第3章-第33話 わな
お読み頂きましてありがとうございます。
ここからがいよいよ本番だ。
このダンジョンの調査隊は地下10階までしか調査を行って居ないため、詳しい情報が全くないのだ。
ただ、超古代文明の文献には、いくつかの分類がなされている。
それは、モンスターの種類だ。
ダンジョンには、2種類から5種類ほどの種族が現れる。例えば、このダンジョンの場合、犬と熊だ。
犬といっても狼も含まれるから3種類かもしれないが、各個体の強い弱いは、地下に潜るほど強くなっていく。だが、基本的な動作は同じだ。
犬なら飛び掛るのが主要な攻撃手段だし、熊なら鋭い爪を使った攻撃だったりする。
このダンジョンが最初の攻略地点として選ばれたのには、2つの意味があるのだ。
1つは、地下10階まで調査がされていたこと、もう1つがモンスターが地上にも多く居る種族であるということだ。
冒険者であるからには、討伐・護衛任務が主な仕事だ。その際の敵は犬もしくは熊であることが多いから、経験数としては格段に多いにちがいない。
・・・・・・・
未調査な地下11階以降も徐々に相手が強くなっているようだが、基本的な警戒方法などを変えずに済むのが大きい。
ダンジョンによっては、モンスターの種族がゴブリンとオークだったり、スケルトンとスライムだったりするのだ。
スケルトンがカタカタと大きな音を立てている間にいつの間にかスライムに忍び寄られそうな組み合わせだ。
中には、竜と鬼という最凶の組み合わせもあるという話だ。
だが、俺としょうこにとっては、犬と熊という組み合わせが最凶だった。
「何をやってるんだい。全くもう。」
ワンコのあの訴えてくるようなつぶらな瞳を見るとどうしても躊躇してしまうのだ。もっと、最悪なのは、まるっきりぬいぐるみのような小熊まで現れるのだ。
相手は、攻略チームの蟻の這い出る隙もない陣形をくぐり抜けてくる手負いのモンスターだというのに硬直してしまうのである。
そのたびにクリスティに守ってもらう始末なのだ。
例の紐パンがなければ何度、大怪我を負っているか・・・。
「しょうこは、割と平気みたいだな。」
「平気じゃないですよ。昔は家で大型犬を飼っていましたから。さっきから撫で回したくて仕方ないのですよ。」
「でも、良く見てください。瞳の奥を・・・。」
彼女には、瞳の奥のモンスターの敵意が読み取れるらしい。まあ飼い主は飼い犬の瞳であいての言いたいことが解るというからなぁ。」
!
そうだ。指輪を『翻』にしておけば・・・。
余計まずかった。相手の悲痛な本音を聞かされたら、硬直どころじゃない。ノイローゼになりそうだった。
指輪は元に戻したが悲痛な声が耳について離れない俺は、ひたすらクリスティの影に隠れるのだった。
・・・・・・・
いよいよ20階のボス部屋のそばまでやってきた。
なぜか、15階にはボスは居なかったが宝箱だけがおいてあった。
ここまでに攻略者たちの半分以上がレベルアップしている。もちろん相当数の敵と遭遇し倒してきたからだ。
怪我人は、多少でたものの重症者は出ていない。まずまずと言っていいだろう。
皆も休憩の必要性を痛感したのだろう。こちらが特別に何も言わなくても休憩する場所を選定する作業に掛かっている。
けして、おやつ目当てじゃないと思いたいところだ。
だが、広い場所は確保できず、奥が行き止まりの長い通りに少しバラけて休憩することになった。
「えー、おやつ無いんですか。」
今回は仮眠をかねての休憩だ。
「こんな時間から食べたら、太るぞ!」
「・・・・・・・・・・・。」
俺がそう言うと皆、黙り込む。冒険者といえども女性なのだなと感心していると・・・。
「私はテリヤキチキンバーガーとトリプルハンバーガーとクリームパイとポテトLLサイズにコーラビッグサイズね。」
ここで空気を読まない女が1人・・・・・・・・クリスティだ。
身体が大きいだけあって大食漢だ。今度は俺のほうが黙り込んでしまう。
「いいなあ。お姉さまは太らなくて・・・。」
アポロディーナの話では、まるで成長期の中学生のようにクリスティはいくら食べても太らないタイプのようだ。
俺は黙ったまま、言われたものを自空間から取り出して手渡していく。
それをクリスティがムシャムシャと食べ出すと、たまりかねたように周囲の攻略者たちからも、注文が入る。
「アポロディーナはそれだけでいいのか?」
「はい。決してつられて食べないことにしているんです。さもないと大変なことに・・・。」
「ディーナは最近まで、コロコロだったもんな。」
「それは、お姉さまにつられるからで、ここ数年は一緒に食事をする機会が減ったから、痩せたんですよ。一緒に食事するようになったら、どうしようかと悩んでいたんですよ。でも、このカップサラダがあるから、大丈夫。」
「悪い!それが最後だ。」
多くのメッツバーガーの材料を持ってきていたが、さすがにサラダだけは、それ程売れないので少ししか持ってきて居なかったのだ。
だが女性ばかりだったせいか、あっという間に底をついてしまったというわけだ。
「えー・・・・・・・。」
アポロディーナは、大仰にふらふらっといきどまりになっている奥に行き、壁に手を突いて嘆いてみせる。
カチッ。
何かスイッチが入った音がしたと思ったら、アポロディーナが手を突いた壁が光り出す。あれは罠の魔法陣が動作しているようだ。
パニックになったアポロディーナを押しのけ、魔法陣に近づく。
何!
俺が魔法陣を読み取ったときにはもう遅かった。どこからか出てきた玉が行き止まりの奥に向かってゆっくりと転がり出したのだ。
はじめてのピンチ?




