第1章-第10話 おためし
お読み頂きましてありがとうございます。
第三回なろうコンにて最終選考を通過しました。
皆様の応援、励ましのお陰です。ありがとうございます。
書籍化が決定しましたが投稿ペースは変えずにいきたいと思っておりますので、引き続きご愛読のほどよろしくお願い申し上げます。
「ん、どうした?トイレか?女子トイレなら、ここを出て右に16メートルほど行ったところにある、入り口の上が丸いところがそうだぞ。隣接している山形の入り口は男子トイレだから、間違えないようにな。」
交渉が終わり俺たちが元の部屋に戻ってくると、渚佑子さんがモジモジしだしたのだ。
異世界に来て、トイレの位置とか聞くのが恥かしいのだろう。
「違いますって。というか、何でそんなに詳しいんですか?」
渚佑子さんにジト目で見られてしまう・・・。
どこかの変態じゃあるまいし、別に女子トイレが調べたかったわけでもなく、城内を探索したからだ。
もちろん、陛下に許可は頂いている。
許可を出したついでに陛下にやって見せてほしいとお願いされたのだ。
どれほどの能力があるのかも知りたかったのかもしれない。
陛下に一番天辺の部屋から地下道に続く道があることを伝えると陛下は一瞬青い顔になったが、俺の耳元で代々の王に伝わる脱出用の通路だと教えてくれた。
よほど信用してくれているんだとうれしくなった。
「それでなんだ?なんか問題でも発生したのか?」
「いえ、あの・・・やっぱり、トイレに行ってきます。」
なにか言いづらいことがあるらしい。
『きゃーーーー』
渚佑子さんが、廊下に繋がる扉を開けようとしたときである。
遠くのほうから悲鳴が聞こえてきた。
この声は・・・。
アポロディーナの声だ。
俺と渚佑子さんは顔を一瞬見合わせるとその場から飛び出していく。
飛び出した俺は、即座に探索を掛け、アポロディーナの居るところを探る。
「こっちだ!」
迷路のような王宮の中を全力で突っ走ろうと思ったが面倒なので、渚佑子さんの手を取り、『移動』を使い、アポロディーナのすぐ後ろに現れる。
「お爺様ぁ!!」
「しまった!」
アポロディーナは床に横たわるメルハンデスの遺体に取りすがり、泣き叫んでいる。
宰相の手には短剣が握られており、その首筋から大量の血を流して死んでいたのだ。
メルハンデスが追い詰められて、変な行動をおこさないように、アポロディーナを引き止め、メルハンデスが罰されないように手を打ったつもりだったのだが・・・。
まさか、こんなに早く死に向かおうとするなんて思いもしなかったのだ。
「ちょっと、お退き!」
いきなり、何を思ったか、渚佑子さんがアポロディーナを引き剥がすとメルハンデスに向かって何か呪文らしきものを唱え始める。
酷く長い呪文だ。
呪文が終るとメルハンデスの首筋の傷は塞がり、しばらくすると目を開けたのだ。
「お爺様。お爺様!」
どうやら、渚佑子さんがモジモジしていたのは、彼女が『蘇生』魔法を使えることを伝えたかったらしい。
「ここは、いったい!ディーナ?この方たちは、どなたかな?」
目を覚ましたメルハンデスの様子がおかしい。
そこで渚佑子さんが耳元で囁いてくる。
どうやら、この世界の蘇生魔法は、施術者がペナルティーを受けるものではなく、受けた側の記憶の一部が飛ぶといったペナルティーらしい。
この点も渚佑子さんが言い淀んでいた箇所らしい。
俺が蘇生したい人間の記憶が失われることから、自分が行っていい魔法かどうか迷っていたらしい。
しかも、この世界の『蘇生』魔法を行使したことがなく、試しで行うべきことでもないことから悩んでいたらしい。
だが実際、メルハンデスの遺体を前に試行の意味を踏まえて唱えたのだということだった。
彼女の『知識』では、死後数分以内なら1日程度の記憶がなくなるらしい。
実際にメルハンデスの記憶が失われた期間は、俺が召喚された以降の記憶を含んでいるようなので、死後数分から数十分は経っていたのだろうということだった。
「入れなさい。これは国王としての命令だ。」
「ですが~・・・。」
後方の扉付近で陛下の声が聞こえた。
どうやら、宰相が自殺したとの一報に飛んできたらしい。
俺は、扉に近づき扉を開いた。
「貴様、いつのまに。」
目の前の兵士が目をむく。
俺は、その言葉を無視して陛下の耳元で状況を説明した。
「うむ。おいお前、宰相殿についておれ!アポロディーナ、もう大丈夫だ。皆付いてまいれ。」
アポロディーナは、呆然した表情のまま、カクンカクンと頭を上下に動かす。
兵士は命令された通り、部屋に入っていく。
連れて行かれた先は、執務室のようだ。
「重ね重ね。お礼を申し上げる。」
うっかり執務室という密室の中だったが、陛下に頭を下げさせてしまった。
「いえ、もうそれは・・・。メルハンデス殿は、今回はタイミング良く記憶を失って、今日自分になにが起こったのかを忘れています。ですが、だれかから話が伝われば、再び自殺をする可能性もあるでしょう。」
アポロディーナには悪いが最悪の事態を伝える。
「ひっ。」
宰相が再び自殺を図ったときの状況を想像したのだろう、アポロディーナが軽く悲鳴をあげる。
「では、どうすればいいと・・・。」
陛下が俺に尋ねてくる。
頼られるのは嬉しいがあまり俺が口を出すべきではない。
軽めのアドバイスに留めることにした。
「そうですね。無責任かもしれませんが、お2人で初めから正確なところを教えたほうがいいと思います。」
トムの世界とこの世界では同じ蘇生魔法でもコストが若干違うみたいです。
すみません、なんか浮かれてるみたいです(笑)
でも・・・こんなにたくさんの方に読んで頂けるだけで大変大変幸せ者です。
ありがとうございます。ありがとうございます。まことにありがとうございます。




