第5章-第54話 ほうふく
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「幸子。湯村さんが亡くなった。」
「えっ。」
俺は、事の次第を全て打ち明けた。俺の報復作戦の参加もだ。
「そう。彼女が・・・。」
幸子と湯村さんは、ほぼ同時期に入社しており、親しい友人だったはずだ。
本当は、社葬を行いその全てを彼女に任そうと思っていたのだが、それはご両親に辞退されており、彼らは、ひっそりと湯村さんを見送りたいと仰っていたため、その意志を尊重した。
「私になにかできることは、無い?」
「ある。是非参加してくれ!」
「わ・。」
「すまんが、さつきは、留守を頼む。」
俺は、何かを言いかける彼女を制して声を掛ける。
「何分、あの国の周囲は物騒だ。幸子とさつきを2人共守れない。今回は、我慢してくれないか。この通りだ。」
俺は、机に手を付いて、頭を下げる。さつきが護衛という仕事に誇りを持っていることは、解かっているが彼女になにかがあっては、作戦を中止せざるを得ないのだ。危険度合いは、アメリカやイギリスの比ではないのだ。
「では、幸子は!」
「本当は、幸子も置いて俺1人で乗り込むつもりだったが、幸子にしかできないことをやってもらうつもりだ。」
今、考えている作戦には、彼女の『緑の手』が必要だ。
・・・・・・・
アメリカ軍の話では、空爆も通常のやり方では、民間人の被害が拡大するばかりで、大きく相手に損害を与えることは、できないそうだ。
それは、組織中枢の大部分が、建物の遥か地下数十Mのシェルターにあるからだと言う話だった。空爆では、建物を全て破壊するのが精一杯で、その下にあるシェルターに傷ひとつ付けられないそうだ。
ただ、衛星からの熱源情報で大体の場所は、判明している。
そこで、空爆までの1ヶ月の間にシェルターから、出てこざるをえないようにするのが俺の報復のひとつだ。
この国での活動は、ある人物の姿を借りている。こちらの宗教圏では、かなり有名な例の預言者役が多い、俳優だ。空爆する有志連合のなかにこの俳優をよく使う映画会社があったため、その伝手を頼り、会って姿を借りたというわけだ。
「もう、この国は、ダメだ。この向こうに神がオアシスを作られるだろう。」
と預言者を装い、俺は、アヤを連れシェルターの周辺を練り歩く。
「もうすぐ、雨が降る。」
と言った。簡単な予言も忘れずに行っている。
実際には、空間魔法でシェルターに対して斜めに穴を空けたあと、水魔法が得意なアヤが雨を降らせる。ここは、乾燥地帯だ。めったに雨は、降らない。
初めは、予言をバカにしていた人々も予言通り、雨が降ったことで若干信用する気になっているようだった。
雨を降らせて大量の水をシェルター内部に投入することで数箇所の扉から一斉に人が飛び出してくる。秘かにその場所を覚えておき、水が引かないうちにシェルターの扉に対して、空間魔法で『施錠』するのだ。
異世界では、闇属性の魔術師ならば誰でも『解錠』できる魔法なため、誰も使わない魔法なのだが、この世界では、俺以外には誰にも『解錠』できないはずだ。
まあ、入り口の全てを『施錠』できないとしても、中が水浸しで、使える入り口が減ったシェルターは、使いようがないだろう。空爆でその使える入り口が塞がったら中の備蓄食料で生きれる期間しか残されないからだ。
・・・・・・・
また、この組織の資金源は、戦闘で奪った油田だ。ここから採掘した原油を割安な値段で売りさばいて、闇の武器商人から武器を買いあさっているそうだ。
そこで、衛星写真から資金源となっている油田を深く調べたところ、その油田と同一だが、深い地層に広がる場所を見つけ、その土地を買いあさり、油田開発会社を俺と公爵家でケント王子やアメリカのコネを使い集めた資金で設立した。もちろん、代表は、アルドバラン公爵だ。
この国の周囲の国々は、元イギリスの植民地だった時代もあり、アルドバラン公爵家は、これらの国々に多くの伝手を持っていたのだ。
その伝手を使い、既に取り付くし放置された油田採掘施設を空間魔法で移築することで、わずか3週間で採掘を開始した。
もちろん、採掘の主要パイプは、オリハルコン製で作成し、掘削も空間魔法で行ったのは、言うまでもないことだろう。
おそらく、採掘を開始後、1週間程度で、あの国の資金源である油田からは、原油が一滴もでなくなるだろう。そうなれば、こちらの採掘施設を奪いに来るだろうが、その頃には、空爆が始まっているだろう。
・・・・・・・
そして、幸子の活躍の場となるのが、かの国とパレスチナ自治区との国境線付近だ。
さらに、この国は、周囲を荒野や砂漠で覆われているとはいえ、若干緑もある。これらの土地を空間魔法で根こそぎ奪い取り、パレスチナ自治区に移築する。
そこで、幸子の出番だ。彼女の『緑の手』で、この緑をこの地に定着させた上で各種耐性を付ける。そうすれば、周囲は砂漠という厳しい環境でも耐えうると思うからだ。
もちろん、俺の空間魔法で掘った井戸や、アヤに雨を降らせてもらい。溜め池を作る。この土地も公爵家が購入した土地だ。
そして、空爆が開始されると、あの予言を聞いた民間人なのだろう。沢山の人々が押し寄せてきた。
それからも、空爆が中断されるたび、かの国に向かい、明らかな非戦闘員に『治癒』を使いながら、パレスチナ自治区へ向かうように諭すのだ。
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