第1章-第7話 おえつ
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また、ゼススの死後2000年目にあたる今回の場合、いつもよりも倍以上のダンジョンが出現したらしい。
逐一、渚佑子さんの様子を伺っているとどうやら、最後の説明辺りに嘘が含まれているらしい。
俺の耳元へ口を寄せてきて話した内容では、各国はダンジョンをエネルギーを無限に生み出す鉱山と見なしており、冒険者に対しても浅い部分しか入らせないように厳命させていたらしい。
最深部に行きボスを退治することでダンジョンを機能停止させることができることは、超古代文明の文書でも明らかになっていたらしいが、深い部分に潜れる騎士団は調査もろくろくしてこなかったらしい。
100年ごとのダンジョンの増加に関しては失業者対策として冒険者となることが推奨されており、一定量の冒険者の増加で賄ってきたということだった。
それが今回の場合、倍以上のダンジョンが増加したことで、増えたダンジョンに対して冒険者が足らなくなったことで、にっちもさっちもいかなくなり、俺たちを召喚することで賄おうということらしい。
さらに各階のボスは、魔法陣を駆使して撃退しようとしてくるらしい。そのボスを倒すとその魔法陣を得ることができるという。
渚佑子さんは、俺たちに報酬だけ与えてその魔法陣や魔石も取り上げようという腹なのでは無いかという推測をしてくれた。
まあ、それくらいのことは有りえるだろうという気はしていたので問題は無い。まあ、どちらかといえば正直に話してくれたほうだろう。
そのあと、いくつかの質問を行い、彼女を解放した。
・・・・・・・
ようやく、渚佑子さんと2人っきりになった。
「社長だけでも、何が何でも早く帰れるように交渉いたします。」
その途端、彼女は私の前にひざまづこうとしたので慌てて停める。
「大丈夫だ。君は何も悪くない。責任を感じなくていい!」
「ですが・・・。こ、こんな・・・人を巻き込んでしまうなんて・・・それも・・・社長を巻き込んでしまうなんて。」
俺は、彼女の視線に合わせるように屈みこみ人差し指を唇につけて、シッと言った。
「トムだろ。トム。まだ城の中だ誰が聞いているとも知れない。」
俺は、微笑み彼女に笑顔を向けつつ囁く。
彼女は、少しくすぐったそうな顔をして涙が溜まった目を擦りつける。擦れば擦るほど涙が止まらないようで俺は、子供をあやすように彼女をそうっと抱きしめて、頭を撫でてあげる。
いい大人に対する態度としては、いかがかなと思ったが嫌がるそぶりも見せないのでそのまま、撫で続けると彼女の声は、嗚咽に変わっていった。
いままで、ずっと我慢していたのだろう。
気丈に振舞うことでなんとかこれまで歩いて来れたのだろう。
しばらくそのまま頭を撫で続けると嗚咽も収まり、顔を上げてこちらを見つめてくる。
全くこの子は美人さんだな。
泣き顔が絵になるなんて、これが幸子だったら化粧が崩れて酷い有様になっていただろう。
俺は彼女の目尻に溜まった涙をそっと指で掬い上げる。
「君は、もう俺の家族なんだ。大切な家族なんだ。心配しなくていい。全て俺に任せてくれてかまわないから。」
安心させるために社員への採用は女神の前で告げている。そう彼女は大切な従業員だ。
俺にとっては何にも変えがたい存在だ。
そう思いを込めて囁いた。
そうすると彼女の顔に笑みが現れる。
「はい。」
どうやら、大丈夫そうだ。
トントン
そこへドアがノックされた。どうぞというとメルハンデスとアポロディーナが揃って現れた。
「お邪魔でしたかな。」
俺たちが抱き合っているように見えたのか。
少しからかいの表情を浮かべてそう言ってくる。
「いや、少し彼女が召喚でショックを受けていてね。だが、もう大丈夫だ。な。渚佑子。」
「はい。」
彼女は、なぜか少し恥かしげに俯くように返事をする。
「そうでしたか。それは、なんと言っていいか。」
メルハンデスは、すぐにからかいの表情を引っ込め、言葉とは裏腹に落ち着いた声でそう言った。
そうだ。元凶はお前たちだ。
たとえ親愛のつもりであっても、そんな表情を浮かべる段階ではない。
今は反省してしかるべきなのだ。
「それで用意ができたのかな?」
「は、はい。」
「解かった。参ろう。渚佑子。」
俺は少し強張って見える渚佑子さんを傍に呼び寄せ、肩を抱き歩き始める。
・・・・・・・
その部屋には、中央にテーブルが置いてあり、ナイフやフォークが並べてあるところを見ると食事を行いながらの会談となるのだろう。
だが不思議なことに部屋の周囲には、一般の兵ではなく、召喚場所に居た魔術師たちが並んでいたのだ。
これはなにかあると思った俺は、隣の渚佑子さんに部屋に仕掛けがないか確認してもらった。
「あっ。」
渚佑子さんが声をあげかけ口を手で覆う。何かを見つけたらしい。
また出ました。トムの過剰な従業員愛。
さて、渚佑子さんが見つけたものとは・・・。
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