第5章-第66話 しっぱい
お読み頂きましてありがとうございます。
さて、賛否両論どちらの意見が多いのでしょうか。
普通なら否定が多いのでしょうけど・・・。
大統領が各国首脳とホットラインでの話が終わり、ようやく俺の緊張も緩んだ。あとは、各国の治安部隊に任せるほかない。
「では大統領閣下。作戦途中ですので、この辺で失礼致します。」
「ああ、ご苦労だった。作戦成功を祈っている。」
「ありがとうございます。」
俺はウィルソン隊長の姿に戻し敬礼後、軍曹の後方100Mに移動する。
『軍曹、戻ったぞ。後方100Mの位置に居る。』
流石にいきなり軍曹の傍に現れたら間違って撃たれてしまう。たとえ例のパンツで跳ね返せるとはいえ、そんなことをさせてしまえば、軍曹の士気に影響を与えかねない。この作戦の要である軍曹の士気低下は作戦失敗に繋がるのだ。
俺がゆっくりと近づいていくと軍曹の疲れ切った顔が出迎えてくれた。
「隊長。なんとかしてください。この女。作戦執行中だというのに煩いんですよ。」
傍には元妻が居た。今度は軍曹に乗り換えようというのか?そんなことより作戦執行が優先だ。
「お前は、俺の傍に居ろ。作戦の邪魔をするな。」
俺は元妻の手を引っ張り引き寄せる。
「あら、強引なのね。でもそういうところもいいわ。」
元妻が変なことを言っているが気にせず、軍曹に報告を促した。
「はっ、申し訳ありません。隊長がいらっしゃらなかった1時間ですべて救出は完了しています。負傷者は若干出ておりますが犠牲者はゼロ。」
「わかった。では負傷者と人質をこちらに。それからアメリカ軍基地に転送準備を依頼。準備が出来次第転送を開始する。」
「イエッサー!」
軍曹が返事をして準備を開始した。
「ここで待っていろ。お前をどう扱うか上層部も迷っている。本当に改宗したのか?あの男の妻になったと言うのは本当か?」
元妻を他の人間といっしょに扱えば、改宗したことやあの男の妻となった情報が流出してしまう可能性もある。
「そうね。あの基地に居た宗教家の前で誓ったわ。もう誰も知らないことよ。皆、死んでしまったわ。それよりも、貴方のことが聞きたいわ。イギリスの伯爵ですってね。貴方のためならキリスト教に改宗してもいいのよ。」
そう言って元妻が身体を押し付けてくる。子供を産んだとは思えないほど引き締まったボディは健在だ。しかも俺と別れた後、かなり磨いたのだろう。さらに引き締り艶も出てきているようだ。
結婚当初に惚れこんだ彼女と比較しても、遜色無いほども美魔女っぷりだ。魔法は使えないようだが、この次々と男を誑し込む能力は魔法使い並みだ。だが彼女の正体を知っている俺には、彼女の魅力は全く効かない。
まあいい。
とにかく、このまま連れて帰れば、情報は漏れないと見ていいだろう。
さらに本人からも情報を漏れないように異世界に連れ込みセイヤに頼み込んで、後宮に軟禁させてもらったほうがいいに違いない。
あの男もアメリカで廃人になるほどの薬剤や機器を使い、洗いざらい情報を引き出された後秘密理に処刑される予定だ。あんな大物を抱えていれば、きっと組織が取り戻そうとテロ行為を始めるに違いないからだ。あのトンネルでの襲撃で死んだことにされるのだろう。
しかし、喋り過ぎだぞ軍曹。いくら矛先を変えたかったからと言って、伯爵のことを喋るか?
まあ、こいつの件は俺が処理するしかないのだろうけど・・・まったく。
「隊長。準備が完了しました。」
ちょうどフランシス軍曹が報告に来た。
「すまんが、こいつのお守りをもうしばらく頼む。部隊の撤退は、どこまで進んでいる?」
「はっ。この周囲に居る隊員を除き、全て完了しており、アメリカ陸軍、イギリス陸軍による包囲も解除しております。」
「よろしい。では人質たちを届けてくる。」
俺は、人質たちの待つ場所まで行く。人質たちには、栄養剤や抗生剤と偽り睡眠薬を使い眠ってもらっている。彼らを2人ずつ抱え、アメリカ軍基地まで『移動』していく。向こうでは、アヤが負傷者に対し治療を行ってもらう予定だ。
そして、最後の人間を『移動』で送り届けたときに無線に連絡が入った。
『こちら軍曹、現在、敵と交戦中。応援頼む。』
『わかった。応援に向かう。軍曹の目の前に現れるが驚くなよ!』
俺は、その場からフランシス軍曹の2M前方に背を向けて『移動』した。
そのまま、装備した機関銃で敵に向かって突っ込んでいく。敵も突っ込んでくる俺に向かって一斉射撃で応戦してくるがすべて例のパンツで弾きかえしている。
「うわー、化けものだー。」
右手で機関銃、左手で空間魔法で敵兵士たちの足元の地面に穴を掘り、即席の落とし穴で黙らせていく。10Mほどあるから這い上がれないだろう。おそらく200名は居たと思われる敵兵士たちはものの数分で全て黙らせた。
「軍曹。大丈夫か?」
「すみません。俺は大丈夫です。ですが彼女が・・・。」
目の前に元妻が横たわっていた。
死んでいるらしい。
「足に銃撃を受けたようなんですが、どうやらショック状態で・・・。」
・・・・・・・・。
俺のせいだ・・・。
俺が外聞を気にせず、他の人質と同じように扱っていれば・・・・・・。
俺が殺したんだ・・・・。
俺が・・・・・。
「うぉーーーーーーーーーーー!!!!!」
目の前が怒りに真っ赤になる。
もうそれが自分に対するものなのか・・・。
敵に向けたものなのか。
それでも、無作為に魔法を選択していたらしい。
『メテオ』
目の前に物凄い数の隕石が降り注ぐ。
後方の部隊を巻き込まなかった理性だけは残っていたらしい。
感情に引き摺られるまま、敵に隕石が延々と降り注いだ。
『トム!』
『トム!!』
『トム!!トム!!止めてちょうだい。あの人なら大丈夫よ。24時間以内ならマイヤーに蘇生してもらえばいいわ。ねえ、聞こえてる。聞こえてるなら、返事してちょうだい。』
マイヤーに蘇生・・・。
そうか。マイヤーは聖女だったな。
そして、ピタリと隕石が降り止んだ。
『ああ聞こえた。アヤ。すまん。大変なことをしでかしてしまった。』
俺は、軍曹のところまで引き返し。元妻の遺体を空間魔法の中に仕舞う。この中なら時間も止まっているから問題ないだろう。
「軍曹。大丈夫か?」
「はひっ。フランシス軍曹だいじょうふでありまひゅ。」
フランシス軍曹は、腰を抜かしてしまったようで呂律の回らない様子だ。
・・・・・・・
「そうか。蘇生できないのか。」
あれから、作戦の最高責任者である英国首相の了解を取り付け、異世界に『界渡り』した。セイヤへの挨拶と説明も早々に切り上げ、マイヤーの元へ『移動』してきたのだが・・・。
聖女の行う蘇生魔法は、実施すると一時的に最大MPと最大HPが半分以下になってしまうらしい。同じく出産もMPとHPをかなり消費するため危険なんだと言われたのだ。
「でも大丈夫よ。空間魔法で保存してあるんでしょう?ならば出産後行えば済む話だわ。」
俺はホッとすると共に申し訳ない気持ちで一杯になった。アヤにマイヤーが蘇生できると聞き、取るものもとりあえず飛んできたのだが・・・。
そんな負担がマイヤーに待ち受けているとは思わなかったのだ。
そんなことなら、このまま死なせるほうがいいかもしれない。
「ダメよ。アキエちゃんはどうするの?説明できるの?」
俺の顔色を読んだのだろう。マイヤーが詰め寄ってくる。
「でも・・・。」
「私なら大丈夫。出産後半年も経てば元に戻るから。それに蘇生魔法を使ったからと言っても日常生活に支障があるわけじゃ無いんだからね。それよりも、トムがあの人のことで悩んでいる姿を見たくないの。出産の半年後に蘇生させる。わかった?」
「すまん。」
「今日は、泊まっていけるんでしょう?」
感想でこの名も無き女について触れられたときは、ドキっとしました。
そうです。当たりです。
とりあえず、日本からは退場頂くことになりました。
でも、時にはトムもキレますねえ。
最近多くなってきている気がするけど・・・。




