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番外編 おんじん

お読み頂きましてありがとうございます。


番外編 「翻」で出てきた馬が再登場です。

「貴方、大変よ。『サイレントシズカ』が・・・・。」


 彼女は恩人だ。山田ホールディングスがここまで大きくなれたのも、彼女の助言のお陰で大金を手にすることができたからと言っても過言では無い。


 彼女はGI賞馬だが1勝しただけで満足していた様子だったが、時折、俺が競馬場に顔を出して、指輪を『翻』にして喋りかけたり、スキンシップしたりすると、発奮して俺の目の前で勝ってくれた。


 もちろん、その度に彼女に賭けていた俺は儲けさせてもらったのだ。


 その彼女がGIを4勝したことで有名ジョッキーを騎乗させ、秋の天皇賞へ名乗りをあげていたことは知っていたのだが、ごたごたのお陰ですっかり忘れていたのだ。


 よく彼女とスキンシップを取っていたこともあって、調教師とも仲良くなっていたため、今回連絡を貰えたのだ。


「さつき。とにかくアヤを連れて見に行ってくるよ。最悪、彼女を買い取ってくるかもしれん。」


「でも、競争馬に会社のお金は・・・。」


「ああ、そうだな。もちろん、俺のポケットマネーだけど・・・。」


 ある有名経営者が競争馬を会社の経費で落としたことが大問題となり、株主側からも従業員側からも批判され、経営から退いた会社がある。


 結果、その経営者のワンマン会社だった会社は、あっという間に潰れてしまったのだが・・・。それ以来、個人が金を出すにしても経営者が競争馬を買うことに批判に晒されていることには変わりは無い状態だ。


 俺の会社はまだ株式公開をしていないが、競争馬を購入したことが発覚すればなんらかの批判に晒されるかもしれないのだ。


「まあ最悪、アルドバラン家に売ったことにするという手もあるしな。心配するな。」



・・・・・・・



「ひひひーひーん。ひひひひん。ひーひーん。ひーひひん。」


(会いたかった。もうこれで死んでも、悔いは無いわ。会いにきてくれてありがとう。)


 東京競馬場の厩舎に居た『サイレントシズカ』が必死にこちらに顔を向け話しかけてくる。今まで多くの仲間が安楽死させられて居る場面を見てきたのだろう。覚悟が出来ている目つきだ。


「何を言っているんだ。引退後は、俺を乗せてくれる約束だろ。」


 俺はそう言って傍に駆け寄り、鼻面を撫でてやる。


「もういいか?」


 後ろから、馬主が声を掛けてきた。


「これ以上、安楽死を遅らせれば経費が掛かりすぎる。もういいだろ。」


 俺の恩人である『サイレントシズカ』を買いたいと幾度と無く持ちかけたこともある馬主だったがその度に拒否されている。


「費用なら俺が出す。」


 たかだか、この場所を借りるだけの金額をケチるなんて・・・。何を考えているんだ。これから何億という金を生み出したはずが・・・。とか思っているのかもしれない。


「ほう。この馬を買ってくれるというのか、幾ら出す?」


「幾ら出せば譲ってくれるんだ?」


「そうだな。生涯獲得賞金額なら、譲ってやるよ。」


「永田さん!」


 調教師の彼が割って入ってくる。


「こいつに売れなきゃ、馬肉にして売るしかねぇんだ。仕方が無かろう?」


「永田さん!最後まで馬主らしく居てください。」


「わかった。6億5千万円だったな。」


 俺は、小切手帳を出して、金額を書き込む。


「お前馬鹿だな。ほら契約書も付けてやるよ。よかったな。馬主になれて、もうすぐお別れだけどよ。じゃあな。」


 彼はそう言って去っていった。


 彼から見たら、俺のしていることは、凄い馬鹿なことなのだろう。


 自分でもそう思うさ。アヤが居てくれなければな。


 でも居なくても、少しは躊躇したかもしれないけどやはり『サイレントシズカ』を買ったに違いない。


 彼女は恩人なんだ、何を置いても彼女を救うことに全力を尽くしたいと思うじゃないか。


「すみません。ここを1晩借りてもいいですか、今晩彼女と過ごしてやりたいんです。」


 俺が調教師の彼にそう、言うと頷いてくれた。


「よかったな。『サイレントシズカ』。トムさんが来てくれるといつもご機嫌だものな。そのトムさんが一緒に居てくれるなんて、お前幸せだな。」


 彼は、そう言いながら涙をポロポロと零している。


「すみません。貴方と彼女の時間を取ってしまって・・・。」


「かまわんよ。俺は、隣の部屋に居るから、何かあったら知らせてくれ。」


「はい。」



・・・・・・・・


「どうだ。アヤ。」


「大丈夫です。たかだか、骨折ですから。ただ、これからこの馬は・・・。」


「ああ、筋力が落ちるんだったよな。もう競争馬としては、絶望的かもしれんな。まあ、生きてさえ居ればいいんだ。なあ、お前。」


 そう言って、『サイレントシズカ』を優しく撫でる。


「ひ、ひひーん。ひひーひーひひん。」


(え、治るの。もう一度走れるの?)


「ああ1年くらい鍛えなおせば、きっと走れるさ。」


「ひひひーん。」


(まあ嬉しい。)


「でも、無理しなくていいぞ。直ぐに引退してゆっくり過ごしてもかまわないぞ。」


「ひひひーんひひーひーひひん。ひーんひひーひーひひん。ひーひひん。ひーんひひーひん。」


(トムのために初めて走りたいと思ったの。誰にも邪魔はさせないわ。たとえ、トムでもね。)


「じゃあ、アヤやってくれ。」



・・・・・・・



 『サイレントシズカ』が立ち上がる。まるで生まれたばかりの子馬のような足取りだ。


 その後の『サイレントシズカ』は、見事な復活を見せ、翌年に復帰するといきなりGIを破竹の3連勝、さらに翌年の春と秋の天皇賞も勝った。

次話から第3節が始まる予定です。


例の少女と異世界に行くお話しです。お楽しみに。


今週分に間に合ったので13時に投稿しました。

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【新作】「ガチャを途中で放棄したら異世界転生できませんでした」
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