第2章-第20話 べっど
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「離れなさいよ!」
翌朝、起きてからも鈴江がピッタリ引っ付いてくるのだ。終いには渚佑子がキレだした。
俺はというと決してデレていたわけでは無い、だが・・・。
「ダメ?」
鈴江はアキエそっくりの仕草で尋ねてくるのだ。これを卑怯と言わずしてどう言おうか・・・まあ、アキエが鈴江の真似をしているのだけど・・・。
「ダメでしょう。トムも何とか言ってください!」
渚佑子の怒りがこちらに飛び火しそうだ。
俺は、そっと鈴江を押しのけようとすると、またアキエそっくりのあの表情だ。
これを際限なく30分ほど繰り返しているのだ、流石に渚佑子もキレるだろう。
「お、俺は、下にいって来る。」
修羅場と化したその場に渚佑子と鈴江を残して立ち去ろうとミスリルのカードを翳す。
・・・・・・・
「へぇ、この人がねえ。トム殿、そんなに大切な人なんですか?」
忘れていたわけでは無かったのだが、2階に降りるとアポロディーナに捕まった。続いて渚佑子と鈴江も降りてくる。
鈴江のことを聞かれもしないのにペラペラと喋る渚佑子。
なんでこんなに慌てているのだろう俺は、何も疚しいところなんてない。はずだ。
「ああ、そうだ。娘にとってはな。」
これは事実だ。たとえ鈴江がアキエのことを覚えていなくても、アキエにとっては、大事な母親には違いないのだから・・・。
「ふーん。」
なんか室温が10度くらい下がった気がする・・・。
「それで買い物に行くのですよね。」
それでもアポロディーナは、手を差し伸ばしてくれる。
「お、おう。」
・・・・・・・
アポロディーナの案内で家具屋めぐりを行う。
「オバさんは、後ろへどうぞ。」
右腕をアポロディーナに左腕を渚佑子に取られ、鈴江は後ろから付いてくる
「私は18歳よ!オバさんじゃないわ!」
中身は18歳だが、若くは見えても外見は、それなりだ。正真正銘の18歳の渚佑子と20歳のアポロディーナには負けるのだろう。
大きな声で反論してみたものの、店先のガラスに映る自分の姿を見ると黙り込むしかないようだ。
思わず可哀想かなと思い、振り返ろうとするが、両隣の少女たちに阻止される。
「トムは、こっちでしょ。」
「ほら、こっちのベッドなんかいいんじゃない?」
・・・・・・・
「あら、ディーナ買い物?」
そこへ現れたのは、冒険者ギルドで仲間に加わってくれることになった。クリスティだ。
「伯爵様もいらっしゃるのね。」
こんな大柄な女性にウインクされると少しワザとらしい気がする。
こんなところで出会わなくてもいいのに、3人の女性だけでも持て余しているのにさらにもう1人加わるのか。
そんな俺の心配をよそに当然と言わんばかりに買い物の仲間に加わってくる。
一時的とはいえ彼女たちの住まいになるのだから、彼女たちの意見も聞いてみるべきだろう。
「いいのよ。そんなのは、簡素なつくりなベッドでいいのよ。あとは各自でコーディネイトするだろうから・・・こんなふうにね。」
クリスティが選んだのは、簡素だが丈夫そうな作りのベッドと少し少女趣味な枕カバーにベッドカバー。
「なによ。いいでしょ。私は可愛いものが好きなの。」
俺たちが何も言っていないにも関わらず、少し恥かしかったのか、早口で言い捨てる。
「君って、可愛いんだね。」
俺は、ついポロっと本音を漏らしてしまった。さっきの様子からして、八つ当たり気味の仕返しが返ってくると思い、身構えているとクリスティは、どんどんと真っ赤になっていく、本気で恥かしがっているようだ。
「そ、そんなこと、初めて言われたわ。」
ようやく、恥かしいのが収まったのかクリスティは、そんなふうに言う。
「渚佑子もアポロディーナもクリスティも同じ、1人の女性だよ。何も変わらないさ。」
「ねえねえ、私は?」
いい雰囲気をぶち壊してくれたのは、鈴江だった。
「君はアキエのお母さん、それ以外何者でもないさ。」
俺はそう思うことにする。もう引き返せないのは確かなのだ。
「伯爵様っていいわね。本気で欲しくなってきたわ。」
クリスティは、両手を渚佑子とアポロディーナに捕まっている俺に近づいてくる。いざとなれば、紐パンを使ってでも逃げ切ればいいのだと気楽に考えているのだが、もしかすると不味いだろうか。
このまま、紐パンを使えば渚佑子とアポロディーナを吹っ飛ばしてしまいかねないが両方の腕に力を入れておけば大丈夫なはずだ。
「やーめた。ディーナ、そんな顔をするくらいだったら、さっさと告白しちまいな。じゃなきゃ、本気で取りにいくぞ!」
どうやら、初めから煽るのが目的だったようだ。
あの真っ赤な顔も演技なのだろう。
彼女の意見を取り入れ、丈夫で簡素なベッドを台数分注文する。1週間後には届くようだ。
それからも、必要と思われる家具も彼女の意見を中心に皆で意見を出し合って決めていった。
あくまで天然な・・・。




