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第1章-第9話 えっけん

お読み頂きましてありがとうございます。

「どうだ。話は終ったか?」


「これは、陛下。たった今終ったところでございます。」


「アンドリュー・ディテオール・クリスチャン・アルバート・エドワード・アルテミスだ。」


 俺は立ち上がり握手をする。


 しかし、長い名前だ。


 英国王室もそうだが・・・もしかすると、俺も正式名は長いのか?今度、セイヤに聞いてみよう。


「チバラギ国侯爵トム・ヤマーダ・チバラギです。」


 とりあえず、まだ俺は、この人の臣下でもなんでもない。



 最低限の儀礼的な挨拶で済ませる。



 そう実のところ、例の魔法陣のことが頭にきている。



 全てを放り出して、『界渡り』魔法で帰ってしまうべきとも思っている。


 渚佑子さんは俺を巻き込んだと思っているだろうが利己的な理由で巻き込んでいるのは俺のほうだ。


 渚佑子さんを巻き込むのは不本意なのだ。


 元妻のように目の前で掌から水が零れてしまうような、あんな感触は2度と味わいたくないというのが本音だ。


 だが俺が行動しなければこの世界の人たちが死んでしまうのも嫌なのだ。


 全く嫌になる。


 なんて俺は利己的なんだ。


 たったそれだけの理由で踏みとどまっているのだ。


 目の前には、何よりも大切な従業員が居るというのに・・・。



 だが、ここに召喚されて話を聞いたのがソコにいる宰相とその孫娘だけなのだ。


 帰ってしまうのは簡単だ。


 とにかく、時間はまだたっぷりあるのだ。


 焦ることはない。


 まだ、この人から話を聞いていない。


 まだ、貴族でない人たちから話を聞いていない。


 辺境の村人たちが本当に困っているかもしれない。


 こうしている間にも、多くの人々が死んでいるかもしれないのだ。


 それを聞いてから、見てから判断しても、決して遅くはないだろう。


 渚佑子さんが俺が黙り込んでしまったのをどう捉えたのか、心配そうに寄り添ってくる。


 俺の不穏な態度に不満を持ったのだろう。


 宰相の顔は引き攣っていた。


「なにか。あったのか?」


 目の前の高貴な方は、その空気を読める方のようで少し肩の力が抜ける。もう綺麗事はいいだろう。


「いえ、あの、なにも・・・。」


 宰相がその場で言いにくそうにしている。


 この男も意外と正直なところもあるのかも知れない態度に如実に現れている。


 目の前の高貴な方もソレを読み解いたのだろう。


「臣下の無礼は、わたくしの不足の致すところ、何卒この国を救って頂きたい。」


 驚いたことに突然、目の前の高貴な方が膝を付いて、頭を垂れてお願いしてきた。


「陛下!」


 一国の主が頭を下げるなんてありえない話だ。


 しかもここは、プライベートな場では無い公式の場であるはず。


 意外と度量が広い人なのかもしれない。


「この男が何かをしたんだな。メルハンデス、お前いったいなにを・・・。」


 陛下が宰相に向かって詰め寄っていく。


 そして、気付いたらしい。


 宰相の足元に描かれた魔法陣を・・・。


「メルハンデス!お前という奴は!!」


 陛下がメルハンデスの首元を掴み締め上げている。


「陛下、すみませんが、交渉相手を変わって頂けないでしょうか。」


 もう俺は、その態度で十分だった。


 キレそうになっていた自分を押し留め、もう素の自分に戻っても、いいような気がした。


「ああ・・・・・・・・・。」


 陛下は、メルハンデスを放り出し一度はこちらに目を向けたが、下を向いて黙り込んでしまった。


「陛下、大丈夫です。さあ交渉を終らせてしまいましょう。」


 俺は口調を優しいものに変える。


「すまない。全く申し訳ない。なんて恥知らずな・・・。」


 俺はブルブルと振るえる陛下の手を包み込み、優しく微笑んだ。


「大丈夫ですよ。まだ大丈夫です。さあ、この国いやこの大陸の人たちを救うために始めようではありませんか。すみませんがメルハンデス殿は、席を外して頂けませんでしょうか。」


 真っ赤になっている陛下と真っ青になっている宰相を見ながら、俺がそう言うとよろよろと宰相がそのまま、部屋を出て行く。


「待ってください。アポロディーナ、貴女はそのままで。」


 アポロディーナが宰相に付いて行こうとしたが俺はソレを止める。


 なにも初めからやり直そうというわけではない。


 交渉事は、ほとんど済んでいると言っても過言ではない。


「初めに申し上げますが決してメルハンデス殿を罰しないでください。今回の件は、陛下の態度で十分に私に伝わってますから、まあああいう人も国には必要ですよね。」


 アポロディーナがハッとした顔で俺の顔を見つめてくる。


「ああ、有能な男なんだ。もう一度言わせてくれ。本当に済まなかった。」


 今度は近くに来て最敬礼で謝ろうとするのを押し留める。


「ダメです。貴方はこの国のトップです。私にはその態度で十分なんです。食事の用意があるのですか?お腹が空きました。食べながら進めましょう。」



・・・・・・・



 陛下を交渉相手とした話し合いは滞りなく進んだ。


 食事をすることで陛下の緊張度も少し和らいできたようだ。


 だが、陛下はどうしても今回の件で謝罪をしたいらしい。


「解かりました。では、あの魔法陣を頂けますか?偶々、渚佑子がアレのことを知っていたので助かりましたが、私には見分けがつきません。この世界のことを勉強するためにも、魔法陣のことを知っておきたいのです。」


 実は、この世界に現存している読心の魔法陣はアレひとつであることは渚佑子さんから聞いて解かっている。きっと国宝級のモノなのだろうがアレさえ手に入れれば、もう使われることは無いのだから・・・。


「ああ、もちろんだ。宝物庫にあるどの魔法陣も持っていってもらっても構わない。必要なだけ用意しよう。実は私は、この国の王でもあり魔法陣の研究者でもあるのだ。魔法陣の見方から使い方、メンテナンスの仕方まで何でも聞いてくれ。」


「あとそれと、この世界に聖女という存在はいらっしゃいますか?いや、『蘇生』魔法の使い手はいらっしゃいますか?」


 俺は、ふと思いつき聞いてみた。


 そう、元妻の蘇生を頼もうというのだ。


 マイヤーに負担を掛けずに蘇生できるなら万々歳だ。


「すまない。聞いたことがない。いや、聖女と呼ばれる存在が居ることは居るのだが、『蘇生』魔法が使えるとは聞いていない。アポロディーナ、お前のほうは、どうだ?」


「はい。蘇生が出来る魔法があることは、超古代文明の文献に載っていますが大陸中探しても、そのような者が居るとは思えません。居れば必ず情報が伝わってくるはずですから。」


ようやくトムらしさが出てきました。


いつもご愛読頂きありがとうございます。


感想と共に暖かいメッセージも頂けると嬉しいです。

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【新作】「ガチャを途中で放棄したら異世界転生できませんでした」
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