第5章-第60話 どらごんこく
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「「「おじちゃん。ありがとう。」」」
俺が治療したゴブリンの子供たちが皆揃って、お礼を言ってくれた。どんな種族の子供であってもの、微笑ましいことには、替わりはない。
「どういうことだよ。長!俺たちの英雄をドラゴンなんぞに引き渡すつもりなのか?正気なのかよ!」
俺がドラゴン国に行くことが伝わると辺りが騒然としだした。英雄だなんて、そんなおこがましい。ただ俺は自分で勝手に憤ってこういう結果になっただけなんだ。
「おい。俺たちになにかできることは、ないか?なんでも言ってくれ。」
「それでしたら、アルメリア軍との詳しい戦況を逐次チバラギ国に伝えてもらえないでしょうか?もうすぐ、戦場からアルム大尉という斥候部隊が帰ってくると思いますので・・・。」
俺がドラゴン国に行くとなると、セイヤに依頼された件がなにもできなくなる。それだけは、避けたい。ゴブリン族側の詳しい戦況が正確に伝えられるなら問題はないはずだ。元々、そういった交渉のために派遣されたのだから。
「わかった。できるだけのことは、させてもらう。だから、生きて戻ってきてくれ。」
「ああ。また顔を見せるよ。」
ブルードラゴンが広場で元の姿に戻っている。この背に乗るのだが掴まる所が鬣の辺りしかない10Mほどの高さがある。アヤが『フライ』であそこまで連れていってくれると言ったがおっかなびっくりアヤに掴まっていったら滅茶苦茶格好が悪いことになりそうだ。
流石に英雄だなんだと言われているのにそれはないだろう。
そこで『移動』でアヤ共々飛び乗る。『移動』を使った感触では、ますますMPが減らないようになったように感じるところをみるとレベルが上がった恩恵があるようだ。
しかも、アヤの情報によるとニホンとの行き来は、1人でできるようになっているそうだ。その辺の魔法については、王宮の宝物庫に詳しい魔術書が残されているそうなので帰れたならセイヤに見せてもらおうと思っているところだ。
・・・・・・・
ブルードラゴンが飛び上がり、始めは必死に鬣にしがみ付いていたが、それほど風の流れが無いことに気づいた。表皮周辺は、なんらかの防護機能があるらしく直接風にあたらないようで、結構高い高度まで達したというのに全然寒くないのだ。
しばらく飛んでいると山が見えてきた。山頂は雪が被っているのでこの世界の富士山かもしれない。ブルードラゴンは、さらに南下して海に飛び出した。そして、ある島の周囲を周回するようにぐるぐると回り、やがて降り立ったのだ。
ドラゴンも普段は、人サイズで生活しているらしく、普通の街並みだ。ただ、他の街と違い結構な高さまで建造された建物が多い。高度の建設技術があるということは、高度な文明があるということだ。ドラゴンが穏健だというのも頷ける話だ。
ブルードラゴンは、人型になると案内をしてくれる。入り口には、トカゲの獣相をした獣人が出迎えてくれる。
「ごくろうさまです。そちらの方々は?」
ブルードラゴンに対して、獣人が敬礼している。
「チバラギ国の王族のトム殿だ。丁重に扱え。」
なぜか王族であることまで、バレている。さすがに偵察担当というべきところかもしれない。
「はっ。ようこそ、ドラゴン国へいらっしゃいました。」
「ああ、しばらく、やっかいになる。」
「では、私が同行致しましょう。」
入り口付近に居た2人いるうちの1人が案内を買ってでてくれるらしい。
まあ、入り口とはいえ、ドラゴン国に攻めてくる種族なぞいるはずもない。持ち場というよりは、ブルードラゴン殿の帰還に合わせて配置されていたのだろう。
「我は、ここで失礼する。王城で皆に引き合わせるので、皆揃ったら、迎えにいく。」
「あっと失礼だが、貴殿の名前を聞いてなかった。支障なければで構わないので教えて戴きたい。」
名前になんらかの呪術的な意味があっては困るだろうから、特に聞いていなかったのだがここで別れるなら聞いておいたほうがいいだろう。まあ、本当の名前に意味があるなら、通称を教えてくれるだろう。
「おっと、これは、失礼。俺たちの名前の発音は、人族には難しいだろうから、通称をお教えしよう。神明アキラと申す。改めてよろしく頼む。」
そうか。そう理由があったのか。しかも、人族っぽいというかニホン人っぽい、どこかできいたような名前だ。
「俺は、山田取無。これは、妻のアヤだ。」
「よろしくお願いします。」
「俺は、ゴンだ。」
隣のトカゲ人も合わせて握手しあう。
「では!」
そう言ってアキラ殿は去っていった。
・・・・・・・
アキラ殿と別れ、ゴン殿を先頭に街をぐるりと一周回る形で案内されていく。どうやら、アキラ殿が行った方向に王城への王たち専用の近道があるようで、遠回りになるが街を案内してもらいながら、ソコへ行くようだ。
街中では、トカゲの獣相をもつ獣人と目だけ違うだけで他に獣相を持たない竜人、そして、ドラゴンが変化している人間がいることをそれぞれ教えてくれる。
住んでいる人々も鷹揚な人たちが多いようで多くの人々がいるがほとんど、騒がしくない。ときおり、トカゲ人の子供たちが元気一杯に走っていくくらいだ。
市場には、やはり島国のせいか魚が多いが、食生活は人族とさほど変わらないようで、鳥や野菜も並んでいる。干物もあるようだ。
ドラゴン国に到着。
いよいよ、ドラゴン国の王に謁見する。




