第3章-第37話 もんすたーのなぞ
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そのまま地下35階まで行き休憩となった。俺は空間連結用の扉を取り出して自宅に繋ぐ。商品の仕入や逆入札の様子を確認するためだ。
こういうとき、俺は根っからの商人なんだと自覚する。決してダンジョン攻略をおろそかにするつもりは毛頭ないがどうしても気になってしまうのである。
それこそ、『境渡り』魔法で日本の状況も確かめたいのだが、こちらで1ヶ月が日本での2時間なのだから何も変わって居ないはずだ。
そこはグッと我慢することにする。でないと、日本でスマホで数分間喋っただけでこちらでは数日過ぎていたってこともあり得るのだ。
全ての用事が済み、ダンジョンに帰る時だった。一匹の鼠が傍を通ったのだ。こちらの世界では、普通に見かける。
そして、空間連結で繋いでおいた扉に入っていく。
しまったな。閉めておくべきだった。
俺は、そのまま扉を潜ると、いきなり、クリスティが切りかかってきたのだ。
「待て!」
俺の制止も聞かず、例の紐パンの防衛圏内に入り込んだ。クリスティが弾かれていく。
俺、何かしたか。
確かに添い寝して貰ったときにクリスティに抱きつかれたので、その硬い胸を堪能したけど・・・寝ぼけていたんだろうし・・・な。
昨夜もクリスティに抱きついて寝たんだっけ・・・でも、その後怒っている様子は無かったんだがな・・・。
「待て!待て待て待て!俺だ!伯爵だ!。」
殺気立っていた周囲の空気が緩和されていく。
うへっ!こんな殺気立った彼女たちは初めてみた。まあ冒険者のような職業はこれくらいが普通なのかもしれないな。
今までがぬるま湯過ぎたのかもしれん。
「ご無事でしたか!」
無事って、今クリスティに殺されかけたけどな。だが、そういう意味では無いらしい。
「だから、いったいどうしたっていうんだ。アポロディーナ、説明してみろ!」
「その扉から・・・・・・・・から・・・・・・・。」
アポロディーナに聞いた俺が悪いようだ。クリスティは置いておいて・・・・。
「わかった・・・・渚佑子、わかりやすく説明してくれ。」
「その扉から、入ってきたんです。小さい犬でした。チワワくらい?」
チワワってこっちの世界にいるのか?
『知識』を持つ渚佑子が言っているんだから、きっと居るんだろう。
「それでその犬がどうした?」
「それが突然、モンスターくらいの大きさになったと思ったら、急に襲い掛かってきたんです。」
ん、空間連結したときにどこかから紛れ込んだのか?
そんなことは無いはずだ。他の世界を経由しているとはいえ、繋がるとしても、ここは地下だぞ。そんなモンスターが紛れ込む余地は無いはずだ。
「そのモンスターはどうしたんだ?逃げて行ったのか?」
「半分くらい・・・は、後の半分は、その場で殺しました。」
まさか・・・まさかな。
「殺したモンスターはどうなった?」
「ほとんどは、他のモンスターと同じように塵になったのですが、僅かに小さな骨を残すモノもいました。鼠でも丸飲みしたんでしょうか。」
うーん、・・・・可能性はあるか。さあどうする。
試してみるしかないか・・・。
俺は、彼女たちに少し説明して、扉を引き返す。
ああ、ハアデス国に、お馬鹿さんが居て助かった。ハンバーガーの材料の肉を仕入れるのに牛は居ないようだったので仔羊の肉を指定したら、子羊を1頭持ってきた人がいたんだよな。
俺はブツブツとぼやきながら、隣の部屋に入っていく。そして繋がれた子羊の首輪の代わりにオリハルコン鋼とミスリル鋼を繊維状にして編み上げたロープで軽く結びあげて、ダンジョンに繋がらる扉から向こう側に押し込む。
スマホのタイマーで3分ほど経ったのを確認しておもむろに引っ張る。10センチ、20センチ・・・と思ったら方向転換したらしく、一気に子羊がコッチにやってくる。
やはりな。
こっちに引っ張り込んだときは、巨大な熊だったのがみるみるうちに元の子羊の姿に戻っていく。
メェー。
ごめん、ごめん。怖い思いをさせちゃったな。そのまま子羊の頭を撫でてやる。
どうやら、ダンジョンの中に生き物が入り込むとモンスター化するみたいだな。
・・・・・・・
再び、ダンジョン側に入り、今度は空間連結を閉じる。向こう側で巨大な熊が子羊の姿に戻ったことを皆に説明する。
「解りました。でもなんで人間は、モンスター化しないのでしょう。」
皆を代表してアポロディーナが質問してくる。きっと皆が疑問に思っていたのだろう。そこかしこで攻略者たちがこちらに耳を傾けている。下手をすると自分たちがモンスター化してしまうかもしれないからだ。
「ただの勘だが、レベルとダンジョンの深さに関係しているんじゃないかな。俺たちがモンスター化するなら、とっくの昔にしていると思う。」
「というと、子供を連れて来ればモンスターに変化すると・・・?」
「ああ、流石に試してみたいとは思わないがな。」
「では、ダンジョンに子供を近づけるな!と早急に通達を出さなくては・・・。」
「それもそうだが、ダンジョンの入り口付近を完全に閉鎖して、小動物が入り込まないようにする必要もありそうだな。」
「おそらく、それは・・・。」
無理だろうな。そこまで予算があるかどうか・・・。アルテミス国はそこそこ動いてくれそうだが、他の国が証拠も無しに動いてくれるとは、到底思えない。
「とにかく、このダンジョンを攻略して、謎を解き明かしていくしかないな。」
また、謎がひとつ解き明かされました。




