第1章-第2話 しりあい
お読み頂きましてありがとうございます。
なんと、第3回なろうコンの二次選考を無事通過しました。
凄い嬉しいです。
これからも今のペースで投稿していきますので、よろしくお願いしますね。
「ああ、なんだ。幸子さんの知り合いか?」
彼女が現れると重い雰囲気が払拭される。主にコミカルな方向にだが・・・。
「ええ、娘の中学の時の同級生。大変なのよ。この子。中学の時、神隠しに遭っていて、ご両親が・・・そのぅ・・・ねぇ・・・。」
さすがの幸子さんでも渚佑子さんのご両親が亡くなっていることは言いがたいようだ。
「ああ今聞いた。亡くなっているんだって?」
「そうなのよ。渚佑子ちゃん、社長に言っても大丈夫?」
「社長なんですか?もちろんです。幸子オバサマ。」
社長と聞いて目を輝かす渚佑子さん。そんなに珍しいだろうか。結構何処にでも居るんだがな。
「話してくれないか?幸子オバサマ?」
幸子さんにニヤっと笑いかける。そう言うとキッと鋭く射殺すような視線が返ってきた。おう、怖い怖い。
「お嬢様と呼んでくれなきゃ、話さないわよ。」
誰がお嬢様だ。
「ハイ。幸子オジョウサマ。」
それでも話して貰わないと困る俺は、イヤイヤなのが丸見えな答えをする。幸子さんとは普段からこんなやり取りをすることが多い。気の知れた仲というところか。
幸子さんもいい大人だから、こんなことでセクハラだなんだということは無い。他の若いバイトでは、こう行かない。
渚佑子さんは、そんな俺たちのやり取りが面白かったのか。それまで強張っていた顔が僅かに綻ばせた。意外と可愛いなこの娘。俺の好みとは違うがなかなかの美形さんだ。
「その神隠しで高校受験を失敗、彼女のご両親が懸命に捜索されていた。確か100円ショップにそのビラを貼ってあったこともあるはずよ。私も何かの助けになればと思って入り口や壁に貼ったもの。」
そういえば、以前幸子さんが勝手にビラを貼ったと問題になったことがあったな。俺は、いちいちそんなことに目くじらを立てるのもおかしいと思ったのだが他の従業員の手前、『俺に事前に話すように』と皆の前で説明したことがある。
まあ、そのあとでこっそり、商売や宗教、選挙に関する以外なら、俺の許可を貰っていると言っても構わないとフォローしたが・・・。
「例の件か?」
「そうよ。あの時はごめんなさい。勝手に貼って。」
「もう済んだことだ。それで?」
「うん。町内会でビラを配る手伝いをしたのだけど、夜間になっても配り続けようとする。渚佑子さんのご両親を残して、解散したんだけど。その後、そこに車が突っ込んでね。ご両親は、二人共亡くなったのよ。その時、町内会の会長だった私が喪主になってお葬式をしていた最中にひょっこり渚佑子さんが家の前に立っていたのよ。」
「あの時はありがとうございました。事故の保険や生命保険の処理は、幸子オバサマがいらっしゃらなかったら、何も出来ないところでした。今の私がここに居られるのはオバサマのお陰です。」
「そう思うんだったらオバサマは止して。」
「幸子お姉さまですか?」
「おいおい、そんな風に呼ばせようとしていたのか?」
お嬢様も無いと思ったが、お姉さまも無いだろう。
「何か問題でも?」
だから、怖いって。
「・・・・・・・・。」
「それで今日は、バイトの応募でも来たの?」
「あのう・・・。」
流石に知り合いに貴金属を売りに来ましたとは言いがたいのだろう。
「その通りだ。」
渚佑子さんは驚いた顔をこちらに向けるが、幸子さんに解からないようにウインクしてみせる。それだけで理解したようで笑顔を向けてくれた。
「この子なら信用できるわよ。中卒だけどうちのバイトに学歴は関係ないでしょう。」
「そうか。幸子さんの言うことなら、信用できそうだな。君、来週から、そこの100円ショップのシフトに入ってくれるか?」
「あら、人手ならこっちの貴金属買取ショップのほうがいいんじゃない?私も教えられるし、この子とっても賢いのよ。」
「うーん、少し言葉使いがな・・・。」
「そうねえ。じゃあ、しばらく100円ショップで使ってみて、その間に教えておくわ。」
その後、例の若頭事件で辞めたバイトの替わりに幸子さんの社員採用枠に彼女が入ることになった。
・・・・・・・
「ねえぇ。勇哉を返して、どこに居るのか知っているんでしょう?」
それから、俺は彼女に比重計の使い方を教え込んで居た。そんなとき、彼女に来客があった。
不審な女性だ。
髪を振り乱しながらも、メイクや服装に乱れたところは無く。悲痛な声をあげつつもどこか恍惚とした表情を浮かべている。
どうやら、渚佑子さんと同時期に同じように神隠しにあったと言われている少年の母親らしい。そのあたりの詳しい事情も幸子さんから聞いていた。
その少年は、この辺り一帯では名家と呼ばれる武者小路家で生まれたが素行が悪く、幼馴染で同じ中学の委員長が再三に渡って家に迎えにいったりしていたらしい。
そんな少年だったのでそのころには、親にも見離されて放置されていたらしい。
だが、2人が神隠しになり、渚佑子さんだけが帰って来た途端に大々的に新聞広告で捜索したり、テレビの番組で涙ながらに訴える両親の姿がみられるようになり、渚佑子さんの家にも度々訪れては、さっきみたいな言動で騒がせているらしい。
「営業の邪魔です。お帰りください。」
俺は渚佑子さんを庇うようにして言う。
「その女が私の勇哉を私から取り上げたのよ!」
「わかりました。警備員を呼ばさせていただきます。」
俺は内線で警備員室に電話を掛け、安田さんにお願いする。早速、来た警備員にその女性を引き渡した。
実はこれで3回目だ。今回は丁度監視カメラの前でやり取りして居たから、店に来た迷惑客という題でヨウツブに投稿してやるつもりだ。
この辺りの名家とは言うものの最近の言動でこの家の信用は地に落ちており、一連の捜索資金は家や土地を担保にして借りたようでこちらを害せるような影響力も資金力も無いことは調べてある。
さらに徹底して信用を落とすことで渚佑子さんに辛く当たれないようにしてやるつもりだ。
「申し訳ありません。」
「渚佑子さんが謝ることじゃないよ。向こうが全面的に悪いんだから。」
ああやって、嫌がらせをすることで、渚佑子さんは何度も中卒でなかなか仕事にありつけないなか、やっと得られた仕事も辞めるを得ない状況に何度も追い込まれていたらしい。
「安心して仕事に励んでください。仕事は厳しいだろうが一人前になれば、社員にも登用するし、君にはそれだけの実力も十分にある。こんなことでメゲてはダメだ。」
「はい!頑張ります。」
そして、見事に数日で比重計の使い方もマスターし、いろんな事例で客とのやり取りで詐欺に会わない方法も身に付けられたようだ。
実際には鑑定魔法を使ってくれるだろうが、比重計の使い方が解かっている前提だとある程度の権限を渡せる。
元々金貨を持ち込むために勉強したのだろうし他の店に行ったことなど経験したことで他店からの紹介案件もある程度担当させることができるようになり、俺の負担が軽くなった。
今では、幸子さんよりも貴金属買取業務については、詳しいほどなのだ。その彼女が半年ほどバイトを経験したあと、社員になるための面接を受けることになった。
これからは、ある程度こちらの事情も知らせて、主力社員の1人になって貰いたいものだ。
いよいよ、次話が社員登用の面接です。




