第3章-第35話 けはい
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俺は指輪を『警』に変更した。これは、周囲にモノが大きく動くことがあった場合、脳に直接警告を与えてくれるのだ。
今回の場合、モンスターがこの部屋に近づいてきたときのことを想定している。もちろん、寝ずの番をしてくれる見張りは別にいるのだが、活用しない手はないだろう。
寝て1時間くらい経ったころだろうか頭痛に良く似た指輪の警告が頭に鳴り響く。指輪を『鑑』に変え、周囲を伺う。まだ、誰も気付いていないようで、見張りに目を向けるが特に騒いでいないようだ。
ゆっくりと身体を引き上げてみるとクリスティの姿が見えない。うーん、トイレかなにかだろうか。なら、起きて待っているのも失礼かもしれないな。俺は、再び寝袋の中に潜り込むと寝た振りをした。
しばらくするとクリスティが戻って来たようだ。
指輪を『警』に戻し、再びまどろみの中に潜り込んでいく。
それから30分くらい経っただろうか、また指輪の警告が頭に鳴り響く。
もしかして、これって意外と使えないのか?
確かに誰かがトイレに行くたびに起こされたのでは、堪ったものではない。だが、皆就寝前にトイレに行ったはずだし、その仮眠中の仲間を起こさないようにすることは冒険者としても基本中の基本だと聞いた覚えもある。
指輪を『鑑』にして周囲を伺う。居ないのはクリスティみたいだ。
何処に行ったのだろうと何気に探索を使ってみると部屋の隅に居るようだ。
たしか、仮設トイレを設置した方向じゃない。
何をしているのだろうか?
体調でも悪くなったのか?
普段の様子では全く感じないが、隊長としての重圧にストレスを感じたりしてはいないだろうか。
考えがどんどん悪い方向に傾きかけている。ダメだ、とにかく、見に行ってみよう。
俺が皆を起こさないようにクリスティの後ろに忍び寄っていく。
ん。
クリスティは、向こう側を向いているが、手に持っているのは、各人がバラバラになっても暫く大丈夫なように持たせている非常食、カ○リーメイトだ。
さらに近づいて行くとあのクッキー状の非常食をボリボリと噛んでいる音が耳に入ってくる。
俺は、そうっと、クリスティの背中を指1本で触る。
ぶーーーー。
案の定、口に入っていたモノを吐き出し、振り向いて睨みつけてくるクリスティ。
「お前、何をやっているんだ?」
周囲の女性たちを起こさないようにできるだけ、小さな声で囁く。
「お前、死にたいのか?」
この非常食があれば、ダンジョン内に取り残されたとしても、数日間餓死を免れるはずだ。まあ、餓鬼のようなクリスティでも2日間は持つだろう。
あくまで非常の際の食事なのだ。それを今消費してしまえば、どうなるか。誰の目にも明らかだ。
「だって・・・。」
これで、女性チームトップクラスの冒険者チームのリーダーなのだろうか?いや冒険者ギルドの副ギルド長だっけ。余計にこういう基本をしっかりと推し進める側に立って活動してきているはずなのだが・・・。
「俺が何を言いたいか解かっているだろう?」
今にも泣きそうな目でコクンコクンと頷くクリスティ・・・。
「ほら、ほしかったんだろ。こっちを食べろ。」
俺は、自空間からハンバーガーをいくつかとドリンクを取り出して手渡す。
「いや、トリプルバーガーとヒレカツバーガーとミートソースバーガーとポテトLLサイズを・・・。」
全然、反省してないらしい。仕方が無いので言われたものを手渡す。後で予備のカ○リーメイトを渡しておこう。今渡すと胃のなかに直行されそうだからな。
「ほら、リクエストを聞くぞ。何がいいんだ。」
指輪を『鑑』にしている所為で周囲の女性たちが起きているのが解かるのだ。すぐ近くで美味しそうな食べ物の臭いがすれば、仕方がないか・・・。
お腹が空いたからと非常食に手を出されたら意味が無いのでリクエストを聞くことにしたのだ。
「あとね。テリヤキチキンとアップルパイ。」
クリスティはまだ食べる気らしい。
・・・・・・・
結局、周囲の女性の食欲を十分に満たすことに専念した結果、無駄にした睡眠時間は合計2時間。
指輪はそのままで何かあればクリスティに起して貰うつもりで抱きついて寝る。流石にグロッキーだ。もう何も考えられない・・・。
「これ、どうする?」
なにか遠くの方で声がする。
「離れませんけど・・・。」
俺は、ハッとしてクリスティから離れる。寝不足が祟っており、思考がうまく回らない。
今にも二度寝してしまいそうだ。




