第1章-第8話 どくしん
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「あのう~。」
俺たちが案内されたテーブルの席と反対側の席に座ったところ、メルハンデスと顔を見合わせたアポロディーナが顔を引き攣らせながら、申し訳なさそうな声で話しかけようとするのをメルハンデスが押し留める。
「我輩の世界では、客人はこちらに座ると決っておるのだがなにか問題でも・・・。」
俺は平然と嘘をつく。
渚佑子さんが耳元で囁いた話によると彼らが勧めた席の下には特殊な魔法陣が設置されており、今俺が座っている席からあと少しのMPを投入すると魔法陣上にいる人間の表層意識が聞こえるというのだ。
つまり、心を読むというわけらしい。
余りにも卑怯な手段に下品な笑みを浮かべるしかない。
「いや。問題・・・は無い。」
メルハンデスは、懐から出したハンカチで大量に出ている汗を拭きながら、そう言った。
「ならば席に付きたまえ。話を始めようではないか。」
俺は、メルハンデスに席に付くように要求する。
そうするとメルハンデスとアポロディーナは例の魔法陣の上にソレを気にするような仕草をしながら座った。
渚佑子さんによると魔法陣を起動するのは簡単らしい。だが、これに気付いていることを今悟られるわけにはいかない。
「さきほど、アポロディーナ嬢に聞いたが、我輩たちの仕事は、ダンジョンの探索と停止ということでいいのか?」
「お願いできますでしょうか?」
ようやく落ち着きを取り戻したメルハンデスが言葉では一応謙った態度で聞いてくる。
「我輩たちが担当する箇所全て終るのがどれくらいの期間が必要だと見積もっておるのだ?」
「早くて2年、遅くとも5年で完了するかと・・・。」
「それは、出来ぬな。最長でも3年だ。それまでに帰還の用意をしておけ!」
一応、帰還のための魔法もあるらしい。
「とりあえず、当座の我輩たちの身分をどう考えておる?」
「申し訳ありません。今空位がなにぶん、伯爵位しか空いておりませんので、それでお願いできませんでしょうか?」
あの短い時間で爵位を用意できたのか。
宰相殿はかなり優秀とみえる。
「まあ、妥当だな。もちろん、法衣伯爵なのだろうな。」
ほかに領地経営までやらされては敵わない。
「そうでございます。もちろん、閣下を拘束させて頂くことになりますので、法衣侯爵レベルの年金額となります。」
金額を聞き、渚佑子さんの方を伺うとそこそこ妥当な額なようなので頷く。
「住居だが、貴族街の平民街寄りに土地と資金出してもらおう。」
俺は具体的な土地の広さを提示する。
実は、セイヤに頼まれた王宮へのエアコン設置のため、王宮の増築を前提に太陽光発電などの機器を設置済みの日本の建物を自空間に入れてあったのだ。
3階建ての鉄筋コンクリート作り、窓は二重ガラスになっており、快適な異世界ライフを送れることは間違いないだろう。
この世界の貴族は多聞に漏れず、平民と近い位置というのを嫌うようでその辺りの土地が余っていることは、事前にアポロディーナに聞いて解かっている。
「王宮内にご用意しようと思っていたのですが、それで構わないので?」
「手足となる冒険者は平民なのだろう?より近い場所に住むほうがなにかと都合がよいだろう?」
「閣下がそれで宜しければ、私のほうでは何も言うことはありません。」
メルハンデスは、神妙な顔でそう言うが若干顔がにやけている気がする。
渚佑子さんの『知識』では、相場などの変動する事は解からない。
だが、貴族街のそれなりの場所に邸宅を買い取って提供する場合と俺が言う場所に新しく建てる場合では圧倒的に前者のほうが予算的に多く必要なのだろう。
おそらく、この会議の場所を用意すると言いながら、そういった諸々の予算をぶんどるのに掛かった時間が大半だと思われる。
その見積もっていた予算よりも低い予算で上げられるなら、それはメルハンデスにとっても都合がいいに違いないからだ。
「それから、この都市に駐留している軍の傍に土地を貸してくれ。」
「はっ。と言われますと?」
「わからぬか?我輩と組むチームに我輩のやりかたに沿って動いてもらう必要がある。それには、訓練する場所とモンスター替りの兵士が必要なのだ。」
俺は空間魔法である程度探索が完了しているダンジョンを模倣した屋根の無い迷路を作り上げ、その場に兵士に潜んで貰い、俺の手足となる冒険者たちが確実に俺の指揮に沿った行動が可能となるまで、訓練するつもりなのだ。
「解かりました。とにかく、土地と軍の兵士を幾人かお貸しすればよいということですな。」
イマイチ解かっていないようだったがとりあえずは了承を得た。まあ、後でやってみせることになるのだから問題あるまい。
「そうだ。次に装備品や消耗品はこちらで我輩たちにあったものを調達するつもりだ。各国のオークションに参加する権利を頂きたい。」
防具は例の紐パンで十分だろうが冒険者たちに嘗められない程度には揃える必要がある。
だが本命は戦利品である魔法陣や魔石を売りさばくルートが必要だからだ。
「解かりました。では、支度金として1000万Gお渡し致します。さらに宝物庫にある装備を使っていただいてもかまいません。」
おそらく、これらの予算は召喚を行う際に必要経費として上げられていたものなのだろう。




