第1章-第6話 しんわ
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貴族を召喚してしまうとは思わなかったのだろう。
説明をする場くらいは用意していただろうが、それほど上等な場所ではなく、貴族相手では国の権威の失墜を招いてしまうような場所であり迎賓館クラスの場所では無いらしい。
そこで、至急場所の手配をしている様子だった。
今のところ相手は紳士的に振舞っている。ならばこちらも召喚を誘拐だと騒ぎ立てたりせず、切り札の1つとして取っておき紳士的に振舞うほうが交渉するうえでも得策であろう。
閉鎖空間である召喚場所でなんらかのアクションをおこすのは得策ではないため、なにもしないつもりだ。
本当は空間魔法で城内のマッピングを行いたいところだったが、たとえレベルの低い魔術師とはいえ、こんな沢山の魔術師の前で気付かれずに行うのは至難の業だ。
宰相が先導して歩き出す。
俺たちがそれに続いて歩き出すと後方から幾人かの魔術師が固める。
そのまま、城内を歩き出す。
召喚場所は、城内と棟続きとはいえ離れた場所にあるらしい。
そして、小さくはないが大きくもない部屋に通される。机の上に軽食やティーセットが置いてあるところをみると、本来ここが説明をする場だったのでは無いかと思われる。
「聞きたいことが沢山お有りとは存じますが、少々お待ち頂けますかな。侯爵閣下。アポロディーナ。お前は、ここで異世界の方々を接待することを申し付ける。よいな。」
「はい。お爺様。侯爵閣下、アポロディーナと申します。なんなりとお申し付けくださいませ。」
後方に数名付いて来た魔術師の中から、女性が進み出てきた。
ここの魔術師の制服なのか揃いのロープを身に纏っているのと背が低いので幼くみえるが指輪の『鑑』の情報によると年齢は渚佑子さんよりも若干上で20歳、その声は相応でしっかりした女性のものだった。
接待係として自分の孫娘を付けるということは、交渉が必要なこと以外、この世界についてはこの女性に聞けということだろう。
全くどこの貴族も回りくどくていけない。
俺もチバラギ国や英国で鍛えられていなければ、全く通じないところだった。
アルドバラン公爵は軍閥ということもあり、一般人に対する喋り方はそんなに大差ないのだが、貴族社会内部での会話だと言外に秘められた情報を読み解くのが大変だったのだ。
「うむ。よろしく頼む。」
「では、私はこれで失礼致します。」
「うむ。ご苦労だったメルハンデス殿。」
相手が貴族位を名乗らなかったということは、おそらく侯爵位よりも低い伯爵か子爵なのだろうから、名前呼びに留めた。
ああめんどくさい。
・・・・・・・
「それでは、アポロディーナ殿、この国のことや周辺国との間柄などを簡単に説明してもらってもよろしいかな?」
もちろん宰相が出て行ってすぐ質問を繰り広げたいところをグッと我慢して、彼女にお茶を入れて貰い、鷹揚な態度で十分に休息を取ったうえで質問を行う。
彼女は、我々がなんの予備知識も無いと思っているだろうが、渚佑子さんが最初の召喚で神から与えられたチート能力『知識』がある。
彼女が説明する内容の真偽が解かるのだ。
彼女の説明の中にどれだけ嘘や誤魔化しが隠されているかによって、今後の対応方法を変えていかなければいけないからだ。
そういう意味では、宰相の意を汲み行動できる彼女を残してくれたのは助かったと言えよう。
彼女の説明によるとこの大陸には遥か昔、クロナス帝国という非常に長寿な種族が治めている国があったのだが元々連合国家であり、その国々にある程度の自治を与え、クロナス皇帝の子供たちが治める頑強な体制が組まれていたという。
それが1000年以上治めたクロナス皇帝が亡くなると共に即位した末子のゼススが兄弟たちから領地を取り上げ、自分の子供たちに治めさせるように勅令を出したそうだ。
当然、ゼススの兄弟たちの反発し、領民たちも800年以上長く平和なくらしが続いてきたこともあり彼らに同調する領民が相次いだらしい。
そのことから、皇帝であるゼススとその兄弟たちとの国を2分する戦いが繰広げられたらしい。
最終的には、国中が疲弊しきり領民たちと国の行く末を案じたゼススの子であるアポロとアルテミスが裏切ることで決着がついたという。
2人の功労の意味もあり、帝都はアポロとアルテミスに与えられることになっていたが、この戦いで心身ともに傷ついたアポロはこの土地を離れたという。
大陸の寒冷地帯で山岳地帯だが山の恵みが多い北部がハアデス国、暖かく海に面した南部の農業国がポセイドロ国、寒流と暖流がぶつかるため海産資源の豊富な東部のデメテアル国、砂漠が多いが川も多く、特にワインの生産地として有名なセレスティア国があるそうだ。
時は流れ、長寿な種族も度重なる人族との混血により普通の人族のおよそ倍程度の長寿を持つ王として君臨して続けて居り、全ての国々が割と仲良く治めているのだということだった。
だがゼススの死後、まるでゼススの怨念が原因のように大陸中にダンジョンが100年ごとに発生しているのだという。
ダンジョンは、その入り口付近の魔獣が活性化することで、非常に危険な場所となるらしい。
ダンジョン内に居るのモンスターを退治すると魔石と呼ばれるモノが残される。
さらに各階にはボスモンスターが存在しており、ボスモンスターを倒すと魔法陣を得られるらしい。
超古代文明が残した魔法陣やダンジョンで得た魔法陣を有効活用するためには、魔石とMPが必要であることが解かっており、冒険者たちが日々の糧を得るために浅い部分のモンスター討伐を繰り返しているらしい。
各国も手を拱いていたわけではないのだが、どれ1つとして最深部に到達し、ダンジョンを停止させるには至っていないということだった。
序盤を少してこずっています。
やはり第2節と第3節の間を空けるべきだったのかも
さすがに第3節の全体を考えながらだとせっかくのGWも
いつものペースを守るのが精一杯みたいですね。
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