第2章-第23話 ゆうせんど
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ハアデス国、デメテアル国、セレスティア国と巡り、帰宅するとそこには、若干やつれた姿の渚佑子と鈴江が居た。この数日間トコトンやり合ったようである。
「トム、このバカ女に何か言ってやってください。買い物を任せたところ最初の1日で1ヶ月分の食費を使い切ってしまったんですよ。」
まあ、そうだろうな。結構なお嬢様だったころの記憶しか残っていないのだ。結婚前でも浪費が酷かったわけではないが結婚後は倹約するということにも慣れたようでそれなりにやってきていたのだがな。
それくらいのことは、やってのけるだろう。そして、それを悪いとも思わない。それがお嬢様ってやつだから仕方が無い。
この後から俺に出会うまで、自分で稼いで自分で使うということを数年はやってきたのだ。それなりに出来るようになっていてもおかしくはない。
それもまあ、倹約には一過言あるであろう渚佑子にかかれば、大した違いはないのであろうが・・・。
・・・・・・・
「それでどうだったのじゃ。」
翌日は、御前会議だ。
国王は、御簾の向こう側に座っており、会議の様子を見守るというのが、いつもの会議のやり方だという。
もちろん、会議には冒険者ギルド代表としてアンド氏が出席しており、会議の船頭役を務めているところをみると、御簾の向こう側にいるのは影武者なのだろう。
「各国とも被害は甚大であり、特にハアデス国、ポセイドロ国は多くの犠牲者が出ており、優先的に対処しなくてはならないと思います。」
そうなのである。ポセイドロ国のインパクトの強い悲惨な状況を確認した後でも印象に残るほど、ハアデス国の被害は酷いものであったのだ。
ポセイドロ国とは違い、人口が少ないハアデス国は、高原地帯に村や都市があるため、ろくな城壁を築けないらしく。人海戦術で人間の壁を設置せざるを得ない状況で首都と主要な産業である鉱山を守るので精一杯だったのだ。
今後もさらに被害が出続ける可能性が高いハアデス国を最優先に対処すべきが大勢を占めたが、ポセイドロ国を優先すべきという意見も出た。
クリスティだ。
「お主は自分の故郷だから、そう言うのであろう?」
そう言って反対するのはメルハンデスだ。
「違います。あの国にそのまま任せておいても迅速に対応できない。もっと被害が出る前に対処すべきです。」
「しかたがなかろう。あの国は、今は合議制なのだ。我々君主制の国とは違い、鶴の一声というものが無い、何事も決めるのが遅くなる。それでもあれだけの軍隊規模を誇るのだから、十分に持つというのが君たちから聞いた内容だったと思うが・・・。」
ポセイドロ国には、君主が居ないらしい。先々代の国王が悪政だったらしく。先代時代に耐え切れなくなった民衆がクーデターを引き起こし、王制を廃止してしまったのだという。
クーデターを支援した貴族を中心として合議制の国に生まれ変わったそうだ。
寿命が長い分だけ、長期間の圧制に苦しめられる。逆に良い政治を行っても短期間ではなにも変わらない。偶に政権交代をする日本がいい例だ。
民衆が望む政治を行っても、周囲の人々が前のやり方に慣れていると誰も協力しない。そうすると無能扱いだ。民衆は長期的な視点で考えてくれないのが普通だ。
さらに災害でも発生すればどんな有能な政治家であっても、強権を振るうしか能がなくなってしまう。その場をうまく乗り切っても、誰も評価してくれない。強権の責任を取って退陣に追い込まれていくのだ。
同じ二大政党制のアメリカは、官僚も政党によってごっそり代わるので上手くいっているのだ。単純に日本と比較してはいけないだろうに・・・。
圧制後の極端な例を言うとフランス革命直後の政治体制になることが多いようだ。つまり、我を正義と過信し独裁政治になるのである。その点、ポセイドロ国は比較的良いほうの部類に属するほうだろう。
・・・・・・・
その後の協議により、この2カ国を交互に対処する事が決定した。
皆、それぞれに言いたいことがあるようだったが、最終的には、いつの間にか御簾に戻っていたアンド氏・・・いや国王の鶴の一声で決定したのだ。
「皆、それでよいな。トム殿もそれでよろしいかな?」
俺だけには、別途聞いてくる。異論はない。が。
「わたくしなどより、市民の代表でもあるアンド氏の意見を聞いてみたらいかがでしょう?」
すこし茶目っ気を出して俺がそう言うと、陛下は押し黙る。
「・・・・・・・・・・・・。」
大粒の汗が陛下の額に吹き出している。きっと定番のセリフがあると思ったんだが誰も今まで質問する人間が居なかったようだ。
陛下が救いを求めるようにメルハンデスに視線を巡らしているがメルハンデスは無視している。全く我関せずの姿勢だ。
普段色々と迷惑を掛けられている分、こういうところで溜飲を下げているようだ。目が笑っている。
「わしが直接聞いておくよ。」
陛下が絞り出すようにそう言うと憮然とした表情で玉座に座り直した。その後ずっと睨み付けていたが、御簾を下げると解散の宣言をした。




