番外編 おかえし
お読み頂きましてありがとうございます。
ホワイトデー番外編です。
本編は、もちろん12時に更新されます。
俺は、悩んでいた。これまで、飄々と生きてきてこんなに悩んだことがあっただろうか。いや無いだろう。
そう誕生日兼バレンタインデーのお返しだ。
我が社の女性社員の占める率は高くプレゼントをくれた人は30名を越えたのだ。本当は、それぞれの誕生日にお返しをすべきなのだろうが、とてもそんな時間がとれない。
「で、結局、散々悩んだ挙句にコレなのね。」
「ああ、値段的にもちょうどよかったしな。本当の意味でのお返しは、会社を潰さず将来に渡って雇用を続けて行く事だと思っている。」
お返しは、さつきにあきられてしまった。
牛丼のスキスキの限定メニュー、ステーキコースの試食会の招待としたからだ。
我が社独自のメニューで店舗毎1日1食限定で3000円のコースなのだ。
A2等級の国産牛丼は、全国で受け入れられ、牛丼のスキスキのV字回復の原動力となった。だが、購入しているかたまり肉には、わずかだが牛丼用に使いにくいヒレ部分も含まれており、柔らかさは十分だがジューシーさに欠けるヒレ肉を牛丼用に出すと、品質の均一が崩れることになりかねないため、未使用となっていたのだ。
肉そのものは、魔法の袋で保管されているのだが、そろそろ限界になりつつあったので、いろいろと商品開発を行っていたのだ。基本は、例の不祥事を起した精肉店のレストランの料理の焼き直しだ。
試行錯誤の結果、セントラルキッチンで大部分加工調理した料理だ。ステーキ肉だけは、職人さんの努力の結果、一定時間焼けばミディアムレアの焼き加減になるような厚みにした。
基本、利益は考えていない。注目が集まれば、国産牛丼の売り上げがさらに上がるからだ。1日1食を牛丼のスキスキに、さらに品質が上の肉は、ファミレスのカカスに若干の価格を上乗せして展開するつもりだ。
そういうわけで、今日は、ファミレスのカカスの我が社FC1号店を半日貸し切って、招待したのだ。料理は、実際に店舗で出されるものと同じように大部分をセントラルキッチンで調理されたものだ。各店舗の焼き担当者の研修も同時進行だったりする。
もちろん、試食代金や店舗貸切料は、俺のポケットマネーだ。
「では、かんぱーい。」
そこかしこで、グラスを合わせる音がする。
・・・・・・・
「ええと、なぜ居るんです?」
「試食会だろ。わしを呼ばんでどうするんじゃ。」
使われていないはずの喫煙個室にCEOが居たのだ。さすがに女性だらけの席で気にしたのか。ついたてで区切られていたのだが・・・。
「洋一さんや賢次さんまで!」
「いや、俺は、嫁に誘われてきたんだが・・・まずかったみたいだな。すまん。」
「僕は、十分権利があると思うけど?」
確かに誕生日プレゼントは、貰っていた。賢次さん宅に招かれて、手作り料理を頂いたのだ。デザートにガトウショコラが出てきたのは、驚いたけど他意はないんだろう。
「そうですね。帰ってくるのなら帰ってくるって、言ってもらえば招待状を渡しましたけどね。」
だが、ヨーロッパ駐在の秘書に聞いた話では、そんな予定は無いって聞いていたんだが・・・。
「そもそも、俺の個人的な知り合いには、誕生日に特別なプレゼントをお渡ししようと思っていたのですが・・・必要無いみたいですね。では、リストから外させて頂きます。」
異世界の魔法具にMPを込めた状態で渡そうとか思っていたのだが・・・。
「えっ・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・。父さんのせいだぞ!」
やはり、CEOの悪戯だったようだ。わざわざ、こんなことのために、高額な経費を使って呼び戻すことじゃないだろうに。
「お、お前も面白ろそうだ。と同意したじゃないか。」
そうなんだよな。この親子って、面白ければどれだけ経費が掛かってもやるからな。見習うべきなのか?
・・・・・・・
試食会の結果は、概ね成功だった。いくつかの指摘は、即刻改善にあたらせるつもりだ。
そして、お返しとしても喜ばれたようで、カカスのワインの在庫が尽きる寸前までいったようだ。我が社の女性陣は、健啖家が多かったようで後で追加されたワイン代金の額を見て驚いたのだ。
さて落ち担当は、この招待者の中に居たのでしょうか?




