第5章-第53話 ふっとう
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本編は近未来の物語ですので、過激派組織の国は、某国とは違う架空の国です。
その情報とは、カーディフ伯爵邸があの過激派組織の襲撃を受けたのだという。邸宅は、ロケット弾を打ち込まれたようで、見るも無残な姿を晒していた。屋敷の人間の生死は、わからないそうだ。
俺は、取って返しアヤを連れ、セイヤにニホンに戻してもらうと、そのまま、ロンドンの賢次さんのアパートに飛んだ。
如何わしいパーティーがあったのかもしれないが、賢次さんとケント王子以外は、在宅しておらず、2人がガウン姿で出迎えてくれた。
俺が、事前に連絡しておいたのでケント王子が情報を集めておいてくれた。
ウィルソン伯爵をはじめ、一家は絶望的だという。さすがに湯村さんの情報までは、解からなかったため、運び込まれた病院を聞き出し、ヨークハウスから車を出してもらうことができた。
しかし、病院に到着するとそこにあったのは、湯村さんの遺体だった。遺体の損傷は、激しく。おそらく、即死状態だったのだろう。
ギリッ。
「トム!唇から・・・。」
思わず何もできなかった悔しさから、唇を噛み締めていたらしい。血が滴り落ちる。
生き残っていたのは、別棟に居た公爵だけだった。しかも、爆発に巻き込まれたのか、片足を損失しているようだった。
「トム殿・・・。すまない、お預かりしたシオリ殿まで巻き添えに・・・。」
彼の家族を全て失ったというのに、貴族としてもプライドからか、言葉を紡ぎだしているようだった。
「わしも、こんな身体になってしもうた。老体に鞭打って反撃の狼煙をあげたいがそうもいかないようだ。・・・・・・・・・・・・替わりに・・・・いや、民間人のお主にそのようなことを・・・・そんなことをすれば、息子に怒られてしまうわ。聞かなかったことにしてくれ!」
きっと、あのテロ事件のことを調べて、俺のことを知ったのだろう。まあ、ウィルソンのことだろうから、諌めたのだろうが・・・。
「条件があります。」
流石にこの後に及んで、あの組織にあの国になにもしないでいることはできそうにない。自重しようにも、怒りに頭が沸騰しているのだ。
「トム!」
横からさつきの心配そうな声が聞こえる。
「やってくれるのか。」
「秘密は、守って頂きます。もちろん、先頭に立つのは、公爵貴方です。」
「だが、この身体では・・・。」
「アヤ、できるか?」
「はい。」
アヤが、公爵の足に向かって唱える。損失した足の修復のみならず、全身の傷が消えてなくなる。
「おおっ。こ、これは。」
「これで出来ますね。公爵家の全ての力を俺の指示する通りに使ってもらいます。よろしいですね。さらに戦闘時には、この姿で行います。」
俺は、指輪を『偽』して、伯爵の姿を取る。
「おお、ウィルソン・・・お、おまえ・・・。」
公爵が抱きつこうとしてきたので慌てて元の姿に戻る。その途端、公爵は、ガックリと肩を落とした。
「申し訳ありません。本来なら、ご家族を亡くしたばかりの貴方にお見せすべきでは、無かったのでしょうが。どうしても、この姿で相手に報復してやりたいのです。」
「ああ。わかった。できれば、全て終ったあと、あの姿にウィルソンの姿になっては、もらえんかのう。」
「はい。それくらいなら。」
きっと、ウィルソンに向かって語りたいのだろう。
・・・・・・・
俺は、その場から、アメリカ大統領へのホットラインに繋ぐ。イギリスを中心とした報復作戦となるが、アメリカの援助も必要だ。
向こうも既に事件を知っており、大々的に報復を行うつもりだったようだ。既にアメリカ人もテロの被害者になっている。俺が報復することを伝えると全面支援を約束してくれた。
次にイギリス首相とのホットラインを開くと今回の件は、イギリス連邦に対する挑戦と受け止め、軍事作戦を表明するつもりのようだ。アメリカの全面支援を引き出したことを伝えた。
これにより、およそ1ヶ月後を目途にイギリス軍・アメリカ軍を中心とした有志連合による空爆が開始されることになった。
俺が報復に参加するのは、空爆までの1ヶ月間に行う陽動作戦と空爆直後の混乱期に行うSASによる人質救出作戦だ。
・・・・・・・
翌日、連絡した湯村さんのご両親がイギリスまでやってきた。俺が手を回したせいかビザも即日発行されたようで午後には、到着して遺体と対面を果たした。
「俺が傍に居ながらこんなことになってしまい。本当に申し訳ありません。」
俺は深々と頭を下げる。ウィルソンがテロの標的になることは十分に解かっていたことなのに、伯爵邸に滞在する湯村さんに危険性を十分に伝えなかったことを今更ながらに悔やんでいるのだ。
「社長の手続きのお陰で直ぐに詩織を帰宅させられます。ありがとうございました。」
湯村さんの父上が気丈にもそう声を掛けてくれた。
ご両親の了解を取りエンバーミングを施して貰い、頭の部分が広く、足元にゆくほど幅が狭くなっているコフィン型の棺桶の中に入れさせてもらっている。航空機による遺体の輸送手続きも既に完了しており、明日出発するご両親が乗る便で運ぶ手筈になっている。
さあ、主人公にどんな戦いが待ち受けているのか。乞うご期待。




