけのことを即座に判断して撤退していることだけでも凄いと思う。男性の冒険者ならば、腕試しと称して幾人かの死者がでていることだろう。
最後に殿の渚佑子が扉から出てきたと思ったら、ひと際大きく毛色が派手めの狼が付いてくる。
「姫、ご無事ですか?」
こちらのモンスターも人族の言葉を喋れるようだ。そして、徐々に変化していき長毛種の小型犬に変化していくと攻略者たちの間をすり抜け、幼女の下に駆けつけた。
耳毛が長くその部分だけ黒と茶色が入り混じっている。日本で言う「パピヨン」のようだ。
「む。ミンティー、不覚を取ってしもうた。すまぬ。」
ロープで雁字搦めの上、油でベトベトの姿の幼女が言う。
「姫、なんというお労しい姿。きさまら、恥かしくないのか?」
いや、少し恥かしいかも、なんとなく幼児虐待をしている気分になってきている。
「渚佑子、洗ってやってくれるか?」
俺は、自空間からボディソープを取り出して手渡し、幼女を縛っているロープも渡す。『洗浄』魔法では、あそこまで酷い油汚れまでとれそうにない。
訓練所には、当然シャワールームも存在するのでそちらに連れていく。
「さて、こちらも少し洗うか。」
この小型犬にもかなりの油がこびり付いているのだ。
まあ、幼女が通ってきたところを歩いてきた上、地面を引き摺るような長毛種なのだ。当然、ベトベトだ。
俺が軽く犬を洗い、訓練所のベンチで指輪の『炎』と『ウィンド』で即席の温風のドライヤーで、わしゃわしゃと毛を乾かしていると、ようやく、幼女と渚佑子が出てきた。
「おお、ミンティー気持ち良さそうだぞ。」
シャンプーをするのは、散々嫌がった犬だったが、乾燥のため温風のドライヤーを掛けだした途端、お腹を見せて、そこかしこを手櫛で擦るように指示しだしたのだ。
「いえ、その、あの、姫、某は・・・。」
「まあよい。まだ乾いていないのであろう。しっかりと乾かしてもらえ。でも、その温風は気持ちよさそうだ。ちと我にもしてくれぬか。」
「クゥーン。」
犬が生乾きの状態で俺の膝から降りて、他のベンチに移動すると代わりに幼女が膝の上に乗ってくる。確かに髪の毛が生乾きだ。
再び指輪の『炎』と『ウィンド』で温風のドライヤーを作り出し、幼女の髪に掛け手櫛で髪を梳く。
「おお、気持ちいいのだ。」
ご満悦の様子だ。日本では、よく風呂上りのアキエにしてあげたので手馴れたものだ。
ちなみに渚佑子は『熱風』という火魔法と風魔法の攻撃魔法しか使えないそうだ。
犬には、渚佑子が代わりに『洗浄』魔法を掛けようとするが拒否されたらしい。よほど、この温風のドライヤー気に入ったようだ。
幼女の髪が乾き、再び犬に取り掛かるとその様子を羨ましそうに見守るシャワーを浴びてきたらしい攻略者たちの列が出来上がっていた。
なにかい。十数名分の女性の髪を乾かせと・・・。
・・・・・・・
「それで、わしらをどうする気か。殺すか?」
ソレを俺の膝の上で犬のお腹を乾かしている状態で言われてもなぁ。
「こちらの要求は、初めに言った通りだ。」
「だが、わしはお主たちを殺そうとしたのだぞ。」
「解かりました。そこは追加要求をしましょう。」
「なんだ。わしの身体か?先ほど、頭を乾かしてくれているとき、お主とてもうれしそうだったぞ。」
それはアキエを思い出していたからで・・・。
一斉に攻略者の女性たちが引いていく。
「冗談じゃ。おぬしら、からかいがいがあるのだ。」
全くだ。反応が良すぎだろう。
「では、ダンジョン攻略を手伝ってくれないだろうか。」
彼女が戦力になってくれれば、想定よりも早くチームを2分することが可能になるだろう。そうすれば、攻略のスピードは格段に上がる。
「わしに仲間を裏切れと言うのか?」
「仲間じゃ無いだろう。」
「なぜ、そう思う。」
このダンジョンはゼススの代以前からあるダンジョンなのだ。周囲の魔獣の凶暴度もゼススの死以降に発生しているダンジョンと比べると大したことはない。いかにも誰かがコントロールしているかのようだったのだ。
そこへ来てこの幼女だ。疑うなという方がおかしいだろう。
「何じゃ、どうしたんじゃ。ダンジョンのボスを捕まえたというのは、本当か?」
ああ、このタイミングで、陛下か。なんで通すかな。とクリスティの方を向くと視線を反らされてしまった。何か弱みでも握られているらしい。




