第4章-第47話 いせかいなのに
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「社内感情は、どうでしょうか?」
「割と好意的な見方をする社員が多いようだ。」
ゴンCEOが買収の発表の際に行った記者会見でラインズ・テレコムの組織的な関与の可能性を記者から質問されたときに全面的に否定したことがその理由らしいのだ。
「資金調達の面で、EUやロシアでは、行き詰まり感を得ていたから、日本の資金が流れ込むことで安心したのだろう。」
EUでは、各国の思惑がラインズ・テレコムのような多国籍企業の足を引っ張っていたのだろう。自国の資金が他国の繁栄に使われるのが我慢できないようで使い道を限定した融資になっていたらしい。
まず第1歩目は成功したと言えよう。あとはEUやアメリカ、日本、ロシア、アラブなど各機関との調整におよそ1年程度の期間が必要であろうと考えている。
とりあえず、今日のところは、握手を交わすだけとなり、お互いにコミュニケーションを十分に取り合いながら進めていこうということになった。来週には、彼らのアパートメントを訪ねる予定だ。
・・・・・・・
「よくやってくれたのじゃ。しかし、まさかああなるとは、思わなんだのじゃ。」
「そうですね。ただ少し心配ごとが・・・。」
「なんじゃ言うてみよ。」
「首相には、お話して情報の拡散の阻止をして頂きましたが、テロを阻止した人間が居たことは、伝わっており中国系米国人ということにして頂いたのですが、万が一、これが俺だとバレると大変なことになります。」
「そうじゃな。」
「ロンドン市警には、面が割れていますから、過激派組織が本格的に調査に乗り出してきたらと思うと・・・。」
実は、こう言ったことも考慮してロンドン市警では、身元は伏せたまま、大統領に身元保証して貰ったのだ。
「できるだけ、シティ・オブ・ロンドンを動き回らないほうがいいじゃろうな。ラインズ・テレコムは、シティ・オブ・ロンドンの外れにある高層ビルの一角にあるから、同じビルに拠点を持てばいいじゃろうな。わかった、手配しておく。」
「ありがとうございます。」
「念には念をじゃ。どうせ、交渉を進めていく上で拠点は必要じゃからな。そう気にせんでもええのじゃ。賢次なんぞ、週1000ポンドのアパートを借りよったのじゃぞ。」
「おそらく、客を招待できるようにでしょう。最上階のペントハウスでしたので凄く見晴らしは、よかったですよ。」
表向きは、俺が向こうに行ったときに生活する場にもなっているのだが・・・実は、違う。俺の生活拠点を首相にセキュリティが高いアパートを紹介してもらおうと交渉してみたところ、セント・ジェームス宮殿の一室を割り当てられたのである。
しかも、使用人スペースであったがケント王子の居住空間であるヨークハウスだ。さすがにCEOと言えど国家機密に関する事項なので詳しい報告はできなかった。
「今頃、友人を招きいれて、如何わしいパーティーでもやっているのじゃないかな。」
そういえば、賢次さんがケント王子と友人になったようで、日本に帰る前にケント王子を賢次さんの部屋に連れて行ったことを思い出した。女性スキャンダルが多い王室だから、如何わしいパーティーくらいは、あるかもしれないな。
・・・・・・・
「マイヤー今日は、隣に寝てもいいか?」
幸子と召喚後、幸子は静香と話があるらしいのでそのまま王宮に置いて、エルフの里に向かった。
実は、例のテロ事件の日から緊張状態が続いてうまく眠れないのだ。流石に不眠症は慣れているので睡眠薬を使って強制的にリセットを掛けているのだがなかなか戻らない。
今日は何もせずにマイヤーとお喋りをして、隣で手を繋いでもらうとすうっと寝られた。
翌朝は早い時間に目が覚めたが12時間以上寝た計算だ。
「なぜ、私に手をださないの?」
幸子の『緑の手』を借りるために王宮に戻ったところ、静香に捕まった。
実は、アヤやミンツの相手をするだけで精一杯だというのを表向きの理由にして、彼女に手を出していないのだ。幸子の手前、手を出しにくいというのもあったのだが、元女子高生だということもある。
別にニホンとは違い、青少年育成条例があるわけでは無いので未成年だからというわけでもない。せめて、ミンツと同じ18歳になるか、ミンツかアヤが妊娠したらと思っているのだ。
「ママに手を出したから?」
やはり、幸子が話したようだ。さぞ自慢げに話したのだろう。少し顔が強張っているようにも見える。
「それは、ないな。なぜ、そんなにしたいんだい?もっとゆっくりと知り合ってからでも遅くはないだろう?」
本当の理由は、これだ。まだ知り合ってから間もないのだ。マイヤーは出産要員だと言ったが、さすがにソレのための人間だなんて考えは無い。
「じゃあ、デートしましょ。」
「だから、今日は、幸子にやってもらいたいことがあってだな。」
「なら3人でデートしましょう。ママもそれでいい?」
「いいわよ。」
・・・・・・・
「トム。トム?泣いているの?」
静香を挟んで3人で手を繋いで歩いていると目頭が熱くなってきたのだ。
「ああ。100円ショップの経営が忙しくてろくに親子3人で手を繋いで出かけたことがなかったなと思ってな。・・・すまん。」
「私ってアキエちゃんのポジションなの?じゃあ、こうしましょ。」
静香は、幸子の耳元で何かを囁くと左側に回り込み、腕を組んでくる。右側からは、幸子が胸を押し付けるように腕を組んでくる。
両肘に当たる感触は素晴らしく涙も引っ込んでしまった。このほうがこの親子らしい。
幸子には、農村の雑木林を早期育成してもらいつつ、魔法耐性を付与してもらっている。雑木林は植樹済み。幸子が地面に手をつくとみるみるうちに植樹された木々が2Mくらいの高さまで伸びた。
この雑木林があれば、来年の今頃には、枯葉が堆積して辺り一帯十分に保水力を持つことになるだろうし、万が一戦争が起こったときでも、農村部の被害が最小限になるだろうという配慮でしている。
ついでに商業都市の周りに植樹した木々にも同じように育成と魔法耐性を付与してもらう。ここは、戦争が起こった場合に最後の砦になる場所だ。属性魔法を使った侵攻は防げるはずだ。
あとは、商業都市内部にも街路樹を植樹しており、ここにも育成と魔法耐性を付与。これがあれば、都市内で火事があったとしても類焼が防げるだろう。
「どうした?静香。」
あんなに元気一杯だった彼女がなんか暗く沈んでいる。仕事ばっかりでデートらしいデートをしなかったから、がっかりしちゃったのかもしれないな。幸子は、うれしそうに走り回っていたが・・・。
「私って役立たずだなって。」
落ち込んでいたらしい。
「いやいや、静香は、頑張ってくれてるよ。」
「本当に?」
「大変だろ。異世界で勉強。」
「受験に比べればたいしたことないわ。言葉の壁もないしね。」
「でも、頑張り過ぎるな。適当に気を抜け、始めから完璧にしなくてもいい。」
これは、いつも従業員に言っている言葉だ。人生は長いんだから、ゆっくり進んでも早足で進んでも対した差はない。頑張って行き詰まってしまうよりは、長く細く自分のペースで頑張ってくれたほうが管理する側も楽なのだ。
「でもママより先のほうがよかったな。」
話が元に戻ったらしい。親子だからこそ、幸子に負けたのが悔しいのかもしれないな。
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