第2章-第17話 いすわり
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彼女たちダンジョン討伐に参加を希望する人たちには、1週間後冒険者ギルドの前に集まってもらうように冒険者ギルドに依頼書を書かされた。
「今日はありがとう。アポロディーナ、では7日後に。」
俺は、そう言い残すと裏の自宅に戻った。
「あのう。やはり、此処に置いてください。」
自宅前の自動ドアに鍵を掛けようとしていると、アポロディーナが大きな荷物を抱えて立っていた。
「だから、それは7日後に・・・。」
「監視役だと思って貰ってください。」
今日、支度金としてかなりの額のお金を戴いているから、それに関する監視役なのだろう。
それならば、理解できる。
理解できるが、彼女が寝る場所が無い。
3階には幾つかのベッドルームも存在するが、さすがに監視役をプライベートルームに入れる気にはならない。
渚佑子は、見た目が小さいから自分でも手を出すとは、思えないがアポロディーナは大人の女性だ。
奥さんたちが居ないこの世界、いつか自制心が効かなくなりセクハラ・パワハラ紛いなことをしてしまう可能性も無きにしもあらず、そんなことをしてしまえば、その後、襲ってくるであろう自己嫌悪の嵐で潰れて仕舞いかねない。
そんなふうに考え込む俺に渚佑子が手を差し伸べてくれる。
「置いてあげましょうよトム。これから、家具を選んだりするのでしょ。だったら、彼女の力が必要よ。今日のところは、彼女が持っている寝袋で2階で休んでもらえば、いいでしょ。」
渚佑子に事前に話してあった構想に沿って提案してくれる。
よく見ればアポロディーナが持つ荷物の中に寝袋が見えた。
いかんな、女性が近づいてくるときに限って思考が停止する癖が俺にあるようだ。
「そうだな。アポロディーナさんは、それでいいか?」
「はい!」
彼女は嬉しそうに返事をする。
彼女には、予定通り2階の個室を与える。
俺の構想では、彼女をパワーレベリングで一気にレベルを上げさせ、探索魔法などダンジョン攻略に必要な魔法をマスターさせ、俺が帰ったあと、彼女の元で攻略チームが運営されるようにするつもりなのだ。
・・・・・・・
「渚佑子は、こちらのベッドルームを使いなさい。鍵も掛かるしバストイレ付だ。疲れただろうゆっくり過ごしなさい。じゃあ、お休み。」
俺は渚佑子を3階のベッドルームに案内した。
「ちょっと待って。」
俺がそのまま立ち去ろうとすると、彼女が呼び止める。
「そうそう、ここには冷蔵庫もあるから、好きな飲み物を飲んでいいよ。」
「そうじゃなくてですね。『蘇生』魔法は、使わないんですか?」
「・・・・・・。ん。そうだな、日本に帰ってからでは、無理なんだよな。」
この世界の『蘇生』魔法は、属性魔法のように日本で使えないことは、事前に渚佑子から説明を受けている。
「そうですね。」
「それならば、帰る直前で良くないか?」
あの女の役目は、決っているセイヤのところへ連れて行って、アキエに会わせることだ。
アキエが希望すれば、一緒に暮らせるように手配してやってもいい。
だがそれだけだ。
俺は少々思考が冷淡になっていることを自覚しながらも、そういう思考を直そうとは思わない。
「あの人も苦労すべきです。」
苦労?
「復讐しろとは、言いません。だけど、男を渡り歩くだけのあの人ももっと苦労すればいいんです。この異世界ならば、勝手が違うでしょうし、攻略チームは女性ばかりだから問題ないと思いますが・・・。」
「幸子にどこまで聞いているんだ?」
俺の奥さん連中の中では、おそらく幸子が一番詳しいはずだ。
もしかすると俺の知らないことも幸子なら知っている可能性すらあると思っている。
あえて聞き出そうとは思っていないが・・・。
「おそらく、全てでしょう。出合いから結婚、出産、そして浮気、離婚、そしてトムに迷惑を掛けた数々の事件・・・。」
そういえば、出合いとかも喋ったし、教会での結婚式にもいろいろと手配してくれた。
出産も先輩としてのアドバイスは、いろいろ助かったのを覚えている。
そう考えると幸子には、助けて貰ってばかりだな。
もっと、大切にしなくてはいけない女性なのかもしれない。
「それに私がこの世界で命を落とすかもしれないでしょ。」
一番深刻なセリフなのに、清々しく爽やかな笑顔で言ってくる。
「それは絶対に無い!そんなことはさせない!」
俺は湯村さんを失った時のことを思い出し、強い調子で言う。
「そうですね。そこはトムを信頼していますが・・・。でもどんな状況で『蘇生』魔法が使えなくならないとも限りません。使うなら今しかないのじゃないでしょうか?」
まあ、確かに渚佑子の『蘇生』魔法がこの世界の人間に知れ渡ってしまったのなら、気軽に使えなくなる可能性もある。
「それにメルハンデスさんを蘇生したときの感覚が残っている今のほうがいいと思うんです。」
どうやら、どうしても渚佑子は今、使いたいようだ。
これ以上言って、渚佑子を怒らせるのも本意じゃない。
俺はあくまで使ってもらう側なのだ。
「わかった。では、お願いしよう。」
というわけで皆さんが嫌いなアノ人物が登場します。




